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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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現状打破の手口


 ヒキフェスだあああああああああああああ!

 チケット取り忘れたアアアアアアアアア!


 ……あれって、YouTubeとかで無料公開しているんですかね。き、きっとそうですよ! だってまふまふさん主催なんですよ!? そりゃあ前回同様に無料公開されるに決まってるじゃありませんかあ!


 ……映画館でも公開されるらしいですね。

 そんな暇ないけど、見に行きたい所存です。













「――――」


 『羅刹』により隕石――つまること、魔力が付与された物質を反転、轟音と共に水晶龍へと激突する。

 今回は単純は質量の塊だ。


 それ故に、幾ら耐性があろうが無傷っていうワケにはいかねえよな?


 と、俺はそんな水晶龍に対し止めを刺そうとしたその時、


「――ッッ!」


「……へえ」


 直後、痛烈な腐敗匂いを振りまきながら、漆黒の装いの青年がこちらへと急迫し、寝首を掻こうと――。

 否。


 奴の些細な視線や息遣いから俺が狙い定められた地点を察した時には、もう一切合切が手遅れであった。


「――貰い受けたぞ」


「お前……ッッ‼」


 腐食龍はその鉤爪で俺へ鮮烈な斬撃を浴びせる――筈もなく、そのまま勢いに身を歪ね、俺を素通りする。


 無論、俺も即座に『羅刹』で迎撃を試みる。

 が、それでもなお腐食龍は留まることを知らず、血走った瞳で俺――ぶら下がった『滅炎』の刀身を捉えた。


 直後――腐食龍の輪郭がブレる。


(クソッ……! 魔力を温存していやがった)


 この一瞬。

 俺の微かな綻びを生み出すために、こいつは己の身を顧みることなく、それまで身体強化に注いでいた魔力を減衰させていたのだ。


 そして今、それを解き放った。


 故に、その緩急にさしも俺も対応できず――、


「……最初から、これが狙いか」


「ああ、そうだ」


 そして、体制的な問題もあり、『滅炎』の簒奪をみすみす見逃してしまったのだ。


 その事実に歯噛みする俺へ、ふいに影が差す。

 ふと頭上を見上げると、そこには見慣れない姿形、されどある程度は付き合いのある魔力が立ち上っており……


「――水晶龍っ」


「雪辱、晴らしてもらうぞ」


 直後、近接戦に最も適応した人体を象った水晶龍は、思わず場を忘れて惚れ惚れしてしまうような刀剣を取り出した。

 

(刀身が透けている……素材は自分自身か)


 そうじゃなきゃ、こんな素材皆目見当も付かないからな。

 

 と、一人納得する俺へ全身全霊の斬撃が水晶龍により振るわれる。


「ハァッ‼」


「――っ」


 重い。


 どうやらこちらも意図的に身体強化の塩梅を調節していたらしく、振り落とされた斬撃は先刻の比ではない。

 まあ十中八九、指示したのは『老龍』だろうな。


 悲しいかな、水晶龍の雰囲気はどことなくレギウルスに類似する。


 つまること、ゴリラの系統だ。


 腐食龍は論外。

 ゾンビに知能なんて存在しないと思う。

 つまること、消去法でキングたる『老龍』以外に存在しないワケで。


(……本音を言うのならばその司令塔をぶっ潰したいなあ)


 が、それは叶わぬ事。


 現状『老龍』は戦闘に参加しておらず、関与するとしても時偶に援護射撃を繰り出す程度に自重している。

 しかも存外距離もあるな。

 

 更に、奴のあの魔術。


(つくづく面倒な立ち位置だよ、ホントにね)


 と、内心で駄弁りながら、俺へバックステップの要領であえてあちらの斬撃の高出力を存分に利用して後退する。

 攻勢は、ちょっと不利から。


(当分は防戦か……)


 形成は大いに傾いた。

 

 それまでそれ相応に太刀打ちできていたが、それもこれも『滅炎』という俺の最高のアドバンテージを剥奪するため。

 それを果たされた今、もはや俺に手加減する利益を感じない。


「――ギアー、上げるぞ」



















「戯言をっ」


「――――」


 水晶龍はその端正は容姿を憤慨故に盛大に歪ませながらも、どこまでも鮮やかな斬撃を浴びせようとする。

 

