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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
六章・「桜町の夜叉」
426/584

―■――■■■


 龍は基本喋れないし、喋れるにしてもくぐもっております。そこら辺、区別するために『』を使用していますよ。

 ぶっちゃけ見にくいですよね!












――咆哮。


 それこそ、地の底にまで響き渡りそうなその轟音に、沙織は「はあ……」と、重苦しい溜息を吐いた。

 ちらりと背後を一瞥。


「――ッッ!!!」


「すごく、おっきい……」


「止めて沙織! その表現は誤解を招くのだ!」


 コミカルなやり取りも現実逃避故か。


 瓦礫の大山から、突如として大胆不敵に登場していったのは、一匹の鮮烈な色彩の『龍』であった。

 その全長は、あるいはこの空洞を埋め尽くす程で。


 それを垣間見た瞬間、メイルは違和感の正体を悟った。


(無傷……‼)


 推し量るに、ああして龍の血筋を表面に出すことにより、より効果的に治癒能力を増大していった結果なのだろう。


「硬くて、とっても大きい……」


「ちょっと沙織は黙るのだ」


 一応、事実である。


 と、そんなコミカルなやり取りを交わす沙織とメイルを、暫定セフィールは親の敵とばかりに睥睨し、


「――ッッ‼」


「――! 来たのだ!」


 直後――空洞を鮮烈な氷柱の弾幕が埋め尽くした。


 もはや、見境もない。

 それまで自らの庇護下においていた沙織にさえも一切頓着することなく、周囲一帯へ激烈な猛攻を浴びせる。


(不味い――!)


 現状、沙織は先刻の一戦で『赫狼』を使い果たしている。


 つまること、現在沙織の炎熱魔術への適性は皆無に近似するワケで。

 

(そんな逆境で、どうやって――)


 転移魔術は起動不可。


 頼みの綱の魔術も既に出涸らしだ。

 あるいは、自らが消えうせてしまうその莫大なリスクを抱え、刻まれていったその魔術を行使すべきか――、


「――沙織」


「――――」


 そう葛藤する沙織の肩を、メイルは酷く優し気な、されど『傲慢の英雄』に引けを取らない頼もしさで、断言する。


「大丈夫」


「――。うん」


 不思議なことに、不安はもう無かった。


 これだけの弾幕を、掠りさえすれば即死に直結する威力に砲弾が織りなしているのだ。

 劣勢なんてモノじゃない。

 まさに、絶対絶滅。


 だが、メイルのその誇り高き――それこそ、『龍』さながらの背中を見てしまえば、不安に思える筈もなく――、


「――ぅくっ」


「え?」


 次いで、メイルは口元に某英雄を彷彿とさせる不敵な笑みを浮かべながら――盛大に自らの腹を噛み千切った。

 必然、洪水のように溢れ出す鮮血。


 それこそ、狂気の沙汰としか思えない所業に盛大に目を剥きながらも、何とか沙織は驚嘆から立ち直り、治癒魔法を――、


「沙織。今は、私に任せるのだ」


「――。死なないでよ」


「誰に言ってるのやら」


 だが、動揺する沙織を振り返るメイルの瞳は一片たりとも狂気などというモノに染まり切っていなかった。

 存在するのは気高き理性。


 更に、畳みかけるように投げかけられた声音。


 ならば、どうしてそれに抵抗できようか。


「――――」


 そして、遂にメイルの目前へと迫りくる氷柱の雨あられ。


 急迫する氷柱の一つ一つはそれこそ破城槌にさえ匹敵する程の威力を宿っており、常人ならば風圧だけで消し飛ぶだろう。

 だから――。


「術式改変――『百折不撓』」


 そして――、
















――時間が、止まる。


 それこそ、何かの拍子に常時廻る秒針が停止してしまったかのように、世界を構築する一切合切がスローに感じられた。

 

