表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
446/584

彼我の
















――ドクドクと、それを肌で感じる。


 ようやく、ようやく今更になってこの天命が洪水のように鮮血と共に溢れかえっていく光景に冷笑を浮かべる。


 なんとも、皮肉なモノだ。


 ようやく、奴への手がかりを掴めたというのに。

 ルインという胡乱な青年と取引をし、あの白衣の青年と白い少年の素性を指南してもらえる筈だったのに。


 ようやく、最高の果実を味わえる筈だったのに。


 なのに、今更死?


「アハッ」


 また、失笑してしまう。


 あれから、ずっとこの張り付いたような、まるで涙ぐんでいるような、そんな歪な笑みが離れることはない。

 これでもいいと、そう心のどっかでは諦観している。


 待ち望んだ暗闇は、もうすぐそこなのだ。


 ようやく、二百年越しに悲願を叶えることができるのだ。


 ならば、何故抵抗する?


「ぁああ……」


 既に、身体の再生は停止している。


 そもそもあの刀身には『再生不可』という厄介なことこの上ない魔術が付与されていたのも起因の一つ。

 だが、何よりもレアン自身がこの末路を受け止めたというのが主要因。


 レアンの魔術はエネルギーの否定。


 それは必然、魔術も含まれる。


 つまり、やろうと思えばこの程度の魔術、容易く一蹴してしまえるのだ、


 だというのに、それを実行しないのは、きっと――、


「……悔恨、かなあ」


 きっと、もう既に狂い果ててしまった自分自身に、心の奥底では失意し、蔑んでいてしまっていたのだろう。

 それ故に、心はどこか穏やかだ。


(死ねる……か)


 終末。


 これこそが、あの実験場により完膚無きままに崩壊してしまったレアン――『暴食鬼』の、その末路か。

 成程。


 確かに、度し難い悪役にはお似合いの結末だ。


 誰も視線を向けることもなく、それどころか憎悪とその死に快感さえ抱いてしまうような、そんな生き様なのだ。

 ならば、かつての常人として、甘んじてこれを受け入れようか。


「あー。死ぬなあ」


 既にあの時のように失血により視界は霞んでいき、上下左右があらぬ方向に崩れ去っていっていた。

 死因は純然な失血死か。


 実に、味気ない。


「――――」


 声帯はとっくの昔に機能を終幕しており、更に人体の中枢を担う神経の一切合切は風前の灯である。

 暗闇は、そう遠くはない。


 どうせ朽ち果てると、そう諦観していた下らない生涯だったら、その末路さえも存外救い難いよな。

 

――それで、良いのか?


「――――」


 こんなどうしようもない空腹に満たされ、息も絶え絶えの状態で朽ち果てるだなんて――そんなモノ、俄然愉しくなんてない。

 悦楽も、歓喜も感じない。


 こんな、こんなつまらない生涯に、せめて今際の際に、最高峰の調味料をこれでもかと塗りたくることができたら、どれだけ幸せだろうか。


「――存外、ボクらしくもない」


 自分は、今日死ぬ。

 今回の一件を早々に片付け、そしてルインなる青年との契約により、あの男たちの所在地を聞き出し、殺す。


 逆に、復讐に失墜してしまい、容易く蹴散らされてしまっても、それでもいいと思ってしまえてもいる。


 それでいい。


 ここで野垂れ字ぬよりは、まだマシだ。


「アハハハハ」


 哄笑。


 レアンは、口元をこれでもかと歪めながら、とっくの昔に修復したその両足で再度二足歩行を再開する。

 向かう先?


 そんなの、必然だ。


「――前菜にしては、存外味わい深い男だな」

















――ガバルド・アレスタ。


 確か、数十年前にちょっとした戯れに制作した『暴食鬼』とかいう組織を解体した張本人であったか。

 そんな彼を、かつてのお山の大将が惨殺する。


 これ程までに皮肉な結末、存在するだろうか。


「まずは手始めに脳髄を引きずり出して、あの時同担していたガキにでも見せつけてやるか。もしかして、耐え切れなくなってボクみたいになっちゃうのかなあ?」


 その未来は、是非とも前任者とすて歓迎しよう。


 あの純真な彼女を、絶え間の無い獄炎が支配するようになった時、あの子はどんな表情をするだろうか。


 渋面?

 憤怒に頬を歪ます?

 それとも――ボクみたいな、醜悪な笑み?


