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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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喪失・


 言うに及ばずアキラさん&レギウルスさんサイドです











 


 激烈な『滅炎』の勢いに常時展開していたらしい結界が軋み、不利を悟った『老龍』はすぐさま飛び退く。

 そして、一言。


「お前ら、絶対正気じゃない!」


「おいレギウルス。悲しいな。あんなに率直に罵倒されるだなんて」


「大丈夫だアキラ。お前が正気じゃないことは、周知の事実だからな」


 ?

 

 何故かレギウルスと致命的に意見が食い違っているような……。


 まあ、気のせいだろう。


 と、互いに首を傾げる俺たちへと、『老龍』が傲然と異議を唱える。


「貴様らだ! 貴様らのことだ!」


「「ええッ!?」」


「何故に青天の霹靂とばかりに驚愕する!?」


 そ、そんな……!


「ろ、老龍はついに認知症で視覚が……っ!」


「くっ……! 惜しい人を亡くした……!」


「……如何なる思考回路をしたら、そのような奇想天外な結論に至るのが、実に興味深い難題であるな」


 何故か老龍から皮肉の気配が。


 虚言壁の類だろう。


 が、俺としてもさっさとこの不埒な抗争に終止符を打ちたいので、一つここは思い切って提言することにした。


「なあ、『老龍』」


「煩わしい。どうせまた、聞くに堪えない寝言を――」


「――交渉とか、興味ある?」


「……………………は?」


 『老龍』は、俺が提示したモノがあまりにも荒唐無稽すぎるからか、凝然と目を丸くし、まじまじと俺を凝視する。

 そんな彼へ、俺は飄々とした仕草で更に情報を開示する。


「突拍子もない話だと思うか?」


「と、当然だ! 貴様らは我ら龍種との間にどれだけの溝があると――」


「それだよ、それ」


「――――」


 『老龍』は俺が如何なるモノを指摘したかったのか推し量ることができず、不可解そうに小首を傾げる。

 俺は、なおも戯言の類にを口にした。


「お前は龍種――己こそが至高の存在だと、そう信じて疑わないような、そんな小物であるはずなqんだよ」


「……あ」


「――――」


 今更になって俺が何を指摘したかったのか推し量ったのか、『老龍』は目を白黒させ――そして、口元に挑発的な嘲笑を浮かべる。


「――御託はそれだけか?」


「――――」


「今のは、少々口が滑っただけだ。貴様ら如きが私の思考回路を推し量ろうとするなど、笑止千万だな」


「……そういう態度が、お前の本心を如何に着飾った声音よりをなお如実に誇示していると、そう思えるがな」


「……ア”?」


「どう睨むなよ。冗句の心算だったんだし」


「……それが、貴様なりの冗句? 漫才コンテストの予選であえなく落第する未来しか見通せんなあ」


 落第という単語は成り上がりへのフラグである。


 まあ、そもそも『老龍』はサブカル知識がなんたるかをご存じないようなので、そのようなことを告げたとしても無益か。

 ならば、今はもっと有益な交渉をすべきだろう。


 つまり――。


「――ルインの束縛からの解放。これ、興味有る?」


















「……笑止」


 が、『老龍』は依然俺の出方を伺うばかり――次いで発せられる声音を心待ちにしているかのような姿勢を取る。

 興味津々ってことが見え透いてるぞ。


 それを見届けた俺は、口元にあの男ソックリな微笑を浮かべながら、なおも提言する。


「俺の魔術は万象の消滅。お前という存在がこの世界に存在していたことさえも容易く消去してしまえるぞ。そこら辺の諸事情も、とっくの昔にお前のご主人様から聞き入れていると思うけど、間違いないね?」


「……興味ないな」


「へいへい。じゃあ続けるよ。その実、俺の魔術の適用範囲は物質以外――例えば、お前を雁字搦めにする『誓約』に対しても可能だ」


「――――」


「お前も、あのルインとかいうクズの不当な扱いに憂慮しているだろう? 悪い話ではない筈だと思うが」


「――――」

 