「――――」


 思考は吐き気がする程にクリアになり、不思議なことに未だかつてない程に体の隅々に活力が行き渡る。

 まさに、自分こそが一切合切の頂点だという全能感。


 そして――、


「――『百爪』」


 転変。


 そう呟いた瞬間には既にメイルの手先には、どこかセフィールを連想させる色彩の鱗が覆っていく。

 更に、より練度の高い鉤爪も添えて。


「――ッッ」


 極限にまで増長された動体視力で打ち落とすべき弾丸を即座に選別。

 それさえ済んでしまえばあとは余りにも呆気なく、メイルはいとも容易くその両椀で双剣を振るう要領で空を切り裂く。


 そして――、


「――ふんっ」


 そう、どこか要求不満げな表情でメイルが嘆息し――そして、時間の流れがようやく正常化していく。


 その直後、それまで傲然とメイルへと殺到していた氷柱の雨あられは、余すことなく細切れになっていた。


「――――」


「……嘘でしょ」


 背後の沙織は目を限界まで見開きながら息を呑む。


 沙織でさえ認識できないような速力でコンマ一秒にも満たない短時間で必要不可欠な作業を選別、そしてそれを何でもないようにやり遂げるその手腕。


――まさに、神仏の御業。


 それこそ、『傲慢の英雄』たるレギウルス・メイカに贔屓目なしで勝るとも劣らない腕前であった。


「あなた、何その超パワー……」


「だいたい気合なのだ」


「い、いやあ……」


 ドヤ顔で阿呆なことをぬかすメイルさん。


 気合でそんなことができるのなら誰も苦労しないよ……と苦笑する沙織であったが、その実メイルのこの御業の最もたる余韻は気合である。


「――『術式改変』。ようやく、この感覚を掴んだのだ」


「……ああ、そういうこと」


 メイルのその呟きごとに納得する沙織であった。


――術式改変・『百折不撓』。


 その効力は、なんてことはない。

 ただ、『龍』としての地力を底上げするという、どこまでもおざなりな品物である。

 が、この魔術に一点、特異的なモノが。


――傷跡が増えれば増える程に魔術の効力が格上げされる。


 それこそが、唯一無二して最高峰のこの魔術の神髄。


 自らの身に宿った魔術の全容をようやく理解したメイルは、「自傷はカウントされるのだ?」と疑念を抱き、実践。

 すると不思議な程に身体能力が増大され、容易くセフィールと渡り合うことができた。


 が、依然激痛は健在。


 臓腑の先端にまで到達するかのような自傷行為により生じた苦痛は、それこそ立っていられることが不思議なレベルである。

 

 だからこその気合だ。


 この魔術は、並大抵の精神を持ち合わせるような真面に併用することもできない宝の持ち腐れになってしまうだろう。


 だが、果たして魔王軍幹部にまで上り詰めた少女が、ただのか弱い女の子であるのだろうか?


 否。

 断じて、否。


『……術式改変。厄介ね』


「――――」


 ふと、メイルは脳髄に奥にまで響き渡るようなその嫣然かつ蠱惑的は声音に眉根をしかめながら一瞥する。


「……この期に及んで、まだ殺す気なのだ?」


『愚問よ』


「何故だ? 既に、私はお前を超えている自負があるのだ。仮にそれが思い違いだとしても、今の私は一日前の私とは格別」


『――――』


「なら、どうしてそうまでして殺そうとするのだ?」


『……ハッ』


「――――」


 もはや、メイルの力量はそれまでセフィールが殺害しようとしていて娘のモノとはまったくの別物だ。

 だというのに、何故?


 そんな意図が伝わったのか、セフィールは微かに顔を顰める。


『――私を超えなきゃ、意味がないのよ』


「――――」


『そうでなきゃ――きっと、貴女はあの男に勝てない』


「……あの男?」


 不明慮な呼称に目を丸くするメイルへ、セフィールは冷水を浴びせるかのような眼差しで見下ろす。


『もう、貴女がそれを知る必要はないのよ』


「今、ここでお前に殺されるから?」


『あら。よく分かっているじゃない』


「――――」


 もはや、交渉は不可能。


 交戦を回避することはもう不可能だと、そう察してしまったメイルは目を細め――そして、最後に問いかける。


「――それが、お前の本心なのだ?」


『――ッ! 分かったようなことを、言ってんじゃないわよ!』


「――――」


 直後、メイルの背後に猛烈な勢いでセフィールがが急迫し、その鋭利な鉤爪で娘の喉笛を掻き切ろうと――、


「――さあ、来いなのだ」


『――! やってみなさいっ‼』


 そして――火花が、舞い散る。



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