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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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相棒っ


 













「――――」


「――『雷針』ッ!」


 無論、『老龍』とてたとえ襲撃者がG並みに神出鬼没であろうとも、断じて絶叫したりすることはない。 

 即座に精緻な陣を構築、スパークを纏った鋭利な針を射出する。


 が――アキラは、純然たる膂力でそれを切り裂く。


 そして、再度『老龍』の懐へと急迫――する、その寸前、何故か即座にバックステップして飛び退く。

 何故?


 それは無論――自らの奥義に無様にも巻き込まれないため。


「――蒼海乱式・『白鯨』」


「ッッ!」


 直後、『老龍』の頭上に半径数十メートルには及ぶ広大な魔法陣が構築され、存分に猛威を振るう。

 溢れ出すのは質量という概念が可視化した存在だ。


「――――」


 魔法陣により溢れ出したその莫大な水流が『老龍』の肌に触れ、被弾し負傷するという無様は免れた。

 だが――それでもなお、結界の耐久値は着実に提言していて。


 無論、『老龍』が張る結界は魔力を巡らせば瞬く間に修繕される。


 が、今現在の絶え間もなく甚大なダメージを負うような戦局は例外で。


 現状、修復の速力よりもなお結界の耐久値が激減する速度の方が勝っており、確実にその強度を擦り減らしている。

 ならば、無論それを既に看破したアキラが見逃す筈もなく。


 だが、悲しいかな。


 現状アキラは『白鯨』の操作に全神経を注いでいる。


 これだけの距離がありながらも、たった一振り刀剣を振るってしまっては繊細な術式が崩壊してしまうだろう。

 だったら――後は、適任者に任せた。


 もちろん、合図は不要だ。


「ハッ! ナメクジにしてはいい仕事じゃねえか!」


「ッ! お前は――」


 『老龍』は、快活な笑みを浮かべながらそれまで蚊帳の外だったレギウルスの唐突な出現に目を剥く。

 レギウルスは高らかに跳躍。


 そして、廃墟の一角を足場にし――『老龍』へ猛然と急迫していった。


「――『臨界』ッッ!!」


「――ッ」


 レギウルスは自らの掌の内部から猛烈な勢いで魔力因子を衝突させていくことにより甚大なエネルギーを生成。

 そして、そうして得たエネルギーの一切合切を威力へ変換する。


 轟音。


 それが響き渡っていた際には、過度に蓄積した不可も相まって、その剛腕は容易く絶対領域を破砕していた。

 が、どうしても苦痛故に一瞬の硬直に見舞われる。


 その間に、既に『老龍』の結界は閉じられいき――、


「――アキラ!」


「言われなくとも!」


 アキラはその号令が鼓膜を激震させる一歩手前からそれまで展開していた魔術を即座に解除、自由の身になる。

 その直後にアキラは口元に凄惨な笑みを浮かべ、無防備な『老龍』を白日へ晒す。


 今。


 今この刹那の間だけ、『老龍』は万象の干渉を受け入れざるを得ない。


 ならば――最大限にまでこの好機を利用させてもらうだけだ。


「――――!」


「ぐぅ――!!」


 『老龍』は柄にもなく虚勢を張ることさえも忘却し、ただただ無条件の信頼を預けた結界の再構築に死力を尽くす。

 深紅の刀身が接触するのが先が、それとも一切合切が遮断されてしまうのが先決なのか。


 たった一滴もの魔力が一切合切の命運を左右する。


 ならば――、


「いい加減くたばれやあ、クソ老害――!!」


「――ッッ」


 『老龍』は、口元に一切の敗北を疑わぬ王者特有の、あまりにも醜悪な自尊心に溢れた冷笑を浮かべる。

 その、2秒前。


 アキラは魔力で脚力を重点的に強化し、神速にも迫る程の速力で『老龍』を、遂に間合いまで引き込んだ。

 そして――、



「――『滅炎』」



 そして、鮮烈な深紅の刀身をついに丸裸となってしまった『老龍』の首筋を流麗な軌跡を描き、撫でていったのだった。
















「――ゴリラ!」


「言うに呼ばねえよ!」


 アキラは、首筋を割断したというのになんら慢心することもなく、その切っ先で千切った頭部を細切れにする。

