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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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時間稼ぎの死闘


 ラッセルさんサイドです















「――アッハッハッ!!」


「―――――」


 直後――哄笑が戦場に木霊した。


 そこには、明らかに目下の男とも共通したある種の狂気さえも感じ取れるような、そんなおぞましい嘲笑で。

 さしも男――朱紗丸であろうとも、目を剥かざるを得ない。


「……何が可笑しい?」


「全部! 一切合切だよっ」


「……狂人が」


 なんともブーメランな発言であったが、この時ばかりは流石にラッセルも朱紗丸と同感であった、。


 ライカは、ひしと嘲笑し終えると、一転。


 直後には、彼女を『帝王』たらしめる凛々しい仮面を被り、そした強かに朱紗丸を睥睨し――紡ぐ。



「――『シキちゃん』!!」



「――――」


――一切合切を捻じ伏せる、この世の不条理の体現者を。


 直後にライカの掛け声に呼応するようにして生じていったのは、さながらマリオネットのようなシルエットの無機物だ。

 その瞳に生気は皆無。


 が――宿った魔力は無尽蔵だ。


「やっちゃって」


「――――」


 返答など不要。ただ行動あるのみ。


 そう、顕現した直後に途轍もない勢いで唖然とする朱紗丸をシキがその巨大な両椀により雁字搦めにし誇示した。


 束縛から逃れようとする朱紗丸であったが、シキの力量はそれこそかつて『老龍』に近似する龍を刹那で葬り去ったほどだ。


 故に、流石の朱紗丸であろうとも、片手間でそれから逃れるという神仏の御業は不可能であったようだ。


「……どおりでなんら抵抗しないワケだ」


「そういうこと」


 もはや、朱紗丸の生殺与奪の権はライカが握ったようなモノ。


 それに対し、朱紗丸はどこか吹く風でなんらこの逆境に対しあるいは危機意識を抱いていないようにも思える。

 その事実にやや訝しつつも、ライカは問いかける。


「目的は?」


「世界平和」


 ドスッ。


 その返答を脳内で噛み砕いた直後、ライカはとってもいい笑顔で朱紗丸の脳天へと鋭利な刃物を突き刺す。

 あるいは、それは先刻の一件の意趣返しか。


 が、特段朱紗丸が苦痛に喘ぐこともない。


「生憎、我には痛覚という概念が存在しない。他者の悲鳴をご所望ならば、我ではない他を当たるのが賢明だな」


「ええ、そのようだね」


「――――」


――もはや、尋問は不毛。


 そもそも、これだけの危険人物を生かして帰らせるほどにライカという少女は図太くないのだ。


 ライカはすっと目を細め、朱紗丸を射抜く。


「――なら、死んで」


「――――」


 そこに、一切の慈悲はない。


 存在するのは、ただただ洗練された、どこまでも一途な殺意という恋心。


「潰して、シキちゃん」


「――――」


 ライカの勅命に対し、シキは一切言葉を発することもなく、ただただ機械的にそれを愚直に実行しようとする。


「――残念」


「!?」


――直後、白煙が吹き荒れた。

 

 否。

 朱紗丸を起点として吐き出されたそれは、明確に白煙というモノではなく、あるいは霧のようにも感じ取れた。


(目くらまし!? でも、そんなの無駄な筈っ)


 既に朱紗丸はシキにより厳重に拘束されている。


 それ故に、たとえその輪郭を泡沫のようの掻き消したとしても、結局のところそれは無意味でしかないのだ。

 だというのに、何故――。


 そう思案していた直後に、異変は起こった。


「――ぁ」


――具体的には、白霧が形を成し、ライカの脳天を刺し貫くという形で。


 痛覚?

