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サブタイトルに「!」は要らないかもですね
「――あがぁっ!?」
廃墟に木霊したのは、悲鳴にも似た苦悶の声音。
それは『老龍』が鋭利な深紅の刀身により切り刻まれたことが起因――ではなく、俺自身がその衝撃の反動を喰らったから。
脳髄が焼け焦がれるような、そんな感覚。
痛烈な感触にこれでもかと目を見開く。
そんな俺へ、『老龍』は乾いた冷笑を浮かべ――、
「――『雷針』」
「――ッッ」
パンッ。
そんな擬音がお似合いな仕草で『老龍』は親指を俺へ向け――直後、その指先から痛烈なスパークを纏った鋭針が出現する。
極限にまで魔力により加圧された、その鉄鋼の威力は言うに及ばず、
「――ぁ」
「ふんっ」
脳天が、撃ち抜かれる。
俺は愛刀たる『紅血刀』に付与されていたらしい魔術によりストックした血液を代償にありとあらゆる重傷さえも無傷同然にまで元通りにする。
「――――」
だが、それにも欠落が。
それは血液、及び起動するに必要となる魔力の枯渇――そして、魔力を動かすのに必須な、脳内回路。
人間にとって、脳味噌は中枢を担う最も繊細かつ重要な器官。
それが完膚無きままに破砕されてしまば幾ら俺とて、不死鳥の如く蘇ることなど到底不可能なのである。
そして、吐き出された弾丸の速力は異常の一言。
つまり――、
「詰みか」
「然り」
そ嘆息した直後――衝撃。
だが、それも刹那の事。
人体における中枢神経が完膚無きままに滅亡してしまった以上、今更になって痛覚なんていうモノが機能する筈もなく。
――ドサッ。
力なく倒れ伏す俺を、『老龍』はそれこそ路傍の小石でも眺めるかのような怜悧な瞳で眺めていき――、
「――狸寝入りが趣味か?」
「……やっぱ、露見するわな」
俺は『老龍』の一々的確な指摘に溜息を吐きながら、ふらふらと覚束ない足取りながらも立ち上がっていく。
「……貴様、何をした?」
「臓腑の隅から隅まで魔力を行き渡らせたら、弾丸くらい容易く防げるんじゃねえのか?」
「――――」
「?」
何故か信じられないとばかりに絶句する『老龍』を、俺は訝し気に眺めるが、そんな思案にふけている猶予はもうないようだ。
「――『龍穿・千雨』」
「――ッ」
俺諸共包み込むような、それでいてそこに存在することさえ定かではないような、そんな儚く静かな殺意。
それを山勘で感じ取った俺はすぐさま飛び退く。
直後――頭上より、篠突く弾丸の豪雨が降り注いでいった。
「――――」
『老龍』はその身に纏っている結界に無条件の信頼を抱いているのか、特段俺のように目立った行動に移ることもない。
そして、その推察は実際的を射ていた。
「……クソッ。無傷だな」
『悔しながらも、ね』
「ハッ!」
脳裏に直接木霊するふざけた声音。
十中八九、『念話』だろうな。
言うに及ばず、声音の細やかなトーンなどが不明慮であろうとも、これほどまでに軽薄な口調の人材はこの世界でたった一人だ。
「――アキラ」
『はいはーい! 皆のアイドル(♂)のアキラちゃんでぇーす!』
「オロロロロロ……」
『吐く? 普通吐く?』
妙に甲高いアキラの声音を聞いた瞬間、ガバルドが何故か送り付けたアキちゃんのプロマイドを彷彿としてしまった俺はどうやら頭がおかしくなってしまったのかもしれない。
俺は残念な性格ゆえに有り余る隔絶した容姿を台無しにしていらっしゃる阿呆へ猛然と抗議していった。
「おいアキラ! 今俺諸共滅ぼそうとしたろ!」
『おいおい……どうしたんだ親愛なるレギウルス君。このボクがそんな極悪非道な暴虐、するワケないじゃないか」
「お前の生涯もう一度シッカリ見直してからそんな戯言は吐け」
ぶっちゃけ俺なんかよりも余程性根から悪辣に染まり切ったアキラみたいな野郎がそんなことを言ってもなあ……。
というか、
「……で、輪郭はつかめたか?」
『ま・だ♡』
「アキラ。お前には人体が成せる最高峰の打撃を披露してやろうと思う」
うぜぇ。
と、盛大にアキラのうざったさに頬を歪ます俺へ、どこまでも鋭い『老龍』の猛攻が畳みかけられる。
「余所見か?」
「余裕だろうが」
そう俺は返答しながら『老龍』が大太刀を振るうことにより編み出した鋭い斬撃を身を屈めて回避。
そのまま低い姿勢で電光石火が如き勢いで跳躍だ。
その憎たらしい顔面へ剛腕を振るうが――依然、結界は微動だにすることもなく、ただただ骨髄へ衝撃が響く。
しかもこの衝撃、存外余韻が長い!
