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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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バットエンド


 ドンマイ!

 君たちの再登場はもうないよ! だって死んじゃってるからね!


 そういうお話です。作者の外道さが伺えるコメントですね・。













「――――」

 

 直後、音が消えた。


 そう見紛う程にその存在は気高く、至高の存在たる『龍』さえも児戯に思える程に誇り高き存在だった。

 更に異様なのは、それが放つ痛烈な威信。


 蛇に睨まれる蛙と表現した方が適切か。


 本能は無性に理解する。


――アレは、隔絶した存在だと。


「――――」


 誰も彼も――そして、俺自身さえも硬直するその威容に、誰も彼もが固唾をのみ、ジッと見守ってしまう。

 水流さえもどこか遠慮しているように感じられる。


(さて……どうなる?)


 水流に自立意識を組み込む『紅獅子』。


 一応、ある程度は俺の勅命を聞き入れるようにしている。

 だが、れっきとした人格が存在するこの獅子がそれを受容し、首肯してくれるのかはまた別の問題であり――、


「――ッッ!」


 殺気!


 俺は目を見開きながら、その場から飛び退く。


 直後に廃墟を傲然と震わせたのは常軌を逸した膂力により震え荒れた剛腕である。

 クソッ、真っ先に俺か!

 つくづく運がない!


 そう歯噛みする俺は、面倒ながらも魔力を更に付与。


 そして、その魂に俺の勅命を焼き付かせ――、


「――――」


「――っ」


 それまで親の仇とばかりに俺を睥睨していた獅子の視線は、不意に立ち尽くす水晶龍へ向けられることとなり――、


「――ッ」


「――ぁ」


――そして、水晶龍の上半身の大部分が消し飛んでいった。


 もはや、溢れ出す鮮血さえもない。

 跡形もなくその肉塊を水晶ごと呑み込んだ龍はそれでもなお足りないとばかりに、再度水晶龍へ向き直る。


「……これほどか」


 一応、これはぶっつけ本番ではない。


 そんな愚行、余程リスクが極限にまで高い技でもない限り実施する筈もないのだ。

 閑話休題。


「――――」


(まあ、術式改変なんてモノを併用した意義はあったな)


 本来ならば、『術式改変』は行使する意味は皆無であった。

 なにせ、あれだけの硬度を誇る水晶龍さえも、たった一撃で吹き飛ばしてしまう『紅獅子』なのだ。


 最初から顕現できていれば、どれだけ楽だったか。


(悪かったな魂魄系適正雑魚で!)


 基本的に魔術は固有のモノ以外、ほぼ全てを行使することができる。


 が、それは適正と練度を度外視した話。


 実戦で行使できるかの是非は適正により問われるのだ。


 その点、俺の魂魄魔術との適性は凡庸そのもの。

 流石に『蒼海』のように上手くはいかず、当初は中々に苦戦していたが、『蒼海』と並行して併用することで、ある程度は行使できるようになった。


 が、それでも依然粗は多い。


 陣を構築するにはそれ相応の時間を要するだろうな。


 ちなみに、事前に陣を書くという手段も存在したのだが、それを実行すると相当陣が広大になるんだよなあ。

 それこそ、ドームレベルで。


 そういった事情で魂魄魔術の構築にはどうしても時間を浪費してしまう。


 更に魔力の隠蔽性も最悪だ。


 ガイアスに論外と断じられてもなんら可笑しくない程に魔力が駄々洩れになってしまい、容易く阻止されてしまうだろうなあ。


 だからこその、『蒼ノ地平線』である。


(あわよくば本命以外で勝手に死に果てればいいのになあ)


 が、そんな都合の良いことは叶わないからこういう戦局になっているんだよな。


 反省すべきである。


「――――」


「くっ……! ――『虹晶』ッッ‼」


 おや。

 水晶龍は額に滝のように冷や汗を浮かべながらも、その掌からこの廃墟を埋め尽くす勢いで莫大な物量の結晶を吐き出す。


 物凄い勢いで『紅獅子』へと殺到していったその結晶は容易くその巨体を押し潰し、遠く彼方へと吹き飛ばす。


 ……でもなあ。

 

