滅びて、――、
仮面ライダー、そういえば今日最終回でしたね。というか、新シリーズにジャイアン声優出演してる件について
既に、『老龍』の超常的な身体能力の起因の目途はついていた。
――それは、魔晶石。
レギウルスはつい最近魔術の域に達したが故に、その異常事態に関して真面に違和感さえも抱けなかっただろう。
が、俺とて数か月は魔術の手練を持続させている。
魔王のような年配者程ではない。
力量としてはまさに中の下といったところか。
だが――それで、十分。
(……ひび割れていやがる)
瞳に魔力を凝縮。
それと同時に網膜や光彩が別次元のモノと化し、容易く違和感の起因を、見て取れることができた。
魔晶石に、軋轢が生じているのだ。
それも現在進行形で。
この症状は明らかに魔王がつい先日対峙したあの龍に類するモノであり、それ故にエネルギーという観点に関しては辻褄は会う。
魔晶石は魔物における心臓。
それ故に魔晶石に込められた魔力は膨大。
それを自らの意思により破砕していくことにより、あの高火力が結界の出力を堕とさずに成立しているのだろう。
結界のカラクリも単純明快だ。
アレも一種の『自戒』。
推し量るにそれまで『老龍』は基本的に腐食霧などの一部例外を残し、ほぼすべての攻撃手段を手放したのだろう。
故に空白となる魔術のリソース。
それを巧みにやりくりしていくことにより、あの結界の強度が成立している。
それまで『老龍』が真面に戦闘に介入してなかったのがいい根拠だ。
閑話休題。
『老龍』は、確実に敵対者――俺を屠れるように控えさせた水晶龍、及び腐食龍の滅亡により立ち位置を変更した。
おそらくルインの下命は俺の落命だ。
そして、現状この廃墟には万象の出入りを禁ずる結界が張ってある。
故に、お互い加勢は不可。
否。
ルインという世界の管理者ならば、あるいはこの絶対的な領域にさえ鼻歌を奏でながら散歩気分で立ち入るだろう。
が、十中八九、それはない。
そもそもあの男がこの程度の下奴を気にする筈もないし、此度の事変の主要な目的は推し量るに俺の力量を推し量ること。
俺ならば、『老龍』だけで十二分と結論づけるな。
おそらく『老龍』もルインとの付き合いも長い。
故に、ある程度はあの悪辣かつ機械を彷彿とさせる合理性は否応なしに理解してしまっているだろう。
だからこそ、自らが単身で挑んできたというワケだ。
が、結界の『自戒』を行使したままでは真面に致命傷の一つや二つを浴びせることもできないだろう。
それ故の魔晶石自壊という暴虐である。
魔晶石自壊という狼藉を働いたことにより、『老龍』は結界の出力を維持し、それでもなお高火力の攻撃を放てるように仕向けたのだろう。
そして『老龍』の理性は泡沫へ。
ただただ目下の存在を蹂躙する獣畜生に成り下がる――筈だった。
が、どこからどう見ても現状の『老龍』は理性を手放す素振りを一切垣間見せることなどなかったのである。
これには『老龍』の魔術が関連しているのか?