 『老龍』はしばし熟考し――数秒後、顔を上げる。


「……それに貴様は何を要求する?」


「――っ」


 存外、前向きなようだ。


 無論、問いかけに対する返答は即答である。


「お前は唯一、ルイン以上に龍種を統治するのに適した人材だ。故に、その一声でここに集った龍たちもあるいは立ち退くだろうよ」


「……そういう算段か」


「そう。理解できた?」


「――――」


 そもそも、俺がわざわざ『老龍』とこうも全面的に敵対してまで死闘を演じる必要性は皆無なのだ。

 『誓約』で人類に敵対しないことを示せば、それで仕舞いだ。

 

 この時ばかりは厄介な『約定の大地』の特性に心の奥底から感謝してしまったな。


 現状、『老龍』は存外前向き。 

 あるいはあともう一押しでダメもとで挑んだ交渉も達成するかと、そう胸が躍るような心地の最中――当の本人が、俺へと水を差す。


「――断る」


「……何故?」


 その断言に、俺はすっと目を細めながらその由縁を問いかけた。


 常日頃、ルインの無理難題に苦悩していたらしい『老龍』にとって、この提言は願った叶ったりな筈。

 だというのに、何故――。


「それでは、意味が無い」


「――――」


「確かに、貴様の提言にはややそそられた。――だが、その程度のモノでは、なんら意義を感じないな」


「……どうして?」


「私一人が救われたとしても、それでは意味がない。あの子象からの束縛から抜け出すのは、我ら全員ではなければならない」


「我ら……」


 十中八九、彼が統制する龍種のことか。


 もしくは、かつてのライムちゃんや、ルイーズさんのように『死神』の役割に携わっていた輩のことか?

 いずれにせよ――。


「……確かに、それは到底不可能だな」


「だろう?」


「ああ」


 俺の魔術、『天衣無縫』は基本的に効力を及ぼす規模が多大になればなる程に浪費魔力が比例して増大することになっている。

 いずれにせよ、適用範囲は広大。


 たとえ『老龍』の魔術を譲渡されようが、容易くルインに露見され、そのまま一巻の終わりであろう。

 というか――、


「というか、この一連の会話聞き取られているしな」


「……気づいていたか」


「当然だろ。あんまし舐めるなよ」


「――――」


 ルインは、俺の魔術の有用性を見極めるためにこの『清瀧事変』を勃発させたとのだと、そう言っていた。

 ならば、おそらく俺たちの死闘は奴の監視が織り込み済みということになる。


 つくづく無粋な輩である。


 故に、如何に魅力的な提案であろうとも、首を縦に振ってしまった時点でルインの干渉により全身が弾け飛ぶだろう。


「……スマンな。らしくもないことを言った」


「気にするな、ニンゲン」


「……やれやれ。龍種って、基本的に俺への呼称はそれで固定なのかな? いい加減にして欲しいってそろそろ思う頃合だな」


「知らぬ」


 この一連の交渉で、少なくとも互いに存外な一面を知り得ることとなり、友情にもにた想いが溢れ――、


「――レギウルス。やっちまいな」


「オッケー」


「!?」


 下された下命に対し、レギウルスは極限まで強化したその脚力を以て『老龍』へ急迫、『滅炎』を振るい、結界を一蹴する。


「な、何故結界が……!」


「ああ、気づいてなかったんだっけ。それならご愁傷様としか言いようがないな」


「……ッ! そういうことかっ」


 ようやく『老龍』も俺が如何なる狼藉を働いたのか理解したようで、即座に結界の術式を書き換える。

 が――遅い。


「――今度こそ、滅ぼす!」


「! 貴様ァ……!」


 既にレギウルスは『老龍』の間合いへ距離を詰めており、かつての存在自体が冗句ともいえる太刀を片手に踏み込む。

 その右腕には、猛烈な勢いでエネルギーが収束しており――、


「――ッッ」


「――――」


 一閃。


 一切合切をその膂力を以て断絶する深紅の刀身が『老龍』へと迫り――そして、刹那でその肉体を細切れにしていく。

 が、これで終幕では前回と同様の結論に辿るだけだ。


 俺に課せられたのは、肝心の魔晶石の所在地――、


「……無い」


「……あぁ?」


 レギウルスは愕然とする俺の声音に訝し気に眉根を顰めるが――、


「魔晶石が、どこにも無い……!」




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