挑発と、
どうでもいいですけど、検索履歴を検索してみるとまふまふさんの羅列が鳥肌が立つほどに並ばれておりました。
……もはや中毒者ですね、はい・
「――『獣宿し』」
俺が拳を振り上げたのと同刻、鮮烈な蒼穹の閃光が煌めきだす。
それと共に俺の右拳付近に魔力因子が衝突し合ったことにより強烈なエネルギーが生じていくこととなる。
この速力、この至近距離でこれを躱すことは不可能だろう。
ちなみに、何故素手なのかは、純粋に『羅刹』が崩壊するからである。
『獣宿し』のエネルギーは存外凄まじい。
それこそ、天地変異を見紛う程の品物である。
幾らメイドインルシファルスとはいえど、限度があるのだ。
そして俺の予測では、仮に『羅刹』に『獣宿し』を行使してしまえば、たちまち刀身が木っ端微塵になると踏んでいる。
故に、この素手スタイルは苦肉の策なのである。
閑話休題。
鮮やかな蒼の閃光を帯びた剛腕の照準はこちらへなおも鋭利な刀剣を振るおうと目論む水晶龍である。
インパクトよりも先に俺を始末する心算か。
「――容易い」
「――――」
右腕を中心に、それまで温存していた虎の子の魔力を併用。
それにより劇的に加速していった鉄拳は、確かに水晶龍を捉えた。
(殺ったな)
『獣宿し』により飛躍的に上昇していった威力を前に、さしも頑強な水晶龍であろうおとも、少なくとも無傷ではいられない。
俺の狙いはそれにより生じる綻びだ。
欲するのは些細な契機。
それさえ得ることができれば、あるいは――、
「――貴様は、一つ履き違えている」
「――――」
瞬間、唐突に脳裏に警鐘が鳴り響く。
――違和感。
が、それに反応する暇すら与えられる筈がなく、虚しも『獣宿し』の魔術が付与された右腕は水晶龍へと肉薄されていき――、
その寸前、どうしようもない嘲笑が彼の口元に浮かび上がった。
それを認識した瞬間、悟る。
「主様が私を選択したのは――貴様対策だ」
――嵌められた。
不味い。
おそらく、ルインは、この状況下に至って俺が成す行動の逐一を把握し、誘導しやがったのか……!
が、それを理解したとしても今更である。
既に賽は投げられた。
もはやこの戦局ではバックステップさえも叶わず――、
「――『絶凝晶』」
「――――」
インパクト。
荒れ狂うのは蒼穹の魔力の奔流で、それこそ嵐のような余波を周囲に撒き散らしながら絶大な威力の打撃を披露していった。
だから、見なくても分かる。
「――さあ、惨劇の始まりだ」
「――ッ」
――水晶龍が、無傷同然であることを。
何故?
そんなの、決まっている。
あのインパクトの直前、拳と水晶龍の頑強な肉体の挟間に、遮るようにして忌々しい程に鮮やかな水晶が現れ――俺の拳を防いだ。
『獣宿し』の状態で、だ。
これを異常事態と言わずして何というのだろうか。
そう愕然とする俺へ、水晶流は誇らしげに胸を張る。
「『絶凝晶』は超高密度により構成されたモノ。それにより生成される物体は、それこそ我が主でさえもそう易々と破砕できぬよ」
「――ッ!」
盲点だった。
そもそも、あの悪辣という概念が服を着て優雅にタップダンスを踊っているようなイカれた存在こそルインなのだ。
そんな彼が不用意な采配をする筈がない。
だが、俺は『老龍』ばかりに目がいって、それを察知することができず――、
「――歯を食いしばれ」
「――――」
「くっ……!」
水晶龍は口元に勝ち誇ったかのような笑みを浮かべながら、その腕に鋭利な刀剣を握り、俺の首筋へ振るう。
だが、こっちはまだいい。
左腕には、念には念を入れてと握っておいた『羅刹』で受け止めることも、不可能ではないだろう。
問題は――、
「――――」
「クソッ」
問題は、音もなく俺の下半身へと肉薄していた男――腐食龍である。
これだけの至近距離で、更に右腕は『獣宿し』の反動で真面に動かせないときた。
ついでに補足すると、『蒼海』も不可能。
なにせ、あの魔術はあくまでも他人のモノだ。