が、悲しいかな。
現状俺が持ち合わせる『老龍』の情報は皆無に近似する程度。
なにせ、ほとんど眷属たちに殲滅を任せてしまうような、そんな度し難い輩なのだ。
そもそも奴に一太刀いれることさえほとんどの者は叶わず、たとえそれが実現したとしても結界に阻まれ、無益。
これに勝るクソゲーは中々存在しないだろう。
依然『老龍』の魔術は不明。
あるいは、魔晶石自壊という暴虐を行使していながらも依然理性が健在なのは、ルインの配下という要因が起因しているやもしれない。
だが、俺が向けた焦点はそこではなかった。
前述の通り、『老龍』は高い水準であの火力を維持している。
それもこれも自壊により生じたエネルギーにより成り立っているモノであるが、それには一つ抜け道がある。
『自戒』は存外偉大な要素だ。
『老龍』はこれを上手く併用していたからこそ、あの絶対的な結界の硬度が成立していたのである。
だが、それを手放した今。
システムによる補助が消え去り、ほぼ手動で魔力の塩梅を制定しなければならない以上、そこに確実に綻びが生じる。
例えば、最高位魔術を行使した刹那。
例えば、全身全霊の一撃を放った瞬間。
その間だけ、それまで塩梅よく割り振られていた魔力の均衡が、完膚無きままに崩れてしまうのだ。
攻勢重視、守備は度外視という最高の状態へ。
無論、度外視というのは誇張。
それはあくまで『老龍』にとっての話であり、正直な話搾取される側の俺たちにとっては些細な差異である。
が、俺はその条理をレギウルスが必死に刻限を稼いでいる間に覆した。
いわば、魔術のハッキングと言えようか。
それまで『老龍』が一切合切を掌握していた結界の魔術に俺が強引に干渉していくことにより、強度の低減を人知れず図る。
それが俺が担った役割である。
が、それは至難の業。
俺の魔術師としての腕前は中の下。
故に、『老龍』のような年長者に対してのハッキングなど、それこそ笑止千万言語道断もいいところである。
が、それは俺の所行が露見した場合のお話。
隠密性を最大限にまで重視し、レギウルスという面倒かつ強靭な鉄人でその意識を釘付けにしている間に、俺はハッキングを開始。
だが、それも満足のいくレベルではない。
なにせ此度のハッキング行為において禁忌の所行はあの『老龍』に、俺が如何なる小細工を弄すのかを看破されること。
その最悪の未来図を辿れば俺の努力は水泡に帰すだろう。
仮にそうなれば……確実にレギウルスにどやされる。
あのゴリラに、である。
想像するだけで屈辱なことこの上ない光景である。
だからこそ、魔術への干渉は地を這う芋虫が如く、それこそルイン相手にさえも露見されないように細心の注意を払った。
その甲斐あってか、ついにハッキングを成し遂げ、耐久血の低減を達成。
そして――レギウルスの剛腕が振るわれる。
「……終わったな」
そう呟きながらも、直後の行動は迅速。
対峙する存在は驚異的な生命力を持ち合わせる『龍』なのだ。
それ故に、たとえその寝首を掻くことに成功したとしても、一瞬たりとも慢心することは叶わない。
破砕対象は無論魔獣の根幹、魔晶石だ。
が、ここで更なるイレギュラーが。
(魔晶石が、無い……!?)
如何に血眼になっても、それまで鮮明に捉えていたその輪郭は、もはや見る影もなく夢のまた夢へ。
そこで俺は応急処置として飛び散った『老龍』の肉片を永劫氷結させるという指針を立て、実行したのだ。
氷結魔術は万象を遅滞させる効力も宿っている。
故に、せめて魔晶石を補足できるだけの猶予を会得することはできると、そう断じていた。
が――、
「――これで、終焉だ」
「――ぁ」
聞き慣れた、でも聞き慣れたくない声音が耳朶を打つ。
それに呼応し、口元から滝の如く鮮血が溢れ出し、胸元よりどこか慣れ親しんでしまった苦痛が鳴り響く。
(再生!? これだけの短時間で!?)
総じて龍種の再生能力は人知を超えているのだが、それにしろ今回の場合は常外としか言いようのない。
肉体を細切れにされてもなお、刹那にも満たない短時間で……!
「ほう。まだ生きているか」
『老龍』は依然その瞳を伏せることもなく虎視眈々と背後の脅威へと反撃の糸口を探し出そうとする俺をどこか感心したように見下す。
「アキラっ!」
「レギ……ウルス、来るな!」
「!?」
途切れ途切れの俺の忠言にレギウルスは一瞬躊躇し――そして、何を思ったのか次の瞬間には再度縮地とばかりに跳躍する。
(あの馬鹿!)
が、それは紛うことなき愚行であり――事実、『老龍』が片手間で生成した弾丸がレギウルスの脳天を穿つことにより、それは証明された。
もはや、『老龍』を遮る存在は誰一人として存在しない、
『老龍』は、どこか不憫そうに目を細め――どこか落胆したかのような表情をし、魔術を行使する。
「――『神罰之雷門』」
「――――」
回避の余地はなく、俺が逃れようもない暴威に成すすべもなく滅んでいったのだった――。




