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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
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運命の出会い……?


 ちなみに、沙織さんって普段はとても礼儀正しく愛嬌も振りまく可愛い女の子ですよ。――不倶戴天の宿敵、巨乳以外は。














「……どこから話せばいいのやら。というか、メイルはどこまで知ってるの?」


「そんなの関係ないじゃない。手短に、でも私がちゃんと理解できるように解答してよね、おっぱい星人」


「おっぱい星人……」


 まさに、犬猿の仲。


 刃傷沙汰にまで発達することこそないものの、どうも険悪な間柄が定着してしまっている両者である。

 が、それでは話が進まないので。


「――二人とも?」


「「スミマセンでした」」


 メイルさん、とってもいい笑顔でいがみ合う二人を睥睨する。

 

 必然、図らずとも尻に敷かれてしまっていた二人はそれに反することもできず、静かに正座で忠節を示した。

 その献身、まさにハ〇公の如く!


「……それで? スゴイ変わり身だったんだけど、どういうことなの?」


「あら? 疑ってる?」


「ん。それは違うのだ」


「――――」


 メイルとて、そんな単純明快なことを履き違えることはない。

 メイルは自信満々な、どこか誇らしげな表情で胸を張り、断言する。


「私だから分かる。――お母さんは、嘘を吐いていない」


「……根拠は?」


「特にないのだ!」


「……メス豚、ちょっとこれは将来的にどうなの?」


「確かに、ほいほい男に――レギとかいうクソガキに絆されそうわよね。……あと、メス豚ってどういう意味かしら」


「お構いなく」


「大いに構うんだけど」


 もはや恥も外聞もなくテレビならば規制音が必須な発言を、いつにないブラックな雰囲気を纏いながら発する沙織さん。

 それに負けじとセフィールもちょっと対抗心を抱いているようである。


「ごほんっ」


 もちろん、龍種として異次元の域に到達したメイルがそんな囁き合いを聞き逃す筈もなく、咳払いにより咎める。

 が――、


「風邪?」


「埃よ」


「――――」


 頬を引き攣らせるメイルさん。


 どうやら、大人びたセフィールはともかく、沙織はド天然さんであったようだ。


 そんな姿に少々ときめいてしまう自らの業の深さに微苦笑しながら、メイルは「はあ……」と定番の溜息を吐く。


「……本筋に戻るのだ」


「ええ。そうね。――私の豹変の、そのルーツ。それが知りたいのかしら」


「ああ。そうなのだ」


「――――」


 最悪、これがブラフである可能性もある。


 それを考慮し密かに大鎌を握る沙織を看破したものの、「まあしょうがないか」と納得するセフィールであった。

 

 なにせ、先刻まで殺し合っていた奴がいきなり母親面したのだ。


 これで罠を疑わない方がどうかしている。


(そんな中でもメイルは私を無条件に信じてくれる。あぁ――幸せ!)


 ちょっと鼻息荒くなるセフィールさんであった。

 

