打開策
とうとう超えてしまった1000の大台です!
たった一年でよくこんなに投稿したなあ……とつくづく思えます。
どうぞ今後も拙いですが、「器用値」を宜しくお願いします。
――やっちまいな、相棒。
その忌々しい声音が耳朶を打った瞬間――レギウルスは条件反射ともいえる反応速度で『老龍』へと疾駆する。
「!?」
「――――」
無論、『老龍』も突如として自らへ疾風迅雷の勢いで急迫する巨躯に目を剥くが、それも一瞬のこと。
次の瞬間には迎撃の準備は万端となっていた。
「――『雷針・霧雨』」
「――ッ」
『老龍』の詠唱に呼応し、四方八方からスパークを帯びたその無数の鋭利な刃先が、猛烈な勢いで吐き出される。
その速力はジェット機さえも霞むだろう。
無論、レギウルスの身体能力は規格外の一言。
それ故に、これだけの物量さえも、さも当然とばかりに軽やかに躱すだろう。
が――今現在の目標は、『老龍』の寝首。
というか、そもそもの話これだけ接近しておいて退避だなんていう無様、あの『傲慢の英雄』が晒す筈がない。
「――――」
だが、悲しいかな。
矜持だけでは窮地から脱することは叶わない。
レギウルスの意識は如何に短時間で『老龍』の懐へ潜り込むかに絞り込まれており、他は蚊帳の外である。
そんな彼へ、おびただしい物量の篠突く凶器が殺到する。
「――滅びよ」
「――――」
『老龍』の魔術師としての力量は言うに及ばず。
さしも人知を超えた強靭な肉体を保有するレギウルスであろうとも、これだけの弾幕の凶器を喰らえばただでは済むまい。
豪運がこれでもかと作用してでも致命傷。
最悪即死だ。
さて。
ところで、何故レギウルスはこの絶対絶滅の戦局を誰よりもなお理解しているのにも関わらず、意識することもないと思う?
ゴリラだから?
……ヤバい。ぶっちゃけ俺としてはそっちの説の方が有力な気がしたのだが、気のせいということにしよう。
閑話休題。
確かにレギウルスが図太く豪胆な性格なのは周知の事実であるが、それでも奴は大局を見誤るような人材じゃない。
その程度もできないような手駒、こっちから狙い下げだ。
「はあ……ホント、厄介だなあ」
『老龍』にも告げた通り、戦局は生き物だ。
それ故に幾ら俺とはいえどもその一々を予測し、対策するだなんて時間的にも、情報的にも不可能である。
だが、即興劇でも相応の品物になるのだろうか。
ある程度の大前提は目途がたっていたので、俺はそれに従い、アドリブながらもこの逆境を打破すべく計略を立案した。
今ではレギウルスも立派な魔術師。
それ故にこれまではほとんど魔力を有さないが故に聞き取ることもかなわなかった『念話』も十二分に機能するだろう。
『老龍』相手にそれを秘匿するのも中々に難解だったが、上手く伝達できてなによりである。
「――――」
まあ、幾ら根拠を提示されようが、自らの身が朽ち果てる可能性が多分にある作戦に嬉々として乗っかるのもどうかと思うがな。
ドM?
マゾなのかな?
……散々レギウルスを殴りつけたので、あるいはその類の性癖が開花してしまっているという可能性も……。
(リア充な上にゴリラ、更にM……癖強ッ!)
