失策とアドリブ
あああああああああああああ!!!???
まふまふさん、ライブで披露した心境披露していらっしゃる!
――治癒魔術。
人にもよるのだが、極端な話その魔術が干渉するのは人体において最も根底的な臓腑でもある魂なのだ。
あくまでも治癒自体は副次的な効果でしかない。
治癒魔術の良し悪しはどれだけその服地効果を倍増できるかに問われ、日々術師は研鑽を積み重ねている。
つまり――無理をすれば、魂自体に直接干渉することも無理な話ではないのだ。
無論、それは屁理屈の類。
そもそも、治癒魔術は如何にその服地効果を捻りだすかが肝なのだ。
そして、より精度の高い魔術を行使しようと腕を磨く治癒術師にとって、その逆を実行するのは並大抵の労力では叶いやしない。
最低でも数十年。
否、それでも天賦の才を得た者だけの話だ。
あるいは、生涯それに添い遂げようとも開花しない可能性も十二分。
というか、後者の可能性の方が格段に高い。
それを実行するのはm有事の際に備え最低限の魔術操術しか会得していない沙織のなんて、故㎡のまた夢。
「――『廻惑』」
――が、沙織はそれを成し遂げた。
理由は幾つかある。
それは、沙織に宿った天賦の才なんていう形容さえあまりにもおこがましい隔絶しか天性の才覚に起因する。
そもそも、沙織は魔術を使えないから行使しないワケではないのだ。
今の沙織はイレギュラー的な存在。
沙織は本体の異能により生れ落ち、そして世界の垣根を越えてしまったことにより『神威システム』が誤作動を起こし生まれた。
沙織という少女は存在そのものがイレギュラーであり、バグであるのだ。
それ故に生じる不具合。
蘇った■■、それを基軸とする人格の会得――そして、魔力の自己補完不可というバグである。
本来、魔法使い、魔術師は大気中の魔力を自らに蓄えることにより、生活、及び戦闘などにより消費した魔力を補完している。
だが、何の不具合なのか、沙織にはそれができないのだ。
そして、沙織はあくまでも分身。
その身を魔力により形成された存在なのだ。
そんな彼女が、魔力自己補完不可。
もはやそれは一種の死刑宣告のようなモノであり、どう足掻こうが沙織の命運は風前の灯火である。
が、そんな絶対絶滅の窮地に陥た沙織に助け船が。
ひょんな成り行きにより魔人軍に入団した沙織に、とある事件を経てメイルという友人が生じたのである。
『うーむ……まあ、面倒なのだが、魔力の譲渡くらいはできないこともないのだ』
メイルは明確な近接タイプ。
それ故に魔術の類には少々疎いらしいのだが、一応は実戦で扱えるレベルでは会得していたとのこと。
メイルは悪戦苦闘しながらもなんとか魔力譲渡の手段を獲得し、それ以降沙織は彼女にちょくちょくお世話になっている。
だからこそ今でもこうして五体満足でいられるわけだし、たとえ魔力が枯渇寸前であろうおともさして問題が無くなった。
更に、アキラと再会してからは彼からも魔力を貰っているのはまた別の話である。
閑話休題。
「……ホントは使いたくなかったんだけどね……」
魔術と魔法には明確な差異が存在する。
それをひとえにいうのならば、消費魔力の観点だ。
前述の理由により、沙織はこれまでメイルの出会うまで、ほとんど魔法の類を併用してこなたった。
それ故に、魔法魔術の腕前は正直論外のレベル。
そもそも、沙織には師匠と言うべき存在が居ないのだ。
魔術は、本来独学でどうこうできるようなモノではない。
それは天賦の才を得るアキラであろうとも、ガバルドからの指南をどうしても必要としていたことから推して知るべし。
独学で自然と魔術の域に達するだけでも絶賛されるべきなのである。
だが、それにも限界がある。
どれだけの才覚があろうが、基礎となるモノを習得していないのならば、必然それは宝の持ち腐れ。
それを自覚して以降、沙織は積極的に魔術の基礎を習得しようと足掻いた。
が、やはりそれにも限度が。
あの成り行きでは少々致し方ないのだが、沙織という少女はあくまでも人間であり、決して魔人族ではない。
無論、それが露見すれば厳罰は必然。
最悪、あの『魔王』が牙を剥かなく可能性もある。
そうなれば、沙織とて生きて帰れる自信は無かった。
が、現状メイルという器の大きい協力者がいるおかげで自らが成り立っている以上、今更離反することは叶わないだろう。
