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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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桜花乱舞


 数か月前だした登場人物の名前完全に忘却してて、なんとか捜索に四苦八苦しております。


 作者の記憶喪失体質は相も変わらずなようですね。まるで成長していない……。


 あっ、ガバルドさん視点です。
















「――端的に言おう。私の半径五十メートル以内から離脱してくれないかい?」


 そう決別とした表情で明言するアンセルに対し、ガバルドはかつてない程に複雑な表情でツッコむ。


「お前まだ誤解してるな?」


「真理をくみ取っただけだよ、ホm――『英雄』くん」


「今俺の事を何と言おうとしたのかジックリ問い詰めせてもらおうか」


「ホモっ」


「……存外、傷つくモノだな」


 ガバルドは遠い目で明後日の方角を見据えている。


 そんな、彼に溜息を吐きつつ、依然満身創痍ながらも辛うじて立ち上がりつつ、すっと目を細めた。


「……言っておくけど、もう時間はないよ。かつて、あの手の輩は私の異次元空間も容易く打破した」


「だったら何故あらぬ嫌疑をかける」


「あらぬ……?」


「ああ、これがスズシロの気持ちか」


 何かと罵倒させる某自称騎士な男を想い馳せつつ、ガバルドは本題に入ろうとするが――その一歩前で、アンセルが目を見開く。


「――!? もうっ!?」


「…………?」


 目を丸くするアンセルの焦点はしばらく虚空を彷徨い――そして、最終的にガバルドの元へと帰結する。


「『英雄』。――もう、奴の魔の手はすぐそこだ」


「は?」


 思わず絶句するガバルド。


 が、アンセルはそんな彼をい厭うこともなく、どこか諦観した眼差しでそこからバっと飛び退いた。

 直後――轟音が、異空間を支配する。


「!?」


「ほらまた……」


 足場を形成する空間の一切合切がこれでもかと激震し、平衡感覚やらを奪い尽くしてしまっていた。

 そんな異常事態に目を白黒させるガバルドの輪郭が、直後掻き消えた。


 そして――『それ』が、襲来する。


「なんという……」


 思わずその形容を垣間見てしまい絶句してしまうアンセルを置き去りにし、それは猛然を異空間へ侵入する。


 異形は常人離れしたその膂力を以て本来ならば近くすることさえも不可能な筈の空間の境界線を的確に撃破。

 次の瞬間には、既に異形の巨体が視界を埋め尽くしていた。


(……さて、どうしたものか)