いよいよキャラが定まらなくなってしまった『傲慢の英雄』。
後でメイルには恋人の豹変を土下座を以て詫びる必要性があるだろう。
「いや、それも面倒だなあ」
そう嘆息する俺は、即座に構築していた陣に魔力を宿す。
レギウルスの秒速さえも上回る勢いで、俺の全身全霊の技巧により超速で陣へと魔力が伝達されていく。
それに呼応し、虚空へ藍色の幾何学的な魔法陣が展開される。
そして――、
「――『龍穿』」
そして、俺はそう構築した魔術をたった一言をトリガーとして行使していった。
――『龍穿』。
お馴染み俺の十八番。
極限にまでに水滴を加圧し、本来ならば殺傷能力を持ち合わせないそれを必中必殺の一撃に昇華する儀式である。
俺は、レギウルスとの決闘以降、ようやくガイアスの身に宿った魔術の輪郭を明瞭に掴み取ることができた。
それ故にある程度は多芸になってきたと思う。
そして、これはその一環。
「レギウルス。誤射しちゃうかもしれないけど、気合で避けてね」
「なあ嘘だよな!? そんなことねえよな!?」
ご想像にお任せします。
直後――展開していった魔法陣から、『老龍』が吐き出した無数の『雷針』と同等以上の勢いで水滴の弾丸が射出されていった。
その照準は、『老龍』――否。
『老龍』が常日頃展開する不朽の絶対領域は『龍穿』程度で弾け飛ぶ程脆弱ではなく、物量でもせめても同様だ。
故に、真意はもっと別だ。
「――!? 貴様ァッ」
「ふんっ」
飛翔する雨粒の鉄骨、それらの照準は――『傲慢の英雄』の周囲一帯を踊り舞う『雷針』の数々である。
瞑目。
極限にまでに集中力を高め、そして絶対的に進撃するレギウルスの邪魔にならないように細心の注意を払って吐き出された『雷針』を射抜く。
無論、たった一つではない。
そして――直後、魔法陣から無尽蔵胃の勢いで吐き出されたその弾丸は、レギウルスの肉体を射抜こうと目論む悪辣な脅威の一切合切を撃ち抜いた。
「なっ……!? 貴様、何故こうも精緻な射撃が……!」
「気合」
「――――」
絶句。
直後に『老龍』はもはや答える気がないとそう判断したのは、極限の集中故に棒立ちになる俺の頭上より、痛烈な雷電を叩き落す。
無論、それは想定済みだ。
散歩でもするかのように容易くその致死の一撃をのらりくらりと躱す俺を、『老龍』は射殺する勢いで睥睨した。
だが――。
「なあ、余所見なんてしてる暇、あるのか?」
「……ッ!」
そして『老龍』は、今更になって自らが犯した愚行がどれほど度し難いか察知したようで、犬歯が破砕する程の勢いで歯軋りする。
が、悲しいかな。
幾ら後悔しようが、秒針が過ぎ去ってしまった以上、それはあまりにも不毛としか言いようがないだろう。
それは、直後に証明される。
「――よお、クソ蜥蜴!」
「――ッ! 野蛮な蛮族がっ!」
爆音。
それは、蛮族と悪罵されし男が鼓膜が張り裂ける程の勢いで後輩した廃墟の足場を踏み締めたが故に生じた轟音だ。
それと呼応し、周囲へ散弾が如き勢いで破片が飛散する。
その口元に凄惨な笑みを浮かべ、とっくの昔に『老龍』の懐に潜り込んだその男の右腕には、深紅の刀身の太刀が万力にも勝る膂力により握られており――、
「――ッッ」
「ぐぅ――ッッ!!??」
――次の瞬間、そこらの廃墟が軒並みに消し飛んだ。
それは、『滅炎』と『傲慢の英雄』の規格外の膂力が相まっていくことにより成立する絶大な衝撃が絶対領域へと猛烈な勢いで衝突したことにより生じた風圧故の惨状である。
俺でさえもはや歩行さえ不可能な程だ。
――パキッ。
必然、それに如何なる強度を持ち合わせる結界だろうが紙屑同然で。
軋轢が生じていったその絶対領域に対して、レギウルスは快活な笑みを浮かべ、『滅炎』を手放した。
そして――。
「――消し飛んじまえ」
「――ッッ‼」
――刹那、深紅の閃光がこれでもかと廃墟に乱舞した。
そもそも『傲慢の英雄』の筋力は魔術を差し出すことにより常人離れしていたが、それに更なるトッピング。
つまること、内部で魔力因子を激烈に衝突させたのだ。
そして、激突していった因子はひしめき合い、莫大という形容さえもおこがましい程のエネルギーを生み出す。
――『臨界』。
魔術を扱う者にとってのある種の禁忌ともいえるその所行をさも当然とばかりに、レギウルスは剛腕を振るった。
『臨界』の威力は自明の理。
幾ら『老龍』であろうとも、直撃してしまえば絶対的な結果ごと肉塊に成り果ててしまうのだろう。
故に――『老龍』は、それを行使する。
「――■」
吐き出されたそれは、呪詛の類で――、
「がぁっ」
そして、盛大にその呪言を一身に浴し、荒れ果てた廃墟へと盛大に吐血していった。




