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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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惨劇と、京劇


 アキラくん視点です













「――そういう、ことか」




「――ッッ」


 その、にじみ出る自尊心の一切を隠匿する気のない声音に、俺は即座に脚力を強化、そのまま飛び退く。

 が、レギウルスに関しては何故か棒立ちのままだ。


「おいおいアキラ、またか? 今度こそ捻り潰するぞ」


「――レギウルス!」


「……?」


 レギウルスも、ようやく張り上げた声音に何かよからぬイレギュラーが生じてしまったのは察知したのだろう。

 だが、その雰囲気は依然お気楽だ。


 なにせ、つい先刻同様の場面が有ったのだ。


 まして、それが悪質なジョークと発覚してしまえば、「またか」と、そう錯覚してしまっても問題はないだろう。


――仮に、レギウルスが今この場で『紅血刀』を握っていたら良かった。


 だが、悲しいかな。

 レギウルスは念を押して俺が『老龍』の滅亡を断言したため、その深紅の刀身を鞘に納めてしまっている。


 つまり――今は、その致命傷が文字通り命どり。


 ならば――。


「――ライムちゃん!!」


「分かってるわよ!」


 心が少々痛むが、背に腹は代えられない。


 そう決別と判断し声音を張り上げる俺であったが、ライムちゃんの手先に宿った魔力を看破した刹那それは不毛だと理解した。


「――『廻旋』」


「!?」


 詠唱。

 それに呼応し、なんら前触れもなくレギウルスの輪郭が消えうせ、代わりにそこにライムちゃんが出現する。


 『廻施』。


 これは転移魔術の簡易化だ。

 本来、転移魔術は位置の入れ替えなどという需要の限られたことを実行する必要性はないが、『自戒』の材料としてはこの上なく最適。


 転移魔術は存外高度かつ難解。

 それ故に、それを刹那で構築するのは、さしもかつての『賢者』であろうとも、不可能なのである。


 だからこその『自戒』だ。


 位置の入れ替え――つまり、身代わりになるリスクを侵し、その代償に極端に魔術構築速力を倍増。

 そして――危機一髪。


 何とか、紙一重でレギウルスの救出には成功。


 が――その対価は、余りにも大きい。

 なにせ――。


「――お返しだ、小娘」


「――ッッ」


 きっと、それは斬撃だったのだろう。


 だが、それはあくまで推察でしかない。

 なにせ、その男が振るった刀剣は常外の膂力により振るわれたことにより、もはやレギウルスでさえも目で追うのが精一杯なのだ。


 俺だなんて以ての外である。


 軌跡さえ認識できぬ神速の太刀筋。


 そして、それが齎した結論は絶大。


「――ぁ」


 もはや、亡骸さえも残さぬ無慈悲の悪意。

 その男が竜巻の如くその刀剣を振るってしまえば、そのコンマ一秒後――ライムちゃんが、誇張抜きに細切れになった。


「なっ……」


 そこに、容赦も情けもない。


 さも機械の如く、どこまでも冷徹に描かれた軌跡がなぞった箇所のことごとくは極小の因子に至るまでもが割断される。

 人肉など以ての外だ。


 刹那で披露された怒涛の斬撃が『廻旋』の余韻醒めぬライムちゃんは成す術もなく叩き込まれていく。

 もはや、生存の余地なんて皆無だった。


 なにせ、人体がご丁寧にも一口サイズにまでカットされてしまったのだ。


 これだけの重傷を負いながらもなおのうのうと生きていられる存在は、もはや生物の枠組みを遺脱している。


「お、おいアキラ、これは何の冗談っ」


「違う、レギウルス。――これは、冗句なんかじゃない」


「――――」


 レギウルスも、目下でライムちゃんが成す術もなく細切れにされてしまう光景を目の当たりにして疑惑も晴れたか。

 ようやく『紅血刀』を抜刀し、吠える。


「じゃあ、これはどういう冗談なんだよ。――どうして、完膚なきままに叩きのめした『老龍』が生きてんだよ!?」


 そう、『傲慢の英雄』はどこか投げやりに目下の男――滅した筈の『老龍』を睥睨し、声を張り上げた。

















