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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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ショッタ交えて作戦会議













「……それをさっさと言ってくれなのだ」


「い、いやでもそんな空気じゃないし……」


 どうやら、流石の沙織もあの剣呑な雰囲気の最中に豪胆にも突入する程の図太いワケではないらしい。

 そんな彼女へ、親友はこれでもかと吠える。


「違うのだ! 沙織は後先考えない刹那的主義で、空気は読むモノじゃなくて吸うモノだって平然と抜かす図太い少女なのだ!」


「キレていい?」


 沙織さんの頬がピクピクしていらっしゃる。


 流石に、こうも真正面から罵倒されてしまえば沙織とはいえどもそれ相応に苛立ちを感じるらしい。

 と、そんな彼女たちへたった一声で水を差す人物が。


「……後、一分半」


「ちょ、メイル! なにやってるの! 気が短くて器が狭いスピカ君の堪忍袋の緒が切れそうになってるじゃん!」


「ち、違うのだ! 私もこれほどまでにこの小僧が横暴だとは――」


「――後三秒」


「「おい!」」


 スピカさんは無慈悲だったらしい。


 スピカは容易く猛攻を捌きながら、視線で「さっさと言え。さもなくばさっさと帰すぞ」と告げる。


 そうなれば、流石に沙織も茶番を繰り広げることは叶わない。


「それじゃあ、私からの方策を告げるね。――魔晶石を、修復する」


「……ほう?」


「――――」


 スピカは、すっと目を細めながら提示された条件に嘆息する。


「それは、如何なる意味合いで?」


「そもそもの、話だよ」


 そして、沙織は滔々と語る。


 なんでも、沙織曰く自壊という現象は魔晶石になんらかの魔力が干渉されることにより生じているらしい。

 そして、既に崩壊は始動している。


 セフィールの天命は、それこそ風前の灯火だろう。


「――でも、今はそれを度外視するよ」


「――――」


 が、着目すべきなのはそこではない。


 つまること、原理や道理、それに込められた真意などは依然として不明なのだが、セフィールの暴徒化の起因は魔晶石への干渉にある。

 ならばどうするか。


 その解答に辿り着いたのは、ひとえに沙織は治癒術師でもあるからであろう。


「私が実施しようとしているのは、魔晶石の元の状態――つまること、数十分前に戻すってことだよ」


「……有り得ない」


「――――」


 確かに、理屈上は案外可能だ。


 沙織の発言に嘘偽りがないのならば、まず確実に魔晶石自壊の起因は誰かしらからの干渉であり、それ故に一度元の関与されるまでの状態に遡ってしまえば可能だろう。

 が、それには二か所の憂慮すべき欠落が。


「――そんな魔術、存在しない」


「――――」


 治癒魔術が適用されるのは、あくまで有機物だけ。


 それ故に魔晶石のようなモノを修繕――否、その滞在時間を巻いて戻すのは、到底不可能なのである。

 時空魔術などというふざけた魔術、どこにも存在しないのだから。


 が――それは、大いなる先入観故の筋違い。


「そもそも、魔術師ならばありとあらゆる魔術を行使できるんでしょ? 適正云々を度外視すればの話だけどね」


「……間違えてはいませんね」


 その全容は不明であるのだが、『輪廻システム』により付与される魔術の系統はまさに無尽蔵である。

 その幾億もの中に、目当てのモノが存在していてもなんら不思議ではない。


 だが、それにも更なる課題が。


「度外視するって軽く仰りましたが……一体全体、この中にそのような魔術への適性を持ち合わせるような、そんな有用な人材はどれほど存在するでしょうね」


「……まあ、そうなるよね」


 一応確認してみたのだが、メイルはもちろんのこと、スピカもそのような系統は専門外であるとのこと。

 必然、唯一自らの適性を口にしない沙織へ視線を注がれる。


 その事実に沙織は「はあ……」と溜息を吐きながら、小悪魔らしく片目を閉じながら告げる。


