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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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ダーリン!


 丁度BGМでまふまふさんカバーの「ダーリンダンス」が流れていたので。


 サブタイトルに特段意味はありません。まふまふさんが可愛かっただけです。可愛いは正義なんですよ……!














「――――」


 耳を澄ませ、その位置を割り出そうとする。


 が、斑に聞こえる悲鳴、怒号によりそれ――空間魔術師の所在地を推し量るのは困難を極めていた。


 気配察知最大レベルで発動。


 が、およそ半径数キロもの超広範囲において余すことなく対象を補足するその魔術でさえも真面に割り出すことは叶わなかった。


「クソッ……!」


 可能性は一択。殺されたのだ。


 『厄龍』の手口は悪辣の一言。


 故に、このような非情な現実はある程度は予測していたが、されどいざ直面してみればくるモノがある。

 空間魔術師は文字通りラッセルの希望そのもの。


 彼により戦場と法国その行き来を可能にし、『白日の繭』の回収を遂行し、早急に戦場へ再度足を踏み入れる。

 が、その算段はたった一手で瞬く間に覆された。


(護衛するべきだった……!)


 言うに及ばず法城は関係者以外立ち入り禁止。


 ライカやラッセルのようなそれ相応の重鎮ならばまだ許容されていただろうが、空間魔術師はあくまでも戦士。

 その立場は軽んじられて然るべきモノ。


 故に、たとえ緊急事態とはいえども機密性がなによりもなお徹底されている法城に入れば罷免、最悪処刑だ。


 無論、ライカもラッセルもそれは聞き及んでいる。


 流石に同行人の死刑を決定するのもなんなのでおいて行ったという次第であったが……どうやらそれは実に見当違いな判断であったようだ。


(どうするどうするどうする!?)


 決まっている。


 それは、法国において空間魔術を扱える輩を発見し、彼に助力を乞うことだ。


 だが、そもそも『清瀧事変』により戦力の大部分が廃墟へと向かった以上、そもそも魔術師自体が稀有である。

 その中から、空間魔術の担い手という希少な存在を探し出す。


 もはや、それはかぐや姫さえ生易しく思える程の欲求であった。


「……つくづく狂ってるっ」


 が、愚痴は言ってられない。


 あるいは、空間魔術が付与されたアーティファクトが存在するという可能性もシッカリと存在するのである。 

 ならば、まだ希望はある――。



――殺気。



「――っ」


 『流転』行使。 

 それにより滑走というよりかはスケートにもどこか共通する容量で、ラッセルはあらぬ方向へと跳躍した。


 その速力、既に光の域にさえ王手をかけるほど。


 無論、それによる代償も甚大だ。


「がはっ」


 明白に人体の許容量を上回る速力を実施してしまったことにより、さもプロボクサーにタコ殴りされたかのような激痛に見舞われる。

 既に意識さえも蜃気楼のよう。


 だが――それでも、その凶刃を回避することは叶った。


「――あら、躱しましたか。偉いですね」


「……上から目線でどーも、です。頑張ったご褒美に奈落の底に堕ちてくれた方が、ボクとしては好都合なんですがね」


「無愛想なことで。物理的に笑わせましょうか?」


「それは大層な死体アートのことでも差しているのかな~?」


「さてさて。それは、貴方がお静かになってから知り得ることになるでしょう」


「……はあ」


 思わずため息を吐かずにいられない。


 突如として生じ、ラッセルへとその凶刃を振るったのは彼であろうとも多少なりともくらくらしてしまうような色香を放つ少女だ。

 年齢にして17~18程度か。


 端正な容姿はもとより、男の劣情をこれでもかと催促する我儘ボディーを誇示した露出の多い服装も特色の一つである。

 加えたその濡れた瞳はこれでもかと妖艶さを増大させていく。


「……エッロ。行き場は戦場じゃなくてホテルなのでは?」


「おやおや。辛辣ですね」


「そりゃあね。あんたみたいな痴女としか思えない外装の女の子、嫌いなんですよね。ボクがこよなく愛するのは幼じy……6歳以上12歳未満のあどけくて純粋無垢な女の子だけだ。紳士だからね、ボク」


