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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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奇襲


 













――終わったな。


「――――」


 そう、異形――否、レアンは立ち昇る白煙を一瞥する。


 本来、魔晶石自壊という暴虐を決行してしまえば、そこに理性など存在せず、ただただ本能に身を委ねる正真正銘の怪物と成り果てるのは道理。

 が、レアンの場合、少々ケースが異なった。


 レアンの肉体は言うに及ばず他とは一線を画している。


 なにせ、生身に魔晶石を埋め込まれたのだ。


 もはや、レアンは人間とも魔獣とも言い切れない、酷く曖昧模糊とした存在と成り果ててしまっていた。

 故に、だろう。


 白衣の男が何らかの手段を以て干渉したという説もあり得るのだが、真っ先に思案できるのは耐性という観点だ。


 基本、魔晶石は傷つけば傷つく程により強靭に再生される。


 所謂、筋線維における超再生にも酷似した現象だ。


 あの白衣の男があれ程までにレアンへ責め苦を味合わせたのは、無論己の悦楽を切願したが故、ではない。

 ただただ、あれは必要過程なのだ。


 より『三天』に肉薄する超常の存在を創造する、過程。


 幾度となく負荷をかけられた魔晶石はおぞましい程の再生、破滅を繰り返し、その度により強固となっていく。


 おそらく、純然たる力量ならばともかく、魔晶石の強靭さならば『老龍』にさえも匹敵するであろう。

 頑強な魔晶石ならば、その絶大な軋轢にもある程度は耐久できる。


 どうやら、図らずとも過去の傷跡が『自壊』による魂侵食を幾分かはマシにしていったようである。


 が、依然わきあがるエネルギーは無尽蔵。


 もはや、いつ理性が溶け切っても可笑しくない。


 言うに及ばず、レアンは『老龍』のように、魔晶石の粒子化などは到底不可能であり、刻限は存在する。

 あくまでも、無効ではないのだ。


(……後、一時間程度だな)


 刻一刻と、魔晶石は崩壊を始めている。


 このペースでは、途上で『自壊』を対外的な要因により解除でもされない限り、レアンの滅亡は必然であろう。

 が――焦燥は無い。


 真逆だ。


 レアンの胸に沸き上がったのは、それはさながら恋する乙女かのような、純真無垢な愉悦への情愛である。

 

 刻限?

 上等。この程度のハンデであの白衣の男と十二分に渡り合える手段を得ることが叶ったのならば万々歳である。


 もはや、破滅への忌避感など今更だ。


 レアンは過去に腹の奥底から死を切願した身。


 だが、今や、それは白衣の男を殺害するという最高の果実が目下に置かれたことにより霞の如く消えかかっていた。

 しかし、それは懇願のお話。


 あの地獄を味わった者としては、それこそ死など恐れるに足らないのだ。


 畏怖するのは、朽ち果てる頃合いにまでに、数百年ごしの悲願が成し遂げられなかった際に生じる絶大な悔恨。

 文字通り、ここからは捨て身の覚悟だ。


(……まずは、白衣の男の補足か)


 一応レアンも申し訳程度には感知系魔術を嗜んでいるのだが、だがそれも一級品とは言い難いだろう。

 が、無尽蔵に沸き上がる魔力。


 これを駆使すれば、あるいは強引ながらも白衣の男の所在地程度ならば割り出せるやもしれないだろう。


 この形容での魔術の行使は少々不利。

 だが、レアンはそのような自明の理に頓着することなく、ただただ最高の瞬間を念願し、愚直に実行する。


 陣の形成――至って問題なし。


 少々、慣れぬ形態故に変質した魔力回路の酷使には不安を覚えるが、そこらへんは途方に暮れてから考慮しよう。


 そしてレアンは、その巨体に宿る魔力の一切合切を駆使していくことにより、遥か彼方に滞在する宿敵の居場所を炙り出す。


――ザクッ。




















 ――その、寸前。


 何かが、レアンの頭頂部を刺し貫いた。

 脳髄が鋭利な切っ先により文字通り豆腐でも斬り裂くように崩れ落ち、微かに思考能力が低下するのが理解できる。

 

 だが、レアンを驚嘆させたのはそれではない。


 この刀身。

 明らかに『神威システム』とは異質で、ありとあらゆる生物とは相いれない破砕の極地ともいえる暴虐の化身。


 それが宿ったこの刀身に、レアンは見覚えがあった。


(何故……!? 確かに灰塵に帰した筈!)