それ故に沙織はローブでその可憐な容貌を遮り、極力目立たないように声を発することもほとんど無かった。
つまること、四面楚歌。
メイルとの仲も、親密になればなる程によりそれが暴かれやすくなってしまう。
結局沙織は魔人国に揃えられた図書館から魔術の基礎を四苦八苦しながら学び、一応とはいえ実戦で扱える程度には成長を果たした。
だが、それでも独学には限りがある。
前述の通り、魔術は相当繊細。
それこそ、安易に触れてしまえば修復不可能な程に木っ端微塵になってしまう程である。
それを操作する感覚を掴むのは至難の業。
故に、本来ならば、指南役が必須であるのだ。
だが、それが望めない以上、独学しかない。
無論、それが成功する筈もなく、依然として沙織の魔術操術の練度は低く、一の仕事を十のエネルギーでないと行使できないというのが悲しい現状だ。
今の魂に干渉し、視界を操作する『廻惑』だって、それこそ大魔術に匹敵する程の魔力を浪費して成り立たせたモノだ。
それを安易に乱発すれば、まず間違いなく沙織は魔力枯渇により消え失せてしまうだろう。
だからこその、魔術禁止の縛りであったのだった。
「……案外、巧く行くんだね」
「ふむ。そうなのだ」
そのうなじに龍翼を生やしたメイルは、沙織の方へ悠々と、されど一片たりとも警戒心を薄めることなく飛翔する。
「……で、どうだった?」
「……『滅龍砲』なのだ。最悪即死は無理でも、最低致命傷レベルの傷跡は刻まれている筈と推測するのだ」
「筈ね……」
「――――」
龍の生命力は異常の一言。
『滅龍砲』には、再生を阻止していくために残留魔力を吸収する作用があるのだが、それも彼女にどれほど通じたかどうか。
「……しっかし、此処が砦で良かったのだ」
「うん。ホントそうだね」
沙織が組み立てた秘策。
一つは、メテオインパクト(小)で圧殺するという地味にえげつないモノ。
(……ホント、これだけで満足しなくて良かった)
普段の沙織ならば、これで十分だと高を括っていただろう。
だが、『アキラならどうするか』という問いかけを自らにし、その末に「これだけではだめだ」という結論に辿り着いたのだ。
策略は、常に最悪の場合を想定して思案するべきだろ。
きっと、アキラならそう助言するのではないか。
事実、それは的を射ていた。
沙織の読み通り、メテオインパクト(小)では致命傷に到達することができず、紙一重で敗北を喫した。
――そして、沙織の第二の秘策が猛威を振るう。
「――――」
このフィールドは砦。
ならば、あるいは放置された兵器の一つや二つはあるのではないかとそう推察し、実際それは的を射ていた。
目を凝らしてみれば、上階に様々な意味合いで悪名高い『滅龍砲』がこれでもかと鎮座しているのではないか。
これが何故手つかずのまま放置されていたのかは依然不明だ。
だが、それでも動作に不具合は見当たらない。
ならば、利用しないワケがなかった。
「……ぶっちゃけ、ほとんど終盤アドリブだったのだ」
「……そうでしたっけ」
「はあ……」
メイルさん、かつてないジト目。
それもそう、なにせ当初沙織がたてたプロットの大半が、彼女自身の失神、メイルの術式改変の会得により一切合切ぶっ飛んでしまったのである。
後はもう直感である。
投げ捨てられた数秒後に目を覚ました沙織は、ほぼ直感で戦局を把握、即座に『念話』でメイルと一秒にも満たない端的な作戦会議を決行。
それにメイルは順々に従い、彼女が囮となった隙をついて沙織はここぞという時に『滅龍砲』を起動した次第なのである。
「……ぅんっ」
「…………」
メイルは沙織の失策と機転の利く臨機応変なその対応力に感心呆れ半々な眼差しを向けながら彼女に額に手をかざす。
それと同時に淡い陽光が空洞を照らしあげる。
それと同刻に何故か物凄く蠱惑的な喘ぎ声が木霊した気がしたのだが、無視である。
「……一応、これで魔力は補充したのだ」
「うん。ありがと」
と、礼を告げた沙織は死亡の有無を気配感知の魔術を行使し確認しようとした直後――盛大に凍り付く。
その起因は、他でもない。
次いで、メイルも察知したようだ。
「……強く生きるのだ、沙織」
「メイルもね」
互いに腐った魚類のような瞳をし、明後日の方角を眺めた直後――空洞に、傲然と咆哮が轟いていった。




