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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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 沙織さんサイドっス













「――さて。話を戻すぞ」


「そのコメント、幾度目?」


「お黙りレギウルスさん」


 それはツッコんじゃいけないことだ。


 ライムちゃんは目下で繰り広げられる不毛な茶番に呆れ果てながら、「はあ……」と溜息を吐いた。


「……お兄ちゃんとゴリラ、存外仲良しわね」


「火葬か土葬、どっちがいい?」


 レギウルス、気持ちは分かるが普通そんな殺害宣言を即答するのだろうかと是非ともツッコミたい所存である。


「……お兄ちゃん、浮気はメっ」


「レギウルス。自殺の名所を教えてくれ」


「お前もお前でどうなんだよ、ソレ」


 レギウルス、お前の気持ちがこれ以上ないくらい分かるよ……!


 釈然としない俺を横目に、レギウルスはライムちゃんの語弊を解こうと四苦八苦するが、芳しくないらしい。

 そりゃあそうだ。


 妹に条理を説き伏せようとするのが間違っていると思う。


「……おい、アホ。お前からも何か言えよ」


「諦めろ、もう打つ手はない」


「こ、こいつ悟りを開いていやがる……!」


 無視こそ真理である。


「まあ、妹と残念な誤解はともかく、さっさと言及して切り上げるぞ」


「そんなことよりこいつ語弊を解け!」


「レギウルス。――ドンマイ!」


「お前もうちょっと抵抗しろよ! この甲斐性なしが!」


 酷い物言いである。


 俺はなおも騒ぐレギウルスの頭部へ痛烈なチョップを披露しながら、もうわざわざ秘匿するのも面倒くさくなったので、端的に告げる。


「簡単に言うと、ライムちゃんが『老龍』の魔晶石に定番の『創造魔術』を駆使す干渉していったんだよ」


「待ってくれ。俺の切望をどうか無視しないでくれっ」


 知らんがな。


 レギウルスはもはや説得など不可能だとそう判断したのか釈然としなそうな渋面ながらも頭上に疑問符を浮かべ問いかける。


「魔晶石への干渉? んな魔術存在するのか」


「ああ、そういえばまだ言ってなかったな」


「?」


 その実、さほど険悪でもなく、いっそのこと友好的ともいえる両者であったが、接触した機会自体は限りなく微弱だ。

 初対面はレギウルスの奴隷人生をかけた大博打の際。


 それ以降もちょくちょく遭遇している間柄が。


 が、残念なことにライムちゃんとレギウルスが共闘する場面は皆無で、奴自身も生来付与された魔術に関しては無関心なのだ。


 それ故に知り得なくて当然か。


 ならば、返答は必然――。


「知ってるか? ――気合は、不可能を可能にするあだだだだ!?」


「成程。さてはお前答える気ねえな?」


 レギウルスはその膂力を以て俺の頭蓋骨を締め上げる。


 そろそろ、不平不満があればそれを暴力を以て訴える悪癖を直して文明人らしくなって欲しいと思わなくもない。


「まあ、実際気合縋りだったらしいよ。詳細は企業秘密ね」


「……人に言えないようなことなのか?」


「いえいえ! この品性行為の代名詞ともいえるアキラさんがそんな非合法に手を出すわけないじゃないですかあ。ちょっと吸うと気分がハイになる白い粉以外、なんにも怪しいモノなんて併用していないさ」


「幸せの粉、ダメ、ゼッタイ」


「安心しろ。二割冗談だ」


「俺としては残りの80%が物凄く気がかりなのだが」


「気にしたら負けよ」


 もちろん、これは冗句。


 ライムちゃんの魔術師としての手腕は言うに及ばず卓越しており、それは彼女の経歴を閲覧してしまえば一目瞭然だろう。

 それ故にドーピングなんて不要なのである。


「それに至るまでの手段はともかく、『老龍』の根幹……魔晶石へライムちゃんの魔術が干渉した。これだけを頭に留めていれば支障ないぞ」


「……続きを」


「へいへい」


 『創造魔術』は周知のとおり、ありとあらゆる魔術を行使する特権を付加する実に特異的な魔術だ。

 そして今回、ライムちゃんが選択したのは干渉魔術。


 改変魔術は基本的に物理、及び魔力因子双方に干渉するのだが、干渉魔術の適用範囲はあくまで有機物オンリー。


 が、それでは役割を全うにできないので、『花鳥風月』により因子にも直接接触できるようにした。

 ちなみに改変魔術を直接行使するのもありっちゃありだ。


 が、改変魔術は魔術という概念の根幹。


 そのような根底的な魔術を行使する場合、基本的に、浪費する魔力量も桁外れになってしまうのだ。

 『賢者』とて魔力は有限。

 