「――落ち着け」


「――ッッ」


 十中八九、この薄情になりきれない男はたかが数分程度の付き合いであるライムちゃんが他殺されたことに義憤を抱いているのだろう。

 が、戦場で取り乱すのは愚策以上に滑稽。


 きっと、レギウルスは誰よりもなおそれを理解している。


 コイツ程に戦場に足を踏み入れた猛者も中々存在しないだろう。


 だが――理解と納得は、全くの別物。


「なら――なら、お前は目前で妹を殺されて、憤慨しないのかよ!?」


「……はあ。やっぱり勘違いしてるな」


「はぁ?」


 「やれやれ」と肩を竦める俺を、それこそであった当初のように敵愾心を剥き出しに睥睨するレギウルス。

 そんな彼へ、俺は一声を投げかける。


「熱くなってるところ悪いんだが……ライムちゃんは、死んでねえよ」


「――。――――。はあ!?」


「いや、マジで」


 ライムちゃんが先刻悪辣なる『老龍』の手により完膚無きままに切り刻まれてしまったのは一目瞭然。

 無論、通常の生物ならば生存など夢のまた夢。


 だが――ライムちゃんは?


「ライムちゃんは、いわばこの世界の特異点だ」


「――? どういう意味だ」


「そのまんまだよ。――つまり、あの子は『死』という至極当然の真理を知り得ないんだよ」


「……は?」


 もはや、激情さえもその衝撃という形容さえ生易しい声音で掻き消えてしまったのだろうか。

 

 レギウルスはまるで偶然にも宇宙人に街角で遭遇してしまった一般人のように頬を盛大に引き攣らせる。


「そ、それは一体全体どういう……」


「文字通り、不死不滅。俺もルーツは不明だよ」


「――――」


 絶句。


 いっそのことツッコむ気概さえも消え失せたのか、レギウルスはじっとライムちゃんの肉クズを見据える。

 よくよく目を凝らしてみると、どことなく蠢動しているような……。


「ええっ!? マジか!? マジなのか!?」


「まあ、驚嘆するその気持ちは分かる」


 多分、ルイーズさんとはまた異なった――どことなく、俺に通じるモノを感じってしまうのは気のせいか。


 ライムちゃんに不死性が発覚したのは二か月前。

 俺が『賢者』――メィリ・ブラウンの存在を消去し、それ以前に開花した権能でその記憶を咀嚼した際だ。


 なんでも、ライムちゃんの実年齢は既に千を遥かに上回っているらしい。


 まさかのリアルロリババアである。

 この時ばかりは、さしも俺も、相当この衝撃の事実に取り乱してしまったのは懐かしい感覚である。


「……信憑性は?」


「俺を信頼してくれっ☆」


「ライム……お前は、良いヤツだったよ」


「どうして即座にライムちゃんの死を悔やんでいるのか聞こうじゃないか」


 さてはこの男、欠片も俺のこと信頼してねえな?


 俺はそんな相棒に溜息を吐きながら、ちらりと横目でレギウルスを一瞥する。


「色々と言いたいのも分かるが、今は俺の声音を吞みこんでくれ。ちなみに復帰するのには、十分は要するぞ」


「……素直に朗報と言えない情報ありがとさん」


「どういたしましてっと」


 そんな他愛もない雑談を繰り広げながらも、俺たちの視線はとっくの昔に威風堂々とそびえ立つその存在に固定されている。


「ほう? 遺言か?」


「俺が、こいつに? だったら芋虫に告げる方がまだ有意義だな」


「オッケーアキラ。お前にはドロップキックの極地をとくと味わってもらおう」


「いや、いいよ。心配には及ばない」


「いいや、遠慮するな。俺はお客様のご要望にお応えするだけだ」


「だったらさっさと離れて! 宇宙まで離れて!」


「お前どんだけ俺のこと嫌いなんだよ。


 チョコレートが四個分くらいかな?


 が、与太話もこれくらいに。

 そろそろ、……そろそろ、目下の再来したこの脅威に立ち向かうための秘策を参謀らしく、編み出さないとな。


「さて……調子はどう?」


「貴様らのせいですこぶる付きで悪いな。是非ともそれを詫びて欲しい所存だ」


「そっかそっか。息災なようでなによりだよ」


「――――」


 そして――俺は、ようやく核心に触れた。



「――どうして生きてる?」




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