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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
471/584

施行

 

 前半ライムちゃん視点。

 後半アキラ君サイドです。














「――♪」


 さる廃墟にて。


 あるいは、幼児と説明された方が殊更に納得できるようなあどけない容姿をした少女は、ご機嫌そうに鼻息を奏でる。


 彼女は瓦礫の天辺に横たわりながら、使役獣ごしに兄者の勇士の脳裏に焼き付けている最中らしい。

 『傲慢の英雄』からしたらつくづく理解の及ばない趣味である。


「――――」


 ふと、少女は目を丸くする。


 少女が瞠目したのは、使役獣の聴覚が兄者の声音を鮮明に聞き取り、それが魔力因子により聞き取ったが故にほからなない。


「そんな、切り札だって、照れるわ~」


 少女は、年頃の少女らしく瓦礫のべっとをじたばたし――直後、我に返ったかのようにそれを停止する。


(違う違う。今はそうじゃないわよね)


 その通り。


 本来ならば防衛対象であった沙織の護衛の任からあの少年と入れ違いになる形でこうして本丸に向かったのも、兄から下った指示故。

 ならば、まずはそれを完遂せねばならない。


 それで兄に頭をご褒美として頭を撫でられたら、それだけで万々歳である。


「できることなら、あの餓鬼もヘマしてほしいわ」


 少女が想起したのは、入れ違いになった無機質な少年だ。


 どこか、自らと共通する闇を抱えたその少年の失態に期待しながら、少女もいよいよ本格的に工作に取り掛かった。


「さて、待っててねお兄ちゃん」


 そう、少女――否、ライカは狂乱と執念が入り乱れた眼差しで、愛しの兄へ嘆息していった。
















「――俺の切り札は、ライムちゃんだよ」


 俺が発した声音に『老龍』は何を言われたのか理解できないとばかりに小首を傾げ――、


「……ライムって、誰だ?」


「――――」


 あっ……。

 そういえば、そうだな。


 俺は『天衣無縫』によりメィリ・ブランドという少女をこの世界から掻き消してしまったのである。

 更に、彼女が表舞台に立つことはほとんど皆無。


 ついでに言うと『花鳥風月』により改変した俺の魔術も多重に付与しているので、故に露見されることはないだろう。


 つまり――、


(やっちまたあああああああ!!)


 思わず、興奮して失言してしまった俺は、すぐさまこれを撤回すべく、塗り替えようと画策していった。

 俺は疑問符を浮かべる『老龍』へ、キッパリと告げる。


「――餃子の仲間!」


「オッケー。貴様の脳内回路が狂乱していることだけはこの上なく理解できた。まあ、そんなの今更だな」


 失礼なっ。


 俺は『花鳥風月』により『天衣無縫』で今回の失言を必要最低限の範囲内で消し去りながら頬を欠く。

 無駄に魔力を浪費してしまったのも地味に痛手である。


「あー。マジ面倒臭ぇ。というか、そもそも問いかけたら答えてくれるって信じて疑わない時点で頭大丈夫って言いたいよな?」


「どうしたんだアキラ。まるで渾身のジョークがこれでもかと滑った芸人みたいに、らしくもなく不機嫌だぞ」


 大正解だよ。


 この男、理性も欠片もない癖に無駄に勘が良いな。


 端的に言って奈落で果てればいいと思うが……今はこの羞恥心を誤魔化すべく、とっとと『老龍』と対峙しますか。


「はあ。――それじゃあ、お前はどうする?」


「――。どういう趣旨だ?」


「そのまんま」


「――――」


 俺の真意を推し量ることが叶わず、気味悪そうに問いかける『老龍』へ、俺は曖昧模糊とした声音を吐き出す。 

 

 我ながら不親切な男である。

 