「――私だよ、私」


















「そ、それはどういう意味合いで……」


「だーかーら! 時空魔術への適性を持ってるのが私だって! 何か文句ある!?」


「そ、そうなのか……」


 いつになく取り乱している沙織に目を白黒させるメイルに溜息を吐きながら、スピカは頭上に疑問符を浮かべながら問いかける。


「報告では貴女、魔術使えないそうですね」


「それは違うよ。私は使えないんじゃなくて、ただただ行使していないだけなんだよ」


「……勉学への逃避を図る中高生かのような発言がやや気になりますが、まあここは信じさせてもらいましょう」


「――。ありがと」


「礼は不要です。ぼくが信じたのは、貴女ではなく貴女に背中を預けるアキラ様。そうでなくては、初対面の貴女にここまで厚意を示しませんよ」


「だとしても、感謝してるよ」


「――。それはともかく」


 やや頬を赤らめながらも、次の瞬間にスピカは怜悧な瞳で沙織を射抜きながら、最終的な不安要素を口にする。


「――貴女のやろうとしていることは、つくづく不毛ですよ」


「……どうして?」


「これだけヒントを告げたのにも関わらず、依然として無理解を示す……つくづく、アキラ様には不似合いな輩ですね」


 「ア”ァ?」と親友への純然たる悪罵に即座に堪忍袋の緒が切れたメイルを諫めつつ、申し訳なさそうに口を開く。


「スピカ……くん。私も。ある程度は今回の計画に関する粗の目星はついている。私が欲しいのは、それに対する確証だよ」


「貴女にくん呼ばわりされる筋合いはありません。――ですが、ここはアキラ様の愛人としての立場故に大目に見ましょう」


 そう、スピカが渋々ながらも妥協案を提示した直後――沙織が沸騰でもしたかのように頬を紅潮させる。


「ああああ、愛人!? 誰にそんな話をっ!?」


「え、えっと……お二人の関係性はこちらもアキラ様の自主的な護衛の任に携わっている最中に幾度となく拝見したので、推測ですよ?」


「そ、そう……?」


 珍しく沙織の気迫に怖気づくスピカに「案外可愛らしいこともあるじゃん」とメイルは認識を改め――。


「ん? 自主的護衛? それってただのストーk――」


「では、沙織さん。ぼくから貴女のプランを実施する上ではどうしようもない欠落を指摘致しましょう」


「今華麗にスルーされたような」


 スピカさん、ヤクザの方々でさえ真っ青になってしまいそうな眼光で射抜き、メイルを強制的に沈黙させる。

 あどけない容姿だからこそ、その内面の粗悪さに怖気づいてしまった形だ。


(あんなゲス顔をするのがアキラの部下……)


 類は友を呼ぶと言ったところか。


 なんとなしにアキラが裏社会付近に組織を創設していることは関知していたが、この分だと他の面子もアキラ妹さながらのキワモノのようだ。 

 この美少年がいい証拠である。


「……メイルさん?」


「ナンデモナイヨ。ドウシタノカナ」


「いえ。少々、アキラ様を侮辱する気配を察知しましたので、八つ裂きにしようかと」


「あなたはどこの殺人鬼なの!?」


 成程。


 この横暴さは、どことなくあの実に忌々しき少年とどこか重なるところがある。

 それ故にアキラはこの子を部下に選抜したという可能性も、また無きにしも非ずといったところである。


「……脱線しましたね」


「この上なくね」


「……最近、刃先の湿気具合が物足りないですね。おや、こんなところに手頃な――」


「さあスピカくん、さっさとお話しましょ! 胸の内を燻る殺意も、忘れちゃうくらいに熱烈にね!」


「「変態ッ!!」」


「どこが!?」


 スピカくんとメイルさん的には、十二分に変態発言だったらしく、ドン引きしたように後ずさる二人へジト目をしながら、沙織は問いかけた。


「――それで、欠点って?」


「――――」


 スピカは一瞬躊躇するかのように目線を泳がせ――直後には、観念したとばかりに溜息を零していった。


「――ぼくが指摘するのは、魔晶石の修繕が済まされてからの、それ以降の話ですよ」


 


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