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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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『老龍』


 『老龍』って、実は生粋の苦労人なんですよね、 

 あの傲慢な性根も、ルインというクソ上司、及びブラック企業さえも真っ青な激務に対して、せめてものストレス発散です。

 ちなみに『老龍』さんって基本サラリーマンみたいなモノですから、ルインという悪徳上司には暴露していな情念がありますが……それはまた別の話です。


 強く生きよサラリーマン。
















「あー。怠っ」


 俺は欠伸を噛み殺しながら、とぼとぼと廃墟から遠ざかる。


 あくまでも、これはあの手の輩専用。

 そもそも『老龍』のあのサイズでは折角ライムちゃんが制作したあの廃墟に足を踏み入れることさえ叶わないだろう。


 精々、これからは避難所程度の役割しか果たさなそうだな。


 そんな結論を思案する俺の傍らに、隕石が如く巨躯が落下する。


 無論、素性など知れたことだ。


「――レギウルス」


「よっ。お前も片付けてきたんだな」


 レギウルスはそう裂傷だらけの右腕で頭を掻きながら、こちらへと歩み寄ってくる。


 右腕の惨状からおおよそ如何なる事態が繰り広げられてきたのか察した俺は、すぐさまジト目になる。


「お前……幾ら何でも『獣宿し』の連発はないっしょ。死ぬよ、普通」


「おいおい……俺をそこらの有象無象と一緒にするなよ。この程度で死に腐るような鍛え方はしてねえよ」


「さいですか」


 脳筋は今日も今日とて平常運転だな。


 そんな心底どうでもいい事実を思念しながら、俺はちらりと横目でそれを一瞥する。


「さて……邪魔者の掃討は既に済んだんだよな」


「ハッ! 誰に言ってんだよ」


「リアルキング〇ング」


「アキラ妹よ。お前のお兄ちゃんは今から不慮の事故でお亡くなりになるぞ」


「縁起でもないこと言うなよ」


 生粋の脳筋ならばやりかねない暴虐である。


 俺はそんな『傲慢の英雄』の残念さに「はあ……」と重苦しい溜息を吐きながら、それを――こちらを見据える『老龍』を一瞥する。


「部下は既にお全滅。依然、こちらの戦力は健在……どころか倍増だ。投降するなら今だぞ、お山の大将」


「……ハッ」


「――――」


 俺はそう冷笑を浮かべながら早期解決を促すが――『老龍』は、心底下らないとばかりに俺の提言を鼻で嗤う。


「この世で最も愚かしい発言だな。貴様らが如何に小細工を弄そうが、私のような至高の存在に敵う筈がない」


「至高って……ナルシストかよっ」


「レギウルス。気持ちは分かるがちょっと黙ろうか」


 確かに、俯瞰してみればその手の輩――現代中学生が一度は経験した、あの病を患っているとしか思えない言動だな。

 

 存在自体がジョークみたいな奴である。


 が、それも必然か。


――英雄無敗。

 

 それこそが、その確固たる自尊心の根幹を支える起因だ。


 これまで、幾度となく『老龍』は人種の垣根を一切度外視し、無差別に暴虐の限りを尽くしてきた、

 無論、それを搾取される側が咎めない筈もなく。


 伝説の一ページを刻む英傑、世界中の知識を寄せ集めた賢者、幾多もの修羅場を経験した猛者たち。

 彼らは皆『老龍』へ牙を剥き――等しく。破れた。


 それも、傷一つ付けることも叶わなかったという。


 否。

 それには一つ注意書きが必須だな。


 一度。

 たった一度だけ、老龍は掠り傷程度ではあるが負傷したことがある。

 だが――逆に言えば、それ以外は無傷で人々を蹂躙してきたのだ。


 それ故に常日頃龍種が世界の頂点に降り立とうと目論む龍たちの間では、『王』と信仰に近い勢いで敬愛されたきた。


 ならば、これほど傲慢な人柄になってしまうのもやむを得ないだろう。


「ウチと『傲慢』とは雲泥の差だな……」


「おいおい、履き違えるなよ。俺程品性行為な人物は存在しないだろ? あんな奴、比較する以前の問題だろ」


「アハハ、レギウルスってお笑い芸人向いているよね!」


「オイコラ、そりゃどういう意味だよ」


 ご想像にお任せしますとでもコメントしておこう。


 と、『老龍』はそんな俺たちの場違いな程にコミカルなやり取りに苛立ったのか、どこか不機嫌そうに目を細める。


「貴様ら……よくもまあ、これほどの逆境に立たされていながらも、それほどまでに和気藹々としていられるな」


「……逆境?」


「アキラ。済まないが無知な俺では知りない単語だな。意味を教えてくれよ」


 俺もレギウルスも、『老龍』が自信満々で言い放った声音の意味を噛み砕くことができず、共に小首を傾げる。

 