手首が痺れ、ほんの一瞬硬直する俺へ、『老龍』は痛烈かつ正確無比な刺突を繰り出していtった。
俺はそれを死力を尽くして回避しながら、猛然と悪態を吐く。
「クソがっ! マジでクソゲーだな、オイ」
「吠えるな雑種。煩わしい」
「ハッ! 爬虫類がなにほざいてやがんだよ!」
現状、俺の『紅血刀』の内に宿った血液のストックには限りがあり、そして俺はアキラとの一戦、こいつと刃を交えたことにより、たんまりそれを浪費してしまっているというのが悲しい事実なのである。
それ故に、無駄な出費は阻止せねばならない。
『紅血刀』の残留血液は残り五割。
そこらに有象無象がたむろっているのなら苦労はしないのだが、生憎アーティファクトの結界を張る関係で人口は俺とアキラの二人っきり。
アキラは細身過ぎるの論外である。
頼みの『老龍』も、そもそも触れることも叶いやしないというこのうざったい現実である。
「あー。マジで死ねばいいのに」
「ハッ」
『老龍』はそう疲れ切った中年リーマンさながらの仕草で溜息を吐く俺を見下ろし、冷笑を浮かべる。
そして――、
「ふむ。どうやら貴様には物理攻撃の一切合切が不毛なようだ」
「理解したか? ならさっさと克服してくれると嬉しいな」
「戯れ言をっ」
『老龍』は心底忌々しいとばかりにその怜悧な瞳を更に細め、俺という矮小な存在を射抜いていく。
そんな彼の瞳には諦観などという感情は一切宿っておらず。
「――■」
「!?」
――違和感、
『老龍』が発したのは明らかに生物に解せる範疇を超越しており、その真意を推し量ることは必然成し得ない。
だが、これだけは理解できる。
「――『神罰之雷槍』」
刹那――世界が白熱した。
視界が純白に支配されていき、一瞬で眼球が、その莫大な熱量により余波のみで蒸発してしまった。
臓腑は言うに及ばず。
消化液は一瞬で気化していくことにより存分にその体積を増大させ、それを覆う臓器の一切合切が破裂。
痛覚?
そんなモノ、もう既に魂が切り捨てている。
そんな冷酷な魂も即座に焼け爛れていき――、
「――ぁぁがっ!?」
「……やはり、これでもなお生存しているか」
『老龍』は忌々し気に目を鋭く細め、依然満身創痍ながらも逆再生でもするかのように治癒されていく俺の肉体を眺める。
「……この刀は特別性なんだ。この程度では崩壊しやしねえよ」
「ふむ。どうやらそのようだ」
「……?」
やけにアッサリとした返答だな。
傲慢の代名詞たる奴のことだ。
ありとあらゆる事象に対して過敏に反応すると、そう考慮していたが……もしや、それは俺の考えすぎか?
と、目を丸くした最中。
「――■」
「!?」
唐突に、心臓を強く掌握されたような、そんな異物感が――、
「ぁっ、がっ……!」
まるで、口元に混入が喉元で蠢いているような、そんなおぞましく人類とは相いれない感覚がひしめく。
世界が揺れる。
患ったのは、風邪の上位互換のようなそんなモノであろうか。
不快なことこの上なく、今にも口元から盛大に胃液を吐き出してしまいそうな嘔吐感が込み上げてくる。
「これが、お前の魔術かよ……っ!」
「御名答。では、死ね」
そして、『老龍の得物』が俺へと急迫していった瞬間――、