 そんなちょっとアレな表情をするセフィールを「流石Mは違うな……」と感心半分、呆れ半分で眺める沙織。

 誤解である。


「ふむ……メイルはどこまで?」


「生憎、『術式改変』を会得する際に見た記憶でも、生まれた瞬間程度しか、閲覧できなかったのだ」


「まあ、なにせ数百年前だからね」


「逆になんて誕生の瞬間だけ記憶しているだよって話わよねえ」


 その、不可解な記憶の履き違えに小首を傾げる愛娘に目を細るセフィールに、思わぬカウンターが。


「そういえば……その頃のお母さん、ツンツンして、でも時々デレてたのだ」


「!?」


「そ、それってツンデレじゃ……」


「!?」


 セフィールさん、「嘘でしょ!?」と愕然としていらっしゃる。


 そして、それこそが何よりをも証明で。


「ねえねえ、ツンデレおっぱいさん。今どんな気持ちぃ? 娘に実はツンデレ娘って発覚して、今どんな気持ちなのぉ?」


「ああああああッッ‼ 止めて! 思い出させないで!」


 セフィールさん、悶絶。


 あるいはそれは、黒歴史ノートを高らかに朗読されてしまったような、そんな心境に類似しているのだろう。

 だから――、


「――可愛かったよ、おかあさん♡」


「もう止めて――――――――ッ!!」


 メイルの悪乗りに、らしくもなく絶叫するセフィールさんであった。
















「……話を、戻すわよ」


「ツンデレ逸話に?」


「話を、戻すわよ!」


 セフィールさん、物凄く恥ずかしいのは耳の先まで紅潮しながら、声を荒げそう号令する。


「……沙織。お母さんが困ってるでしょ」


「でもメイルだって弄ったじゃん」


「い、いや……ちょっと、嗜虐心を煽られて」


「!?」


 未だビクッ!と震えるセフィールさんであった。


「というか、お母さんってどういう経緯で結婚したのだ? 何気に謎なのだが」


「……言わなきゃダメかしら」


「……ダメ?」


 メイルちゃん、これでもかと愛らしさを強調した上目遣い!


 もちろん、一発でKОである。

 そんな「可愛すぎる……ウチの娘可愛すぎるよお……」と悶絶するセフィールを呆れた眼差しで見下ろす沙織さんであった。


 数十秒後、ようやく発作(?)から立ち直ったのか、セフィールは「ゴホンッ!」と咳払いをする。


「いいわ。だって、愛娘のおねだりだもの」


 と、鼻息荒く宣言するセフィールに、「キャラ、崩壊し過ぎぃ……」といっそ尊敬してしまう沙織であった。

 ブーメランである。


 そしてセフィールは、先程までのコミカルさはどこへら、どこか懐古するかのような眼差しで頭上を――もう有り得ない日々へ思い馳せる。


 そして――、


「私があの男と出会ったのは……もう、三百年くらい前になるかしらねえ」


「――――」


「ある、風が強い日だったわ。当時の私は荒れててね。それこそ、そこらの不良さえ裸足で逃げ出す始末だったわ」


 「やっぱり……」という言葉は沙織の胸の内に封じ込めておく。


「でも、なまじき実力があるからかしらねえ。当時私がどんなに好き勝手に人間たちを食い散らかしても誰も咎めないばかりか、逆に富と名声が得られる始末よ。今にして思えば、本当に痛いヤツだったわね」


「今も売女はそんなに変わらないと思うよ!」


 沙織さん、良い笑顔で断言!


 もちろん、メイルさんの鉄拳が存分に披露された。


 セフィールは空気を読まない沙織に嘆息しながらも、やや恥ずかしさ故に頬を赤らめながらも滔々と語る。


「でもね、そんな私にもたった一回だけ、地を這う機会があったの。――それが、メイスだったのよねえ」


「地を這うって、ドMさん狂喜乱舞じゃないですかあ」


「最初は、『何コイツ』って思ったの。私だって人の事をどうこう言える筋合いはないんだけど、骸骨か!ってツッコミなるくらいに華奢だったのよねえ。そりゃあ、私でもちょっとは油断しちゃうわあ」


「ざまあ。ババアざまあ」


 ちょくちょく聞こえてくる、悪意にまみれた歓声(?)は、言うまでもなく暗黙の了解でスルーである。


「ちょっと、当時色々あって苛立っててね。その、ちょっとした腹いせに、一国を火の海にしようと目論んでいたわねえ。いやあ、本当に若気の至りと言うか……本当に恥ずかしばかりわよねえ。情けないわあ」


「ものすんごくお似合いだよ、豚ババア!」


「……もしかしなくても、メイスとはそこで?」


「ええ。そういうカンジよ」


「――――」


 ストレス発散に国家を火の海に……。


 やることなすことが一々ダイナミック過ぎて、思わず頬を引き攣らせる常識人かつ苦労人なメイルであった。


「メイスはね、いっつも中立なの。どこにも属さず、されど孤立することもない。――でも、時偶にその理念を反することがあるわ。それは、基本的に自分にとってかけがえのないモノを奪われようとする時よ」


「――――」


「そして私は――あの男の逆鱗に触れた」


 結果は言うに及ばず。


 無論、セフィールも龍種としては相応高位。

 当初は馬鹿な勇者も居るものだなと呆れていたが――文字通り、直後瞬く間に瞬殺されてしまったらしい。


 それこそが、セフィールとメイスの、運命の出会い。


「少なくとも、この状況下で結婚に辿り着いたその根性は凄まじいことだけは理解できるのだ」


「同じく」


 運命の出会い……なのかもしれない。きっと。

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