 更に、その意図はレギウルスにも伝達されていたようだ。


 彼はアキラとは入れ違いになるようにして中枢を担う脳内が吹っ飛んだことにより力を失った胴体へ急迫。


 そして、愛刀『紅血刀』でミキサーの要領で細切れにしていく。


 だが――まだ、足りない。


「レギウルス、氷の中のゴリラ図みたい!?」


「死んでも御免だな!」


 ゴリラことレギウルスはアキラの迂遠な指示のその真意をなんら語弊無くくみ取り、直後に『老龍』の胴体から飛び退く。

 そして――、


「――蒼海乱式・『氷天下』」


 アキラがそう囁くように魔術行使の引き金を引くことにより、突如として廃墟全体に巨大な陣が出現。

 それにアキラは神速の勢いで魔力を注ぎ――刹那、世界が氷結する。


「――ッ」


 すぐさま安全圏で撤退していたレギウルスは、『老龍』の飛び散った肉片を入念に氷結される光景を頬を引き攣らせながら眺める。


 と、その傍らに軽やかな靴音が。


 もはや振り返るまでもなないので、レギウルスは『老龍』の亡骸から目を逸らすこともなく問いかけた。


「――殺したか?」


「……微妙。多分、まだ生存していやがる。これもこれも唯一の取柄である筋力が足りないゴリラのせいだぞ。ほら、誠意を見せたまえ」


「あぁん? お前の魔術を行使すればもっと上手くやれたろ」


「ああ……これだから脳筋は」


「ア”ァ!?」


 辻褄合わせという制約がある以上、どうせ『老龍』を消し去ったとしても新たな『老龍』的存在が出現するだけだろう。

 その事態こそまさに愚の骨頂。


 アキラさんが存外聡明なので、そのような蛮行は絶対に行わないのだ。ゴリラとは違って! ゴリラとは違って!


「というか、今更だけど、それフラグね」


「ふらぐ……? なんだそれ」


「おいおい、お前の嫁(笑)は生粋のオタクだろ。そんなお前がどうしてそんな条理をご存じねえんだよ」


「俺は文字が読めん」


「ゴリラだ! 正真正銘のゴリラだ!」


「ア”ァ!? 喧嘩するか!?」


「ハッ! この戦乱の最中でラブラブイチャイチャとか腑抜けた真似をするクソ野郎にはそろそろ鉄拳を加えないとな!」


「お前もな!」


「レギウルス……ちょっと何言ってるのか分からないよ♪」


 アキラさん、可愛らしい仕草で小首を傾げ――そのまま、流れるような動作でレギウルスの眼球を抉る。

 もちろん、レギルスさん悶絶。


「あああ!? 目が、目がああああ!!」


「ふう……。いい仕事したぜ」

 

 レギウルスさんの惨状さえも眼中にないアキラさんは悶え苦しむ相棒をスルーし、直後怜悧に目を細める。


「さて……これからどうするゴリラ」


「ナメクジ、お前は俺のことをいつもなんと呼ぶ?」


「あっ、そっかあ……」


「や、止めろ! 俺の事を可哀想な人でも見るかのような眼差しで見るな!」


「大丈夫! 治療すれば、なんとかなるから!」


「何を治療するんだよ!」


 レギウルスさんのツッコミが今日一番に冴え渡る。


 が、実際『老龍』の処遇に困惑しているのは事実。


 一応首筋を両断したし、その後全身を念入りに細切れにしておいたのだ。

 通常の生物ならば、その行為はあまりにもオーバーキルだと、そのような類の批判が飛び舞うだろう。


 だが――相手は龍だ。


 龍の自己治癒能力が常軌を逸しているのは赤子でも理解できるだろう。


 まして、相手はその龍の頂点に君臨する存在なのだ。

 それ故に奴が生存している可能性はあまりにも膨大で、それこそ今この瞬間その悲劇が生じても可笑しくはない。


 だが、だからといって何ができようか。


 前述の通り、アキラの生来刻まれた魔術である『天衣無縫』には辻褄合わせという厄介かつ迂遠な制約がある。

 そして、生半可な物理攻撃も不毛。


 筋肉以外の取り得ないがゴリラは論外だ。


 後は、加勢を待つのが得策――、


「――ぁ」


――気が付いた時には、アキラの胸元から鋭利な刀身が生え渡っていた。


「アキラ!?」


「――。クソっ」


 そして、意識が霧を霞むが如く明瞭としなくなり、やがて暗闇が――、




 


 

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