 そのような概念、そもそも脳髄とう人体において魂よりもなお優先度の高い物質が破砕してしまっている以上、些細なことだ。


 存在するのは、空白。


 何も感じない。

 何も聞こえない。

 何も言えない。

 何も考えられない。

 何も、できない。


 真っ白。


 少女をライカたらしめる器官が欠損してしまい、血反吐を吐き散らす暇さえなく目を凝然を見開きながらライカは倒れ伏し――。


「――『聖典』ッ!!」


 寸前、そんな声色が強かに耳朶を打った。












 声音が囁かれるにの呼応し、それまで明白に欠如していた脳髄が徐々に修繕され、空白が埋め尽くされていく。


「っ」


「殿下……!」


 瀕死ながらも自身よりも先にライカの治癒を優先したラッセルの奮闘もあり、なんとか意識を取り戻すことができた。


「ラッセル……ああ、そっか。お世話になったね。小癪だけど」


「……口調、元に戻ってますよ」


「まあ、いいじゃない。――どうせ、それどころじゃないんだしね」


「――――」


 ようやく自身にも治癒魔術を行使し始めたラッセルを横目に、ライカは険しい表情で眼前の脅威を睥睨する。


――理不尽の化身、朱紗丸へと。


「ほう……よもや、これでもなお絶命しないとはな。感心感心」


「……成程、ね。これはスズシロくんの発言も納得できる?」


「?」


 一昔前、スズシロ・アキラは『厄龍』対策会議にて、どこか辟易したかのように疲れた表情でライカへ助言した。


――基本、『厄龍』一味って性格最悪なんだよね。


 頭目たる『厄龍』ことルイン、更にかつての『賢者』に、非人道的な実験行為を繰り返し実施した白衣の男。


「……そして、あんたってワケね」


 一度あえてシキに束縛され、そして土壇場で『白霧』を行使、最低最悪のタイミングでライカの脳天を刺し貫く。

 成程。


 確かにその悪辣さは、あるいは彼の頭目――『厄龍』にさえも急迫するような、それほどまでのモノだ。


「……意味が分からぬが、なんとなく雰囲気からして愚弄しているように思えるのは、我の気のせいか?」


「気のせいじゃないんじゃない?」


「そうか。ならば行幸」


「――――」


 朱紗丸は、特段激昂しない。


 なにせ、それが負け犬の遠吠えと認識しているのだ。


 あくまで、朱紗丸にとって人間とはモルモットですらない、心底度し難い下等生物でしかないのだ。

 果たしてこの世界に昆虫の罵倒を気にする物好きが存在するだろうか。


 否。

 断じて、否。


 きっと、朱紗丸にとってライカの声音はその程度にしか思えてならないだろう。


 つくづく、傲慢。


「……うわあ。こういうタイプ、私って昔から嫌いなんだよね。しかもどっからどう見ても無意識下でやってるし」


「戯れ言はそれで仕舞いか?」


「――――」


 もはや、朱紗丸にライカの声音を聞き入れる心算は皆無。


 後は、ただただ蹂躙するだけのだろう。


 ならば――。


「――ラッセル!」


「――。承知っ」


 ライカが声を張り上げ――それと同刻、ラッセルが猛烈な勢いで跳躍した。


「なっ……」


――朱紗丸の、背後へと跳躍した。


 逃亡。


 それが示す意味をこれ以上ない程に精緻にくみ取り、仮にそれを許容してしまえば本懐が果たせずご破算だと、そう結論づけ朱紗丸も高らかに飛翔――。


「――行かせると思う?」


「邪魔だ」


 が、その進行経路をライカが、文字通り肉壁となりて死守する。


 しかしながら朱紗丸にとってそれは停滞する由縁にはなり得ないらしく、そのまま頓着することもなくライカへ急迫。

 そして、その華奢な首筋へと太刀を――。


「――シキちゃん!!」


「――――」


 撫でる、その一歩前に紙一重で再度生誕したシキがその強靭な両腕により何とか崩壊間近になりながらも受け止める。


「――三分。それがこれを具現化できるタイムリミットだよ」


「……わざわざその情報を提示するとは。随分と殊勝な心掛けであるな」


「――――」


 既に、『白日の繭』はラッセルに任せてある。


 『最速』のことだ。


 『厄龍』が配置した手勢に対しても、なんら困難もなく容易に切り抜けてしまえるだろう。


 ならば――。


「――私は、それまでの時間を稼がせてもらう」


「来い」


 そして――命がけの時間稼ぎが、幕を開けた。



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