「確かに、現状俺たちではお前を滅ぼすことは叶わないだろうな。――じゃあ、お前は?」


「――――」


「ゴリラの体力は無尽蔵。俺の残留魔力も中々だよ。これだけ本格的に刃を交えたとしてもこれだ。――膠着状態なんだよ」


「……っ」


「――――」


 『老龍』はそれを肯定せず――かといって、明確な否定の声音を口にすることもなく、ただただ黙秘する。

 それこそが何よりをも首肯の証である。


「……何が、言いたい?」


「いやさあ、ちょっと疑問に思って。――お前だって、切り札の一つや二つは持ち合わせているんだろ? 何故行使しない?」


「――――」


「魔術だってそうだ。何故俺とレギウルスとの距離が離れているタイミングで、あんなモノを実行したんだろうなあ?」


「……それを口にする義務は?」


「ない」


「……そこは明瞭に断言するのか」


 あくまでも時間稼ぎなので、このような中身のない会話を紡いでもなんら支障を齎すことはないだろう。

 そう、断じてた最中。


「――――」


「っ」


 迅風。


 次いで、それとほぼ同刻に目下の『老龍』の輪郭が消えうせ――そして、俺の背後に降り立ち、鋭利な太刀が牙を剥いた。
















「――レギウルス」


「承知……って即答したくはないな」


 やれやれ……この期に及んで私語だなんて、余程精神が浮ついている証拠なのだろう。

 

 俺はその情けない相棒が急迫する鋭利な刀身を流し、その拍子に殴打で弾き飛ばす光景を尻目に抜刀。

 無論、その標的は、レギウルスを巻き添えにする形で『老龍』の頭部。


「――っ」


「!?」


「これは……」


 虚空に描かれた軌跡に対し、『老龍』は常時展開しているらしい絶対領域により衝撃を余すことなく押し殺す。

 ちなみにレギウルスは咄嗟の判断で身を屈んで避けやがった。


 ゴリラという異名に似合った横暴さである。


「チッ」


「なあアキラ、その舌打ちは『老龍』の寝首を掻けなかったからこそ吐き出したんだよな? 俺を誅殺できなかったからじゃないよな?」


「ご想像にお任せ首があああああああ!?」


「安心しろ。嬲って殺してやる」


 仲間の定義とは。


 依然仲間割れの風潮は相も変わらずなようで、そんな俺たちを『老龍』はつくづく理解できないとばかりに目を細め――、


「――『煌龍』」


「――――」


 直後、『老龍』の全身を巡る龍種独特なエネルギーを代謝していくことにより、膨大な熱波がこちらへ押し寄せる。

 よくよく目を凝らすと、スパークというおまけつきだ。


 そして、これは魔術ではない。

 

 故に俺の『羅刹』では到底跳ね返らせることは不可能でろう。


 これこそが『羅刹』の欠落であると同時に利点でもあるのだが……その辺のお話は、また今後ということで。

 閑話休題。


 俺は迫りくる熱波に対し、別段焦燥する素振りを見せることなく、冷徹にレギウルスへ指示する。


「レギウルス、だっこ」


「お前は恥ずかしくないのか」


 恥も外聞もかなぐり捨てるとはまさにことのこと。


 一応、熱炎を氷結魔術により凍結してしまうという方策も可能だが、いかんせんそれは浪費魔力が莫大過ぎる、

 どれだけ効率よく行使しようが残留魔力の大半は喰われるな。


 無論、俺がそのような非合理的なことを実施する筈もなく。


 現状、背に腹は代えられないと判断し、ゴリラへのだっこを懇願してしまう次第になってしまったワケである。

 万力にも勝る膂力で襟もとを引っ張られ、そのまま浮遊感。


 どうやらレギウルスはその脚力を以て既に範囲外にまで飛び退いてしまったようだ。


 それも俺でさえ認知できない速力となると、どれほどレギウルスの身体能力が常人離れしていることが分かる。

 さすゴリと言っておこう。


(さて……まだか?)


 ライムちゃんへ下した指示。


 もうそろそろ。

 もうそろそろで、かつて『賢者』の異名をほしいままにしていたライムちゃんならば、容易く成し遂げられる――、


『――お兄ちゃん』


「ッ!」


 噂をすれば。

 

 俺は脳内に直接語りかけられるその気味の悪い淡白な声音と砂嵐を彷彿とさせる雑音に頬を歪めながらも、快活な笑みを浮かべる。


「終わった!?」


『ええ。お兄ちゃんの合図さえあれば、いつでも実現可能よ』


「そりゃあどうも! 流石俺の妹、存外優秀だな!」


『そ、そんな……! 結婚して苦楽を共にしたいだなんて……!』


「そこまでは言っていない」


 そう俺はキッパリ告げつつ、猶予もないので回線をきり――、そして、レギウルスへ指示を送り付ける。



「――やっちまいな、相棒」




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