 既にガバルドは頼みの綱である『心臓』を使い切っている。


 それ故にもはや『英雄』の生存は絶望的で、如何に耳を澄まそうが拍動の一つさえ聞こえやしなかったので、レアンもそれを確信していた。

 だが――それは、余りにも滑稽な履き違え。


 そして、レアンが遅らせながら真相に到達した、その直後――、


「――『一閃』」


「ッ!?」


 瞬間、電撃でも浴びたかのような鈍痛が全神経を滅茶苦茶にする。


 あくまでも、魔術師における中枢を担う器官は魂。

 それ故に、幾度となく脳髄を度し難い程に無遠慮に抉られようが、思考回路が鈍ることは断じてない。


――故に、この激痛は魂の根幹にまで木霊する。


「――――ッッ!!!???」


 声にならないその絶叫は、悲鳴か、あるいは断末魔か。


 臓腑をこれでもかと不躾に引っ掻き回され、『実験』の際に幾度となく体感したあの苦痛さえも霞む痛覚が全身を苛む。

 

「――ッ」


 男はレアンの頭頂部を足場に、神風の勢いで疾駆しながら猛烈な勢いで斬撃を繰り出し、露天掘りとばかりに脳髄を引きずりだす。

 無論、レアンとて激痛に身悶えたのは最初の一瞬。


 次の瞬間には正常……とは言い難いものの、当初の衝撃から酔いが醒めた魂が、冷静沈着に異常事態へ対処する。

 

(――『神刃』)


「……ハッ」


 これまで、『術式改変』を会得し力量が定かではないガバルドに固定概念を埋め込むべく封印していた魔術を今更になって行使。

 が――男は特段焦燥する様子を見せやしない。


 いっそのこと不敵な薄笑いさえ浮かべ、男は四方八方を取り囲む不可視の刀身を睥睨した。


「……稚拙な攻撃手段も一切合切がブラフ。まあ、因子の流れからして薄々は気づいていたさ」


「――――」


 レアンは、男が漏らした声音を一切聞き入れることなく、淡々と構築した鋭刃を竜巻のように旋回・射出する。

 その照準は多種多様。


 典型的な急所から盲点、それらを上手く絡み合わせることにより死角を強制的に生じさせ、決定打を放つ。

 その数式が如く緻密な采配はまさに神仏の御業。


 これで全快ではないというのだから殊更末恐ろしい。


(――消えろ)

 

 この致命的な戦局において、起死回生の一手など不可能。


 男の力量を余すことなく推察し、それを元に機械に等しい精緻な策略を組み立てたレアンに敗北の二文字は無い。

 が――慢心も、また無い。


(相手はボクの業火にもなんらかの手段で耐えた。おそらく、これも見切ってくる)


 流石に理性をかなぐり捨てたとしても、レアンとて二の足を踏みような阿呆な真似を成すことはないのだ。

 この斬撃の一切を避けきることを大前提にプランを編み出す所存だ。


(さて……どうする?)


 相手の刀剣はアーティファクトに付与された魔術故なのか、はたまた男生来の魔術が関与しているのかは関知せぬが、それには一切合切をバターのように切り裂いてしまう魔術が付けくわえられている。


 その神剣は、最強の矛と盾の役割を果たすだろう。


(……デバフの類でも行使するか?)


 一見、ガバルドの身体に付加された身体強化は存外稚拙。


 この程度の練度ならば、レアン程度の呪術でも発揮可能な力量を半減させることも、容易であろう。

 が、一つ懸念が。


(推し量るに、刀剣の魔術は『一切合切の割断』。――なら、あるいは魔術さえも切り裂いてしまうのでは……?)


 可能性は常にある。


 なにせ、そもそもレアンはガバルドが固有魔術を会得しているという話さえも、初耳であったのだ。

 無論、そのようなアーティファクトにも心当たりがない。


 故に可能性は未知数が。


 そうである可能性も、否である結論も。


(……警戒するに越したことはない。早急にそれを前提をとした策略を編み出――)


 不意に。


 不意に、剥き出しとなってその野生が、明らかに目下の満身創痍な男とは明らかに異彩な魔力を放つ存在を看破する。

 

 長身のその青年の瞳に宿るのは、年不相応な怜悧さと、そして紛うことなき『王』の威信――。


「――やあ、『英雄』」


 そう、今にも消え入りそうな微弱な――『魔王』の声音を、レアンの敏感な聴覚は否応なしに知覚していた。



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