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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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 沙織さんサイドです。















「――で、どうするのだ?」


「――――」


 既にあらかた状況報告は済ませている。


 本来ならば龍――セフィールがメイルの肉親であると、そう断言したいが……それは、沙織には無理だった。

 あれだけ両親との再会を切願していたメイルだ。


 その事実を噛み砕けばどれだけ取り乱すか。


 だが、かといってこのまま黙秘したままでいいのか?

 

 そんな葛藤に苛まれる沙織を怪訝な眼差しでメイルは見下ろしながら、滔々と現状を語っていった。


「龍の力量は最高位に類似するモノ。言い方は悪いのだが、戦力も不十分。……打つ手は、無いのだ」


「……そうだね」


「……?」


 どこか茫洋とする沙織の返答に首を傾げながらも、メイルは険しく目を細める。


「沙織。お前、転移魔法は使えるのだ?」


「……ごめん。私って基本的に治癒と火炎以外扱えないから」


「――――」


 悲しいかな、沙織はとことん魔法の類への適性が稀有なのである。


 無論、治癒魔法も一級品。

 『赫狼』の残滓が宿った烈火の火力も相当だろう。


 だが、それらがほとんど無意味だと悟った今、撤退以外の手段は残されていないようなモノであった。


(……だが、それも既に不可能)


 一応、長距離転移に特化したアーティファクトは存在する。


 だが、それの行使を阻むのは使用魔力の観点だ。


 基本的に、アーティファクトはそれを起動するのに一定の魔力の放出を要求する仕組みとなっている。

 そして、要求魔力は付与された魔術の希少さ、威力などに比例するのだ。


 長距離転移は空間魔法の中でも最高位。


 メイルの保有魔力はそこそこであるが、あくまでも龍種として純粋な肉弾戦に特化したタイプである。

 多少土砂魔術に突出しているが、言ってしまえばその程度。


 無論、魔術の域にさえ足を踏み入れることのできなかった沙織は論外である。


 それ故に、たとえ座標を固定し『自戒』により魔力を軽減しようが、メイルや沙織には行使することは不可能。


 更に、相手は最高位の龍だ。


 微かな魔力の残滓をヒントに容易くこちらの座標を補足するだろう。


 無策で挑めば死は免れない。

 だが、それを練る材料も、時間すらも皆無に等しいこの状況下は、まさに詰みの局面であった。


 もはや、勝算なんて――、


(いや……もし、アキラだったらどうする……?)


 四面楚歌とも言える絶望的な戦局に悄然とする沙織は、不意にとある少年をフラッシュバックしてしまう。

  

 きっと、アキラだったらこの逆境、鼻で嗤って蹴とばしてしまえるだろう。


 それだけはなんら根拠もなく確信できる。


 なら――、自分は?


「――――」


 考えろ、神経を研ぎ澄ませ。


――いいか、沙織


 ふと、熟考し自らの世界へと没頭していた沙織の脳内に、なんら前触れもなく慣れ親しんだ声音が木霊する。


――微かな情報も、心底どうもでいい戯言も、微弱な違和感も、きっと何かのヒントになる。それらを組み合わせれば、きっと糸口が見えるさ


「……微かな、情報」


「――――」


 不意に瞼を閉じる沙織にメイルは小首を傾げるが、明白に熟考する気配を醸し出す友人に何も言えない。


(情報……情報)


 まず、一旦状況を整理する。


 あくまでも暫定であるのだが、現状転移のアーティファクトの行使が不可である以上、フィールドの転換も同様に無理だ。

 セフィールは至高の存在らしい龍の中でも高位の存在。


 ならば、それこそ数分程度でメイルを目測する。


 その推測が正しければ、戦場はこの砦の跡地――、


「――?」

 

 ふと、沙織は眉根を寄せる。

 

 今、自分は何を思案した?

