『四血会議』
うーん。
ストック、ないわー。
「なんか、誰かが苦痛に呻いているような……アンパ●マンの出番か?」
「ちょっと何言ってるのか分からないですね」
「安心しろ。 言いだした俺自身も自分が何言ってるのかちょっとよくわからないから。 おかしいのはお前じゃなくて俺だ」
「自明の理ですね」
いつも通りのやり取りを交わす俺とシルファー。
というかシルファー俺が言ったことだとはいえ、俺の頭がおかしいことは否定しないんだな。
ちょっと酷いと思うの。
そう抗議すると「自業自得です」と論破」された。
確かにッ!
「――そういやさぁ、俺もそうだけど姫さんもだらけてていいの? そろそろ四血族会議があるだろ?」
「私はー、これでも努力していますよ」
「せめて布団の奴隷から脱却してからそういうことは言えよな」
俺は布団に丸まり返るシルファーを横目に本のページも進める。
今日の天気は豪雪。
この世界の天候は不安定の極みらしく、このようなことも日常茶判事らしい。
温暖湿潤気候に慣れてしまった俺としては日常でもなんでもなくただの異常事態である。
雪が降り積もれば自然温度も下がっていく。
屋敷という隔絶された空間でありながらも、氷点下の温度は俺たちへと、猛威を振るっているのだ!
故に、姫さんは布団の奴隷となる。
プルプルと生まれだての小鹿のように震えながら丸まり返るその姿は愛らしい小動物を彷彿とさせた。
「というかアキラさんはどうして平気そうな顔してるんですか!? もしかして既に感覚がなくなっていますか?」
「ハッ。 俺、残念系令嬢、違う」
「何ですかその失礼極まりない片語は」
ちなみに、俺が寒さに震えていないのは当然理由がある。
俺はそれなりに他の魔法への才能もある――だがガイアスの魔術や俺自身の魔術までの適正はない――ので、温度調節も楽々である。
嘘です、もう神経が擦り減りそうです。
だってしょうがないじゃん!?
そもそも俺はまだ魔術師として未成熟なんだよ!
師匠キャラらしきガイアスは毎度の如く雲隠れ中だ。
きっと俺の頭が痛くなるような暗躍を開始しているのだろう。
殴り殺したい。
姫さんといい、本当に自由だなぁと思う。
「言っとくが〈四血会議〉には騎士(笑)として俺も参加しろとおっさん……お前のお父様に強制されてるからな。 お前がとんでもない失敗し恥晒すのは自分自身だけじゃねぇぞ。 というわけでそろそろ布団から出て書類仕事しろ」
「あ、アキラさんがやってくださいよ! 本当に凍死しそうなんですよ!」
「ざまぁ、と言っておく」
やっぱりちょっと可愛いのが癪である。
――公にはなっていなが、内通者の存在は今では確定となった。
まずその根拠の一つがシルファー、否、屋敷への襲撃事件である。
俺はこの一週間でこの屋敷の恐ろしさを痛くなるほど理解している。
まずそもそも登録していないヤツは侵入することさえも不可能だという徹底ぶりである。
ここまでくると逆に感心してしまうな。
まぁ、そんなわけで屋敷への侵入、まして襲撃なんて困難を極める。
だが、一つそれを成すことが可能な可能性が存在する。
もし、死んでいった執事やメイドの中に内通者がいたら?
もしそいつが今も生きていたら?
この屋敷は、変幻自在と思われがちだが、パターン化された通路しか生み出すことができないのだ。
レイドとやらが迷わず案内できたのもそれが要因だろう。
(だからこそ、道さえ把握できれば襲撃なぞ容易い……)
可能性はかなり低い。
だが、無くもないんだよなこれがー。
こっちの方が俺が独自の方法で調べてみますか。
そしてもう一つ。
姫さん奪還作戦の際、月彦たち待機班の居場所が察知され、そして魔人族らしき襲撃者の手によって襲撃された。
これはこちらの動向を把握できていないと叶わないだろう。
月彦のレベルは既にカンスト、つまり100だ。
レベル上限者が生み出す召喚獣が並大抵の品物なわけないよな。
しかも月彦自身の隠形能力も本職には劣るがそれなりに高い。
だというのに、あり得ないはずの襲撃が起こってしまった。
(やっぱ、居るんだよなぁ……)
そしてこれらの情報は既に貴族たちへと伝わってしまっている。
彼らも俺と同じ結論にたどり着くだろう。
だからこそ行われた「四血会議」だ。
この会議は余程の有事でなければ開かれないらしい。
だが、近々この会議が開かれるという。
ルシファルス家襲撃事件が与えた影響はそれだけ大きいってことだな。
いや、それ以外にも様々な要因が重なって現状を作りだしている。
現状を脱破するには、一つずつこれらの懸念を丁寧に片づけないといけないだろうと俺は推測する。
(面倒極まりねぇな……)
「というわけで、俺の負担がなるべくへるように頑張って欲しい」
「それでも騎士ですかッ!」
「騎士じゃないもん俺」
あくまで護衛なのだよ。
そう言外に突き放すと、突如として布団が宙を舞った。
「あー! 分かりましたよ! やります、やればいいんでしょ!? この憎たらしい書類を破り裂けばいいんでしょ!」
「いや、破るなよ」
しつこく助言(洗脳ともいう)した甲斐があったようだ。
シルファーはヤケクソ気味に布団を投げ出し、書類を手に取り今にも破り捨てそうな剣幕で布団へと出戻る。
「済みません、布団で転がりながら書類仕事してもいいですか? 死ぬので」
「なんか御免」
あまりに切実な訴えに俺は申し訳なさそうに謝罪を零したのである。