 このような小細工は彼女が過ごした無限とも言いとれる歳月の賜物か。


「……で、アキラ妹は『老龍』の魔晶石の何に干渉したんだ?」


「お前……まだ分からないの?」


「ちょっとお兄ちゃん! 失礼じゃない、そんなこと正面から言ったら! 気持ちはとっても分かるけどっ」


「お前も十分に失礼だぞ、アキラ妹」


 どうしてこんな子に育ってしまったのやら。


 実に親の顔を見てみたい……あれ、実質ライムちゃんの親って、もはや俺のことでは……。


 ダメだ。

 なんだかよく分からないけど、これ以上の熟考は禁物な気がする。


「アキラ、お前何変顔してんだよ」


「? 真面目に思案してるだけだが……」


「……そっか」


「おいレギウルス。どうして今俺の事を可哀想なモノでも見るかのような眼差しで見たのか釈明してもらおうか」


「なんでもない……本当に、なんでもないっ」


「申し訳なさそうな顔しないでよ!」


 最近どんどん侮辱手段が最新鋭になっている気がするのは俺の邪推なのだろうか。


 俺はなんとかレギウルスの実に殴打を催促するかのような顔面から極力目を逸らしながら返答する。


「で、レギウルス。もう答えは分かったよな?」


「分からないでちゅ」


「ライムちゃん。録画は済ませたね」


「もちろんよ」


「それは重畳。さあ、『創造魔術』で全土に『傲慢の英雄』ででちゅ語という見苦し……微笑ましい光景を公表するのだ!」


「委細承知よ」


「ちょっと待って欲しい」


 兄妹の間柄には、もはや言葉など不要。

 俺の魂の微弱な反応に過敏に反応していったライムちゃんは、一切躊躇することなくレギウルスの醜態を全世界へ晒すことを了承する。


 似た者兄妹とか言わないで欲しい。


「よし、分かった、この難題に正解すればいいいんだろ?」


 難題っていう程の問いかけじゃないがな。


「ヒント、せめてヒントをっ」


「ほう? 何を差し出す?」


「この男、こんな時に限って足元見やがってっ」


「ん? ちょっと何言ってるのか分からないなあ。――ライムちゃ」


「俺の全財産、くれてやるよ」


「お前はアホか」


 こいつ、どんだけ恥も外聞を気にしてるんだよ……。


 もしかしたら、レギウルス・メイカという男は存外世間の風当たりに対しては繊細であったのかもしれない。

 

「はあ……埒が明かないからとっとと提示してるよ。――ライムちゃんが干渉したのは、『老龍』の粒子化という権能」


「……あっ」


「いや、今気づいたのかよ」


「…………」


 レギウルスさん、とっても気まずげに目線を逸らす。


 俺はそんな小学生以下……否、そもそも学童と比較することさえもおこがましい存在を横目に淡々と言い放つ。


「俺も流石に粒子化自体は予想外だったとはいえ、一応『老龍』の不滅のルーツは想像ついていたからな。幸いなことに、粒子化は当初考慮していた可能性に、一つそれに近似するモノがあったから、それを基軸に動いてもらったんだよ」


「……それが、アキラ妹か」


「まあね。ホント、ライムちゃんには助かるわー」


「……お前、もしかして自分の妹を便利屋扱いしていやしないか?」


「失礼な! リアルドラ〇もんだとしか思ってないぞ!」


「ニューアンスだけでパシリの気配が伝わってきたぞ」


 確かに、アレもある種のパシリだな。


「基本、ライムちゃんにできないことはないからな。魔晶石へ干渉し、粒子化の権能を一時凍結した。後は狼狽している間にレギウルスが脳筋らしく気合で撃滅するだけってこったあ」


「脳筋って今言ったか、コラ」


「気のせい気のせい」


 色々と肝心な事項を隠匿しながらも言及したが、どれだけ足掻こうが所詮ゴリラ程度の知能であるのか。

 レギウルスはなんら疑念を抱くことなく納得したようだ。


「さて。そろそろ切り上げるか」


「ああ、そうだな」


「ええ」


 これ以上の長居は不要。


 二人も俺の判断には同感なのか、手っ取り早くこの結界から脱出し、沙織へ加勢しようとする。



「――そういう、ことか」



 その寸前――声が、木霊した。




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