それ故に構築には魔術師としてそれ相応の技量が有ろうがなかろうが、結構な時間を喰ってしまうのである。
そして、急迫する腐食龍は筋肉が腐敗しているとは思えない程の健在さでこちらへと跳躍していったのだ。
もはや、回避は不可能。
しかも、相手はあの『龍』の、その最高位に位置する存在だ。
それ故に彼らが無造作に放った一撃でさえ神仏の御業に昇華されてしまうこととなり、十二分に致命打になってしまう。
つまること、
「あー。詰んだな」
「大正解」
流石この世界、否世界軸をたった一人で牛耳る男である。
繊細かつ大胆不敵な策略はどこまでも鮮やかであり、容易くその餌食となってしまった哀れな者を蝕む。
ガイアスはあれ程までにルインを警戒するのも理解できるな。
だから――、
「――今回は、俺の負けだ」
「強がりを」
そう言い残した俺の首筋を、水晶龍は抵抗さえせぬその呆気なさに怪訝に思いながらも、その澄んだ刀剣で撫でる。
更に、憶病なのか、それとも念入りなのか。
腐食龍は珍しくその口元に堪え切れないとばかりに笑みを浮かべ――そして、俺の心の臓を穿った。
そんなことしなくても死ぬのに。
俺このゾンビになんかやったけ?なんて心底どうでもいいことを思案しながら、俺は微睡みに包まれ――、
「――戯言をっ」
「ああ、この場面ね」
と、俺は一人納得しながらも、こちらへと猛然と鋭い斬撃を放つ水晶龍を容赦なく蹴り上げ、その行動を中断させる。
ついでに急迫する腐食龍も適当にあしらっておいた。
一瞬、俺を囲む包囲網に綻びが生じる。
そして、俺は極端に脚力を強化することにより、それこそ雷光が如き勢いで跳躍しており、そこらの廃墟へ逃げ込んでいった。
「さて……どうしたものか」
まさか、このような場面でまた残機を擦り減らしてしまうとは。
それだけ存外に奴らが協力であったということか。
もしくは、俺の準備不足故かな。
まあ、小手調べは済んだ。
後はその準備不足で天に召されてしまった負い目を、この場で払拭するだけである。
(前回のである程度流れは理解できただけよしとしよう)
まあそれも自らがこの手でぶっ壊したがな。
「――――」
が、それも致し方ない。
なにせ、あれだけ緻密な戦略を練られたのだ。
もはやどのような指針で行動しようが十中八九ルインとかいう厄介な道化師のマリオネットになってしまった気しかない。
(これはこれで中々に新鮮だな……)
本当なら、俺が基本道化師だったんだがなあ。
が、悲しいかな、今俺はそんな道化師が吊るしたマリオネットの糸を懇切丁寧に切り裂こうとするチャレンジャー。
贅沢は言ってられないな。
「それに――既に、この時点で出し抜いたようなモノだし」
俺がもぐりこんだのは寂れた廃墟――では、ない。
「――ッッ‼」
「来たか」
廃墟にりんりんと木霊するのは痛烈な轟音だ。
扉ごと蹴り飛ばして廃墟への侵入を果たした男たと――水晶龍と腐食龍は、肩で息をする俺にどこか当惑したかのような眼差しを向ける。
「貴様……私たちを何処に招きいれた?」
「知ってる? 勝手に人のお家に足を踏み入れるのって、不法侵入って言うんだよ。また勉強になったね、蜥蜴君」
「――――」
肌を刺すような殺意と共に、俺へと即座に極限にまで圧縮されていった弾丸が降り注ぐが、無論『羅刹』で一蹴だ。
「貴様ァ……‼ 下等な生物が、よくも我らを侮辱したな‼」
「アッハッハ。短気は嫌われるよ? ほら、人生もっとゆるふわに生きようよ。あっ、無理だからそんなに憤慨してるんだね! 御免ね! だって俺、お前みたいにすぐ堪忍袋の緒が切れるような短気な人柄じゃないから!」
「貴様ァ……‼」
声のバリエーション、少なっ。
まあ、そんな雑感はともかく。
「――ようこそ。俺のテリトリーへ」
「――――」
頬を固くする水晶龍へ、俺はにこやかに語りかけ――そして、誘う。
「――さあ、惨劇のお時間ですよ? ボクちゃん」
「――ッッ!」
無論、返答は手厳しい斬撃の嵐風であった。