 剣術の腕前も上々。

 更に、一撃一撃の威力が戦槌並みときた。

 一撃一撃が十分に致命傷に至るのに十分な上に、その技巧により必中必殺の絶技にまで昇華されていやがる。


 こりゃあ脳筋なレギウルスの方がまだ可愛げがあるぞ。


 更に、困り果てる俺へと追い打ちが。


「――――」


「クソっ。 影薄いなあ!」


「――――」


 不意に、深々と肩を抉られる。


 背後に適当に『龍穿』を射出するが、しかしながら既に物抜け殻となっており、加圧された弾丸が空を撃ち抜く。

 と、認識した直後には俺の懐に腐食龍の姿が。


「――ッッ!」


「――――」


 気薄な気配で音を忍ばせこちらへと歩み寄る腐食龍の厄介さに歯噛みしながら俺は即座に迎撃に羅刹を振るう。

 ついでに柔道の要領で水晶の脚を引っ掛け、転倒寸前に追いやる。


 そんなバランス感覚の安定しない水晶龍へ片手間で『藍蜘蛛』を行使するが、寸前のところで腐食龍が駆けつける。


「――『蝕喰』」


「……俺と似た系統の魔術か」


 ひび割れた声音が木霊していった直後に俺が展開していった魔術はその中枢を担う陣ごと木っ端微塵に分解される。


 推し量るに形振り構わず一切合切を分解するというカンジだろうか。


 どちらにせよ生物にも十二分に有効である以上、こちらも相応に警戒しておかねばならないだろうな。

 

 現状、戦局は劣勢。


 それもこれも自称至高の存在という肩書に似合ったパフォーマンスを披露するあちら側の緩急の巧さが起因だろうな。


 仮にこのいペースで初めから刃を交えていたのならば、容易く『滅炎』や、最悪『天衣無縫』で消し去ってしまえただろう。

 が、現状『滅炎』は剥奪、生来の魔術さえも消費魔力が膨大だ。


 なんなら、単純に省エネでレギウルスとの合流を待ち越した方が得策である。


 まあ、どうせ後でめちゃクソ煽られるがな。

 もちろん、その都度に目玉へ爪楊枝をとっても優しく突き刺す所存である。

 

 と、そんな所感はともかく。


(さて……さっさと、この状況を打破しなければな)


 俺が今すべきなのは魔術――『天衣無縫』を行使すること。


 それを実行すれば、容易く面倒な手間を省略することができるだろう。

 が、それに一つ強大な障害が、

 それは、辻褄合わせという面倒な誓約。


 『天衣無縫』は特殊な魔術だ。


 それこそ、世界の根幹に干渉することも不可能ではなく、それ故に必要とする魔力量も膨大になってしまっている。

 その異端性の一つが、この辻褄合わせである。


 この特性により、仮に俺が奴らを消し去ってしまえば、その代物として第二、第三の刺客が生じてしまうだろう。

 

 それじゃあ埒が明かないよな。


 邪道は不可能。

 面倒迂遠極まりないが、結局俺は馬鹿正直な正面突破しか生き残る可能性が存在しないという結論なのである。


 が――、


(滅炎が強奪された今、俺が出せる最高火力は『鯨』しかない……!)


 『鯨』の浪費魔力はそれこそ『天衣無縫』とも引けを取らないレベルである。


 しかも、俺は一度この手札を奴らに提示してしまっているのだ。

 『鯨』は知っての通り超広範囲魔術。

 無論、俺すらも巻き添えを喰らう可能性は存分にあるのだ。


 故に基本的に『鯨』は俺が上空付近に滞在している間に、下界の敵対者限定でしか利用できないのである。

 他の虎の子も似たり寄ったり。


 どれも威力という面では申し分はないのだが、この状況下では大抵が仇となってしまうだろう。


 否、あるいは――、


(あるいは、ルインはこういう状況を作りたかったのか……?)


 依然として奴の思惑は不明だな。

 そもそも、どうして俺という人物を不相応に買っているのかも不明瞭な以上、もはや考えても仕方がないのかもしれない。


 まあ、そんな雑感はともかく。


「さてはて……どうしたものか」


「――――」


 現状、こいつらは俺の『羅刹』に付与された『反転』の魔術を大いに危惧し、ほぼほぼ迂遠な魔術の類は使用しないだろう。

 望ましいのはコンパクトな魔力操作による近接戦。


 そして、相手の頭数は二。

 各々の実力も十二分にある。

 ついでに魔石云々を併用し、暴徒と化してしまう可能性もあり。


 どっからどう見てもクソゲー以外の何物でもないなとそう苦笑し、俺は手元――否、その周囲へ魔力を練り上げる。

 そして――、


「――『獣宿し』」


 そして、この苦境を打破するであろう一手を繰り出したのだった。




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