 心底、愉しみだ。


 そこらの有象無象なんぞ前菜以下でしかなかったのだが、まさかこれほどまでに味わい深いとは……。

 どうやら、人は外見によらないらしい。


「良いことをラーニングできたね。後で、死体に感謝でもしてみるか」


 レアンは、その両腕の指先に獣特有の鋭利な鉤爪を生やし、そして口元に嘲笑を浮かべていき――、


「――はい、ストップっス」


「……は?」


――声が、聞こえた。


 それは、幾度となく深い微睡の中でどうしても幻聴してしまう、あの酷く醜悪でどうしようもないくらい愛おしい声音で。


「――白衣ィッ‼」


「そう吠えるなっス。感謝するっスよ? なにせ、こうして私が直々に姿を現しているのだがらねえっス」


「――ッッ!! 死ね!」


 前菜?


 そんな心底どうでもいいモノの存在なんて、とっくの昔にレオンの脳裏には消え失せており、今魂を支配するのは圧倒的な空腹。

 この渇きを満たすには、痛烈な甘味を。


 さあ、この最高峰の果実を喰らいつこうではないか。


 しゃぶって、反吐をぶちまけて、跡形もなく細切れにして――そしたら、きっとボクたちは友達になれる。


「――ッッ!」


「やれやれっスね……」


 猛烈な勢いで大地を陥没させてしまうような勢いでこちらへと跳躍するレオンの愚直な姿勢に、思わず呆れ果ててしまう白衣の青年。

 そして――、


「――ホント、君は相も変わらずっスね」


「っ!!」


――直後、天地がひっくり返る。


 白衣の青年は猛然と飛びかかるレオンの勢いを逆に利用することにより、痛烈な天地投げを披露する。

 無論、眼前の存在に無我夢中なレオンがそれに反逆することもできずに――、


「あっ、があっ」


「ふんっ」


 白衣の青年は容易く倒れ伏すレオンを、あの時と同じようにモルモットでも見下すような、そんな表情で目を細める。

 そして、


「――そんなんだから、キミは何時まで経っても地に這いつくばるんっスよ」


「――!!」


 そして、なんら躊躇することなく白衣の青年はレオンの顔面を靴底でこの上なく屈辱的に踏みつけにする。

 その瞳は、依然怜悧な感情とも言い得ないモノが宿っている。


 どうやら、存外彼は健在なようだ。


「――カッハ」


「……どうして嗤うんっスか?」


 堪え切れないとばかりに溢れ出すその笑みに、どこか畏怖でもするかのような表情で咎める白衣の青年。

 そんな彼に、即座に靴底の束縛から撤退したレオンは解説する。


「――無論、悦楽故に。お前を殺すその過程、それさえも度し難い程に甘美であったようだなああああ!」


「……キッショ」


 白衣の男は、初めてニンゲンらしい感情を眉根を顰めることにより誇示するが、レオンはそんなことに頓着しない。

 だって、今固執すべきなのはとっくの昔に決定している。


 なのに、今更余所見?


「ふっ。ボクはお前のようなクズとは違い、存外一途なんだよっ」


「君なんかに求愛されようが、全然嬉しくないっス。もはや彼に同じ仕草をしてもらった方が愛嬌を感じるっス」


「彼、ね……」


 レオンは口癖のように吐き出される『彼』という単語に怪訝に思うが、すぐさまその些事を記憶の彼方に。

 次いで、魔術を起動。


「――殺す」


「やってみろっス……って、普段の私ならノリノリでのっかてたんっスけどねえ。――事情が変わってるんっスよ」


「知らん」


 レオンはとほほと頬を欠く白衣の男に意に介せず、猛然と特攻し――直後、胴体の残して人体の一切合切が消し飛ぶ。


「――彼我の実力差位、本能で悟れ」


「――――」


 今、なにをされた。


 それこそ、知覚した瞬間には四肢が吹き飛んでおり――、


「さて――君には、もっと別の役割があるよ。――精々、生き足掻いてね」


 そして――白衣の男の指先がレオンの額へ触れ――、










――ツギハギ、狂っていく。


 否。 

 そんなの、今更か。

 

――ツギハギ、狂っていく。


 怖い。

 真面に感情の抑制が叶わず、それこそ本物の狂人と罵倒されても可笑しくはない有様になってしまっている。


――ツギハギ、狂っていく。


 それでいいと思った。

 きっと自分は、たとえ殺されなくとも魂の中枢を担う機関が瓦解し、完膚無きままに塵になって消え去るだろう。


 正直、物足りない。


 だが、それでも一縷の望みをかけて、ようやく再開を果たした奴を■せば――、


「ああ――なんて愉しいのかしら」


 そう、クルス・レオンという少女は、口元に醜悪な冷笑を浮かべた。




 ボクっ娘っていう記事を閲覧した段階で、既にこうなる気はしてました。


 一応、描写に「彼」や「彼女」といった性別を明確にしてしまうようなモノは避けていますので、違和感を感じた人も居るかと思われます。

 ちなみに、本来なら口調はもっと可愛らしいですよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