 何か、何か重要なモノを欠落してしまっている気がし、必死に沙織はその不出来な脳内の神経を巡らせ、正答を――、


――砦。


「――っ」


 そう、ここは砦。


 それならばそれ相応のモノは保管されている可能性も高く、更に、この地下という長所を併用してしまえば……。


「――メイル」


「――? 百面相して、どうしたのだ?」


 不可解な沙織の態度に小首を傾げるメイルに頓着することなく、


「――この砦の地下に、空洞ってある?」


 そう、問いかけた。
















「――――」


 逃げられた。


 その雪辱に視界が真っ赤に染まった錯覚に陥った。


(……落ち着きなさい、私。どうせ直ぐにその寝首を掻けるわ)


 龍翼を羽ばたかせ、疾風怒濤の勢いで大空を飛翔する『龍』――セフィールはそう自分自身に言い聞かせる。

 幸い、こちらは感知系魔術を極限にまで鍛えある。


 これならば、そこらの彷徨っている間に勝手に補足できるだろう。


(それに、どうせ近くにいるわよね?)


 先刻娘が利用したのは明らかに『転移』の魔術が付与されていったアーティファクト。


 だが、娘の魔力は知れている。


 あの魔力量では到底長距離転移など以ての外。

 沙織も同様だ。


 既に沙織は先程の戦闘により、保有していた魔力の大部分を爆炎に変換し、失神しないのが不思議なレベルに衰弱している。

 協力者でも居ない限り、『転移』による逃亡は不可能だろう。


 というか――、


「……墓穴よねえ」


 そう、セフィールは今回の一件の首謀者を苦笑いにも似た嘲笑を浮かべる。


 この亡霊都市を覆うようにして展開されていったのは、来るもの拒まず、そして去る者を徹底的に食い止める頑強な結界だ。

 術式からして製作者はルシファルス家か。

 

(……さて、この一件で彼がどう対応するかしらねえ)


 正直なところ、それは未知数だ。


 なにせあの胡乱な青年の思惑など、経過した秒針に見合った審美眼を持ち合わせるセフィールであろうとも不可能。

 王も同様だろう。


(まあ、私には関係ないわね)

 

 自害しろとかいう横暴な命令以外、基本的にセフィールは王の手駒になる所存であり、それを今更曲げることはない。

 この一件が終われば、後はのらりくらりと任務でも実行するか。


「……退屈よねえ」


 そう、思わずつぶやいた直後――、


「――ッッ‼」


 次の瞬間、先刻までのどこかゆったりとした雰囲気が一瞬で消え去り、今や厳格な『龍』の理想図画出来上がる。

 そのルーツは、明白――、


「――そこに居るのね」


 そして、セフィールは感極まったように瞑目し――直後、大仰な動作で龍翼を操作し、華麗にUターン。

 セフィールの瞳が捉えたのは、がらんどうの寂れた砦だ。


 間違いない。


 あそこに――娘の気配、魔力が存在する。


 それが紛い物ではないことは、肉親であるセフィールの魔力が波打っている時点で容易く証明できる。


(……身体強化は、あまり行使しない方が得策わねえ)


 『共振』は存外厄介だ。


 最悪、微弱な存在であるメイルがセフィールと互角に渡り合えてしまう可能性さえ視野に入れるべきなのだ。

 故に、戦略は唯一無二。


(――一瞬で終わらす!)


 スズシロ・アキラではないのだ。


 それ故に十二分にこちらの魔術は有効。

 後は、砦という限られた環境下を、上空から見下ろしながら一瞬で凍結させ、窒息死でも狙い定めて……


「いや……それはちょっとつまらないわねえ」


 龍種は何よりも矜持を重んじる。


 故に、このような姑息な指針を立てるのは、あまりにも無粋。

 ここは、龍として娘という弱者に隔絶した威信を示すべき場面ではないのかと再考し、採用していった。


「――直接殺す」


 それこそが、何よりをも正答。


 メイル如き、どれだけ手加減しようが容易く滅ぼせる。

 ならば、窒息などという見苦し真似は厳禁であり、王道――純粋な肉弾戦で圧倒した方が、より効果的であろう。


「――ッッ」


 嵐風魔術を行使することにより爆発的速度で加速していったセフィールは、直後猛烈な勢いで加速していく。


「――『解除』」


 接地の刹那に龍形態を解き放ち、元の妖艶な妙齢の女性姿に戻り、その口元を華やかな扇で隠し――、


「待っていなさい、メイル。――私が、この手で貴女を解放してあげるから」


 そう、嘯くように囁いていったのだった。

 

 


 ……沙織は論外は、言い過ぎましたかね。

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