「ふっ。存外脆かったな。そういう縛りか?」


「……間違っちゃいないんだけどなあ」


「?」


 確かに、『自戒』はゴリゴリ利用している。


 自立意識を付与することにより俺が操作する手間を軽減することにより、その分を大いに獅子自身の力量に割り振ってある。

 その他諸々の『自戒』あり。


 まあ、そんな諸事情はともかく。


「余所見している場合か?」


「……虚勢か?」


「さあ。どうだろうか」


 依然水流は健在だが、どうもその勢いは『紅獅子』を顕現してしまったことにより、やや低減しているように思える。

 それを勝機と捉えたか。


「油断も慢心もない。――殺す」


「……油断も慢心もない、ね」


 そんなこと言っちゃって、大いに気が抜けちゃってるじゃんかとツッコミたいのだが、非合理的なので黙秘権を行使。

 俺の意味深な発言に小首を傾げ、その真意を武力により問おうとした直後。


「――シン!」


「――っ」


 突如、ひび割れた声音が。


 どうやら俺の目測通り物理攻撃はほぼほぼ通用しないらしく、息も絶え絶えながらもしっかりと吐息を刻む腐食龍の姿が。

 そんな彼が、柄にもなく声を荒げている様だ。


 ……一応、両者共に死角だったんだけどなあ。


 俺はそう嘆息し、


「――やっちまいな」


「――――」


 返答は、言うに及ばず不要。


 俺は口元に堪え切れないとばかりに悪辣な笑みを浮かべ――入れ違い様に痛烈な斬撃を浴びせた『紅獅子』から飛び退く。


「え?」


 明らかに殺害した筈の存在がこちらへと猛然と降りかかった『紅獅子』に目を剥き――、


「――サヨナラ、頑固者」


――そして、その頭部が猛烈な勢いで顎門に喰いつかれていった。
















「お前ぇっ……!」


「へえ。案外情に厚いタイプだったんだね、君。いいよいいよ。俺、そういう奴らを踏み躙るの、とっても大好きだから♡」


「――――」


 一周回った憤慨のあまりに真顔になる腐食龍。


 え?

 水晶龍の命運?

 いい肥やしになりましたと言っておこう。


 ちなみに確実に次の標的は十中八九俺で間違いないので、役目を果たした彼には早々に退場してもらった。

 いやー、存外いい役目をはたしてくれたとちょっと満足。


「んん? ねえ、今どんな気持ちなの? とっても大好きな同胞が呆気なく踏み躙られて、どんな気持ちぃ?」


「――ッッ‼」


 ギリッ!と歯噛みする腐食龍。


 そう、こいつって実際のところコミュ障気味なだけで実際は同僚に対しては一定の親しみを感じていたのだ。

 もちろん俺は初見から看破していたがな。


 まあ、そんなことを言及しようが仕様がない。


「送ってやるよ。あいつの元に」


「おま、えぇっ……!」


 腐食龍は水晶龍の亡骸の一部を何でもないように文字通り踏み躙る俺を、射殺せんとばかりに睥睨している。

 が、安易に激怒に身を委ねないな。

 

 それは先刻の『紅獅子』を大いに警戒しているからか。

 どれにせよ、結論に差異はありやしない。


「――小心者なんだな。こいつと似て」


「……ア”ァ?」


 熱烈な殺気が肌を刺す。


 流石龍だけあって腐食龍が発する気配は圧巻の一言であり、流石に俺でもほんのちょっとだけ萎縮してしまいそうである。

 だが、悲しいかな。


 この龍、存外冷徹なのだ。

 

 それ故に俺という厄介かつ迂遠極まりない存在に大いに警戒を示し、現にこうして友人(笑)の死に義憤を抱き、それでもなおたたら踏んでいるのだから。


 だから――、


「――そんなんだから、どこにも届きやしなんだよ」


「――ぁ」


 直後、俺は水流を操作することにより運んでいた聖水を、一気にバケツをひっくり返すように腐食龍へぶちまける。


 腐食龍はアンデットの類だ。

 事実、聖水の威力は覿面。

 

「!!!!????」


「……チッ」


 が、それでも僅かな差異で致命傷に至ることはない。


 俺は想像を絶する苦痛に身悶える腐食龍へ靴音を木霊させながら肉薄し――、


「――『可視』」


「――――」


 物理攻撃無効?

 よろしい。――ならば、魂自身を直接ぶん殴ってやるよ。


 俺の拙い魂魄魔術によりようやく可視化されたその魂の輪郭にせせ笑い、もはや抵抗する余力もない腐食龍へ、


「――ゲームオーバーだなあ、オイ」


 そして、その魂を――、





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