 が、そんな俺たちのリアクションは烈火にこれでもかと油をぶちまけるかのような暴虐であったようだ。

 『老龍』は心なしか顔を真っ赤にしながら猛然と吠える。


「貴様らっ……! つくづく私を愚弄しおってっ」


「? 俺たち、なんか悪い事した?」


「してないよな。だって品性行為のレギウルスさんだもの」


「だよな」


「――ッッ‼」


 なんだろう。

 何故か『老龍』が周囲一帯の大気が激震する程に激怒しているような、そんな風貌に見えるのだが……。


「どうしたんだい『老龍』くん! ジジイらしく血糖値が上がって、息も絶え絶えなのかな?」


「違うだろ。アレはきっと認知症が深刻化して幼児退行を――」


「貴様ら、この私を老人扱いするな!!」


「「???」」


「ああもう! うざったい奴らだな!」


 ?

 うざったい奴ら……もしや、結界の中に侵入者が足を踏み入れでもしたのではないだろうかと、俺は周囲を見渡す。

 

 ……誰も居ないな。


 ふむ。

 どうやら『老龍』は中〇病な上に認知症、果てや幻覚まで患っているようだ。

 存外業が深いお人である。


(……もっと風格と威厳が欲しかった)


 つくづく存在自体が冗談のような蜥蜴さんである。


 俺がそう呆れ果てた直後――、


「――殺す」


「――っ」


 そして、全身に肌を刺すような殺気が押し寄せた。

 
















「――――」


 全身が絶え間もなく『それ』から溢れ出す圧倒的な暴威の気配に竦み、真面な回避行動に移ることができない。

 否、それは厳密には異なる。


 俺の魂自体は、それほどまでに恐怖に震え上がっていることはない。


 なにせ俺だ。

 この程度の動揺、沙織の機嫌を損ねた時の狼狽ぶりに比べてしまえばまさに天と地ほどに差異が存在するだろう。


 つまり、身が竦んでいるのは俺の肉体。


(肉体への直接的な干渉……!?)


 しかも、その練度は見るからに中々の品物だ。


 俺が真面に身じろぎ一つさえ満足にできやしないという事実から、その程度は推して知るべしである。

 

(クソッ、干渉してるのはあくまで肉体! 魂魄魔術は不毛かよっ)


 仮に『老龍』が干渉したのが魂魄に類するモノなら、まだ救いようはあった。


 自分で言うのもなんだが、俺の魂が常軌を逸している。

 それ故に生半可な魔術ではロクに干渉するどころか、術師本人に跳ね返ってしまう可能性さえあるのだ。


 それに、最悪覚えたての魂魄魔術でどうこうすることはできるからな。


 が、老龍の思念が干渉しているのは純然たる肉体!


 こればかりは身体強化の類や魂魄魔術、魂云々ではどうこうできずに、もはや存命は絶望的だと諦観しかけたその時。


「そぉいっ!」


「ッ!?」


 突如、流星が如く振るわれたしなやかな蹴りが俺の腹部を強打する。

 

 もはや内臓が完膚無きままに圧殺されていてもなんら可笑しくない一撃であったが、流石に手加減しているのか。

 が、それでもその絶大な威力は健在。

 

 必然、彗星と見紛う程の勢いで廃墟へ激突する俺であった。


「おいレギウルス! テメェ何本気で蹴ってんだよ!?」


「スマンスマン。うっかりで」


「そのうっかりで危うく天に召されかけたのだが」


「それは良かったな! 良い事じゃないか!」


「オイコラ、どういう意味だよ、それ」


 どうやら俺は人選を履き違えたようだ。


 と、今更ながら、どうしてレギウルスをパートナーに設定したのかと後悔しながらも、「チッ!」と盛大に舌打ちする『老龍』を一瞥する。


「――――」


 よくよく目を凝らしてみると、つい先程まで俺が滞在していた地点の大地が盛大という形容さえ生温い程に抉れている。


 そして、いつのまに人間形態に転変した『老龍』の片腕には思わず見惚れてしまう程に鮮烈な片手剣が。


 見るからに業物と看破できるあの刀剣に龍の頂点に君臨する者の膂力が絡み合う時、それは必殺必中の一撃へと昇華されるだろう。

 あるいは、レギウルスのサポートがなければあのまま膾にされていたかもしれない。


(おいおい……聞いてねえぞ、こりゃあ)


 そして『老龍』は手元の片手剣の切っ先を俺たちに向け、宣言する。


「貴様らには誰もが羨む栄誉を与えよう。――私直々に殺められるという、その栄誉を」


 直後――『老龍』の輪郭が掻き消える。




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