説明会……?
アキラ君サイドです。
「……俺今、たけみ〇ちの気持ちがすごく分かるわ」
と、俺は未だライムちゃんんみ治癒魔術で修繕されていたのにも関わらず依然痛む顔面をさすりながら嘆息する。
そんな俺へ、絶対零度の声音が。
「そうか、それは僥倖だな。――じゃあ、死ぬ羽目になる前に口を割らないとな。ああ、それとも埋葬希望か?」
人は彼をヤ〇ザという。
「……ゴリラ。これ以上の狼藉は見過ごせない」
「お前……」
と、拷問に息も絶え絶えな俺と、そびえたつレギウルスの挟間に、今天使が降り立った。
その天使は、毅然とレギウルスを睨み、一言。
「貴方は何も分かっていない」
「……あぁん? そこをどけ、ガキ」
なんだろう。
こんなにも緊迫した状況なのに、どうしてこんなにも茶番臭がしてしまうのだろうか。
気のせいだよね?
そんなこと、有り得ないよね。
うんうん。
きっと、きっとそうに違いない。
「貴方は何一つとして理解していない。――普通、ここは拷問という名目でお兄ちゃんに女装させるべきでしょ!!」
「なっ……」
あっ、茶番だわ、これ(澄んだ瞳)。
絶句するレギウルスへと、ライムちゃんは畳みかけるかのように声音を吐露する。
「知ってる!? お兄ちゃんはね、女の子になるととっても恥ずかしそうに顔を俯かせるの! これ以上に奥ゆかしく清楚らしい姿が、他にある!?」
「そ、それは……」
「貴方には、その権限がある! ――お兄ちゃんを女の子にできる、その権限が!!」
「そうか……どうやら、俺が間違っていたようだな」
お前は間違っていないよ(切実)。
が、普段はさも当然とばかりに俺の深層心理を読解する癖に、今日この日に限っては何故かそんな心中のツッコミをレギウルスは無視する。
どうやら彼は難聴系主人公であったようだ。
「分かってくれれば、それでいいのよ……!」
「お前……! ごめんな、ぶっちゃけお前の事、血は血で争えないって、そうアキラと同類視しちまってた!」
「お兄ちゃんを侮辱したの? 殺すわよ?」
「そうかそうか……そんなにお前はお姉ちゃ……お兄ちゃんのことが好きなのか」
「話聞きなさいよ」
会話のキャッチボールって大事だなーって、そう心の奥底から思った。
というかレギウルス。
何故に俺のことをお姉ちゃんと呼称しそうになってしまったのか、その真相を是非とも究明したいな。
と、冷静にツッコむする俺へ、レギウルスは感動故かその瞳を潤ませ、一言。
「アキラ。――下着は、履かない方が好みか? それとも、履く方がお気に召すか?」
「ちょっと待って欲しい」
「?」
三段階くらい話がぶっ飛んでいる気がするのだが。
そもそも俺が女装することが大前提になっているような気がして物凄く悪寒を感じてしまったのだが。
というかレギウルス、お前俺の事「こいつなに言ってんだ?」的な眼差しで見ないで欲しい。
が、次の瞬間にはレギウルスは「ああ、そういうことか……」と、そう納得したかのように嘆息する。
ふう……。
流石のゴリラも、俺が何を指摘したかったのか理解したようだ。
行幸行幸――。
「そっかそっか。スク水に、下着もクソもねえよな」
「頭の病院の名医を紹介してあげるよ」
前言撤回。
このゴリラ――否、性欲の化身には交渉など完全に不毛であったようだ。
というか――。
「というかさあ、そもそも男の女装姿だなんて見るだけ損だろ?」
「「いいや、そんなワケない!!」」
「ライムちゃんもノリノリっスね」
そっかそっか、つまり君たちはそういう奴らだったのか。
戦争に勝利し、漢としての尊厳を喪失する。
これが俺と言う男の末路か……存外、呆気ないモノだったな。
「はあ……分かった分かった。答えてあげるから、女装はナシね」
「「狙い下げだ(わ)ッッ!!」」
「お前、もう趣旨完全に履き違えてるだろ」
拷問→女装大会。
どうしてこうなった。
もう、思考回路云々とか、その程度のレベルではない気がするのはきっと俺の思い違いではないのだろう。
それから俺の必死の説得により、なんとか二人が正気を取り戻した後。
「……さて。俺も女装姿が全世界にばら撒かれるのは嫌なんで、そろそろ言及させてもらうとするか」
「そうだよな。お前の女装姿なんて、ただただ気色悪いよな」
「お前数分前の自分の形相鏡で見て来いよ」
この男、もういっそのこと尊敬の域に到達してしまいそうである。
「お兄ちゃんの写真集は後で独自に制作するとして……そろそろ、私もこの茶番に終止符を打ちたいわね」
「俺もそれに携わろう。――ふむ。確かに、これ以上不毛な会話を繰り広げるのも愚策以外の何物でもないな」
「レギウルスさん、心の本音が漏れ出てますよ」
これが『英雄』の所行かっ。
そうツッコみたくなる今日この頃である。
「……さて。皆の衆、静粛に」
「この世で一番うっせえ野郎が何言ってんだ」
「シッ! お兄ちゃんが格好つけてる最中でしょ!」
泣いてない。
泣いてないったらないのだ。
「……そろそろ、この茶番も終幕しなくちゃな」
「こいつ何言ってんだ」
「お兄ちゃん。ブーメランっていう概念、知ってる?」
こいつらだけには言われたくはない。
俺は鉄拳で阿呆な両者を叩きのめしたのち、滔々と語る。
「『老龍』の不死不滅、それを成立させていたのは、ひとえに魔晶石の粒子化だ。分子レベルで分解されたそれを破滅させる手段なんてどこにもねえからな」
「……お前の魔術はどうだ?」
「アホって検索したら真っ先にヒットしてそぅな男がなんかほざいるぞ」
「まあ気色が悪い」
「お前らの毒舌はもう血だろっ」
俺たちは事実を述べたまでである。
「……俺の魔術には辻褄合わせの誓約が存在する。それ故に、たとえ『老龍』を消去しようが、また新たな脅威が生じるだけだ」
「だわ。これで何度目かしら」
「35お――」
「そのブームはとっくの昔に過ぎ去ったわ」
「…………」
最近、徐々に妹からさえも、扱いが雑になっているような気がするのは、俺の邪推の類であろうか。
「話を戻すぞ。つまることぶっちゃけ、俺も粒子化は想定外だったんだよね」
「へえ……お前でも?」
「そもそも前提知識が抜け落ちてたんだよ」
「言い訳だな!」
「お前、良い笑顔で的確な指摘を……!」
是非とも殴りつけてやりたい、その顔面。
「いやさあ、俺もある程度は『老龍』の知識は会得しているんだが、それに限りがあってな。文献にも無かったし」
「アキラが……読書!?」
「そこ、驚く?」
資料漁りは必要最低限の行為だ。
だが、この男は何故そんな自明の理に驚嘆しているのだろうか。
つくづく疑問である。