「……ロリk」


「おっと、あらぬ風評被害は止めてもらおうかっ」


「…………」


 少女の渋面が物凄く印象的だった。


 少女は「はあ……」とさながら疲れ切ったサラリーマンのように溜息を吐いた。


「……何この人。気持ち悪っ」


「傷ついた! ボク今物凄く傷ついた! 謝罪して! 誠意をもって謝罪して! 具体手には地に額を擦り付けながら!」


「……はあ…………」


「なんですかそのどうしようもないモノでも見るかのような眼差しは」


 正確にはゴミでも見下ろすような眼差しである。


 少女はやれやれと首を振り、そしてそれが極々自然な動作と錯覚してしまいそうな程に流麗な劇毒入りの短剣を投擲していった。

















 その手腕、まさに流れる水が如く。


 思わずラッセルも感心してしまう程である。


「まあ、ボクの速さの前では一切合切が無意味なんだけどね」


「――――」


 跳躍。


 次の瞬間、ラッセルは『最速』の異名に恥じぬ程の速力で迫りくる凶刃を回避してしまうが、更なる追撃が。


 直後、ラッセルへと弾幕ともいえる程の密度で幾多もの鋭利な刃物が流星が如き速力で飛翔していく。

 目を凝らすと、その刀身の先端には劇毒らしき液体が。


「……生粋の暗殺者、ですか」


「――――」


 これほどまでに洗練された動作、そして些細な間合いの取り方などを総合して、まずラッセルの推察は間違っていないだろう。

 少女から発せられる魔力には際限がなく、正に無尽蔵。


 だが――ライカ程でもない。


「――――」


「――ッ」


 タンッ。


 大地に深々とクレーターを刻み込みながらも、律儀ばことに足音だけは実にささやかにラッセルは飛翔する。

 その矛先は、棒立ちする少女――。


「甘いですよ、お坊ちゃん」


「それはこっちのセリフです」


 直後、少女は懐から重火器――明らかにリボルバーの類にしか思えないようなアーティファクトを握る。

 ラッセルの脳天へ狙い定め、その直後に銃声が木霊する。


 どうやら少女は本来ならば精通する筈もない現代兵器の心得さえもシッカリと理解しているようで、その腕前は流石としか言いようがない。

 照準は、ラッセルが数秒後踏み締めるであろう地点だ。


 ラッセルはそれから避けようとするが、彼の退路を飛翔する刀身にこれでもかと劇物が塗りたくられた刃物が阻害する。

 本能が付着した劇物の危険性をこれでもかと誇示していた。


 微弱に漂うその匂いが鼻腔を擽るだけで脳天へ激痛が。


 仮にこれを直接摂取すれば、いとも容易く死へと至れるだろう。


 そして、飛翔するその無数の鋭利な刃物はラッセルの退路のことごとくを邪魔しており、真面に微動することさえも至難の業となってしまった。


「意地が悪い……!」


 これが生粋の暗殺者。


 智謀により徹底的に標的を追い詰め、そして最後にはいっそ痛快な程に無慈悲に鉄槌を下すその冷酷さ。

 あるいは、存外お人好しなライカとは青天の霹靂だろう。


(この餓鬼、強い……!)


 真面に接近さえも許されぬこの状況下。


 ラッセルはその現状に歯噛みし――そして、刹那の間だけすっとその眼と閉じる。


「?」


 訝し気にこの激闘の最中で瞑目するという愚行を実施したラッセルをいぶかしげな眼差しを向けた。


 諦念?

 否。

 断じて、否。


 そしてラッセルはコンマ一秒後、カっと目を見開き――。


「――『流転』」


――そして、加速世界へと足を踏み入れていく。


 限度を遥かに上回った魔術行使により盛大に吐血、洪水のように鼻血が溢れ出し、眩暈さえ感じられる。

 が、それでも意識は鮮明で。


「――――」


 タンッ。


 そんな軽やかな靴音が戦場に奏でられていった刹那、なんら前触れもなくラッセルの輪郭が掻き消えた。


 もはや、この世界観においてラッセルという少年を認識できる存在なんてどこにも存在しやしない。


「――――」


 音速世界へ突入したラッセルは、急迫する幾つもの短剣を弾き飛ばしながら、大いに進撃を開始していった。

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