 本音を言うならば、とっとのこの異次元空間を人為的に崩壊させてしまい、一度戦局を整えてしまいたい所存だ。

 されど、それは絶対的な異空間というアドバンテージをかなぐり捨てるということと同義だ。


 既に『天呑』の魔術は披露してしまった。


 幾ら悪獣と化そうが――否、悪鬼羅刹たる存在だからこそ、異形はアンセルに再度この空間を構築する暇を与えないだろう。

 ならば――。


「……迎え撃つしか、ないね」


 もはや、縋る選択肢はそれに他ならないだろう。


 が、言うは易く行うは難しともいうべきか。

 一度異形の存在と対峙したアンセルだからこそ、自らがこの超常の存在を撃滅するのが如何に困難なのか理解できる。


 だが――躊躇する暇など、無い。


 仮にこの作戦によりガバルドが戦死でもしてしまえば、まず間違いなくアキラが企てる計略は水泡に帰す。

 そうなれば、此度の事変は散々たる結果で終幕してしまうことになるだろう。


 無論、魔人族の生存に懐疑的にならざるを得ないだろう。


 ならば、その最低最悪の未来を文字通し命を懸けてでも阻止してみせるのが『魔王』たるアンセルの宿命なのである。


「――『英雄』」


「……あ?」


 アンセル動揺、虚空を浮遊するガバルドは視線を傾けるアンセルを怪訝な眼差しで一瞥する。


 アンセルはそんな心外な視線に頓着することもなく、淡々と言い放った。


「『英雄』、君に提言だ。――逃げろ」


「……は?」


 その、余りにも突拍子もない声音にガバルドはこれ以上ない程に目を見開き、アンセルをまじまじと凝視する。


「……本気か?」


「ああ、もちろん。スズシロ君曰く、君に代わる保険は有るらしい。故に、私に君を命に代えても死守する義務も義理もない」


「なら、何故っ」


 要領を得ないアンセルの発言にいよいよワケがわからず狼狽するガバルドへと、彼は至極冷静に告げる。


「――それが、この上なく合理的だから」


「――――」


 ガバルドは微苦笑しながら「……柄すぎるな」と嘆息し、そして視線でアンセルに続きを催促する。


「君は『英雄』という立場でありながら私たち魔人族に対してさして憎悪を抱いていない。君なら、きっと人族と魔人族との懸け橋になれるだろう」


「……それだけか?」


「ああ。……強いていうならば――これは、あの時の君の温情へのせめてもの恩返しだよ」


「……温情?」


「ああ、そっか。覚えてなかったんだね」


「――――」


 どこか落胆したかのように、されど心の奥底では心底救われたかのような、そんな曖昧模糊な表情をするアンセル。

 その姿が、どこかもう居ない彼と重なって――。


「お前は……」


「まあまあ。それ以上の追及は、お互いこの死線を乗り越えてから、水入らずでゆっくり語り合おう」


「――。釈然としねえが、了解だ」


「ありがとう。君なら、そう答えてくれると思ったさ。……ここから南の地点にひた走るといい。きっと彼ならば、私とスズシロくんで組み立てた計略を伝えてくれる筈だから」


「そいつは僥倖だ」


 そう飄々と告げるアンセルに対し、虫唾が走るとでもいうかのように鼻で笑うガバルドの表情は、どこか寂し気で。


「死ぬなよ」


「死なないさ」


 そう言い聞かせる『英雄』に、『魔王』は屈託ない笑みを浮かべ――。


「――サヨナラ、団長さん」


「――ッ」

 

 親指をタクトのようにしなやかに振るう。


 その直後にガバルドの輪郭は、雲霞の如く掻き消え、文字通り夢のまた夢へと遠のいてしまったのだった。

















「――さて」


「――――」

 

 既に、『英雄』の離脱は確認できた。


 後は精々、『繭』始動の、その刹那にまで文字通り死力をつくし生存するだけであろう。

 一応ポーションの類は腐る程に持ち合わせているが、果たしてそれを服役できる暇が存在するのだろうかさえ定かではない。


 だが、魔王の瞳に躊躇は無かった。


「――――」


「――『天呑』ッ」


 直後、轟音と共に異空間がその薙ぎ払われた手腕により度し難い程に無遠慮に引き千切られてしまう。

 が、アンセルは特段焦燥することなく魔術を行使――直後、彼の姿形が掻き消える。


「私の魔術『天呑』にて生成したこの異空間の最中において、私はこの上なく自由。これを忘却してはならないぞ」


「――ッッ!」


 耳朶を打つ声音は背後から。


 次の瞬間、極限にまで研ぎ澄まされた異形の本能は背後へと鮮烈な一閃を浴びせようとする――が、感触は皆無。

 なにせ、既にその空間に殲滅すべき『魔王』の輪郭は存在しないのだから。


「火薬攻めは聞き飽きただろうから、これはちょっとしたサプライズさ。――『水塊』、『起動』っ」


「――っ」


 木霊するアンセルの勅命。

 『魔王』により文字通り掌握されたこの異世界はそれに順々に従い――直後、虚空に超巨大な幾何学紋様の魔法陣が浮かび上がる。


 が、直後に溢れだしたのは決してけったいな大魔術の類ではなかった。


 その透明質な魔法陣からは痛烈な質量の水塊がアンセルの意思をくみ取り出現する――ただ、それだけだ。

 無論、洪水程度では異形の頑強な肉体を破砕することは叶いやしない。


 故に、これは前座。


 そして――本命が訪れる。


「――『天呑・開放』っ」


「――――」


 詠唱。

 それと同時に虚空より篠突く雨の如く降り注いだのは、稲光する爆竹のような物体で。


「本来ならば純度100%の純水を併用するのが好ましいのだけど――今回ばかりは、これでもかと濁らせてもらったよ」


 そう、アンセルが口元に円弧を浮かべ閃光した次の瞬間、異空間の底地へ接触した爆竹が痛烈な白煙を上げ――幾筋もの鮮烈な電流が狂喜乱舞した。





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