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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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微睡みの中で


 ……眠いです













――終わりが、迫りくる。


 もはや、抵抗する素振りさえも見せない。


「御免。――アキラ」


「――――」


 保有魔力は既に枯渇済み。

 それ故に唯一無二の保険さえも真面に行使することのできない沙織に、もはや打つ手などなかった。


 だけど、それでもなお諦観しないのが沙織という少女。


「――『廻天・臨』」


 それこそ、己の根幹――魂さえも浪費することにより、構築していたその術式を行使していった。

 その魔術の矛先は――倒れ伏す、メイル。


 メイルを優しく包み込んだ淡い陽光は、たちまち彼女の軽傷から治癒し切れなかった致命傷までをも修復していく。

 

(後は託したよ、メイル)


 自らの存命は絶望的。

 故に沙織は、せめてもと、メイルが少しでも生き残れる可能性が増大するように、このような手を打ったのだ。


 それを余すことなく看破したセフィールは目を細め、


「――貴女、憐れねえ」


「よく言われるよ」


 そう、疎まし気に目を細め、致死の斬撃で沙織の華奢な首筋を撫でよう目論見んだ。

 強かに踏み込み、本職の剣士の腕前が霞んでしまう程の技量を以て振るわれたその斬撃は、吸い込まれるようにして沙織へと放たれ――、


「――――」


「なっ……」


 扇が沙織の首筋を割断する――その、寸前。


「――遅れて済まないのだ、沙織」


「め、メイル……!」


 突如として両者の境界線に割り込んだ少女――メイルは沙織を安心させるように頼りがいのある笑顔を浮かべる。

 

 その華奢な右腕はいつのまにやら龍形態へと移行しており、頑強な龍鱗が万象を割断する一閃を停滞させていた。

 否、喰い込んでいる真っ最中と言うべきか。


 あるいは、この均衡が持続してしまえば千切れて――、


「流石に、そんな無様は避けたいのだ」


「――――」


 メイルは棒立ちする沙織を軽々と抱えながら、軽やかな動作でバックステップすることによりその末路を回避。

 が、間髪入れずに飛来するのは殺傷能力を極限にまで高められた氷柱の弾丸だ。


「――死になさい」


「――――」


 セフィールは、先刻垣間見せた母親らしさを一切合切押し殺し、『龍』として申し分のない猛攻を浴びせる。

 跳躍し、氷柱を迎撃するメイルへ急迫。


 そのまま岩盤を踏み込めば、たちどころに廃墟の破片が散弾と化しメイルの柔肌を深々と抉っていく。

 唯の踏み込みでさえこの有様だ。


 ならば、本命の一閃の威力は――、


「――ッ!」


「チッ」


 が、肉薄セフィールに対し、メイルはその顎門をおおむろに開き――そして、莫大な魔力を燃料に、吐き出す。


「――『ブレス』」


「――ッッ‼」


 至近距離で殺到するのは暴威の大海原だ。


 猛烈な熱量を宿したその烈火と、氷結を自由自在に操作するセフィールとの両者の相性は最悪とも言えるだろう。

 即座に虚空に浮遊する常軌を氷結、凝固させることにより炎熱を避けることは叶った。


 だが――愛しの娘の姿は、依然見えない。


 即座に気配感知魔術行使。

 周囲半径百メートル内での反応――皆無。


「……逃げられたわね」


 確かに、今ここでセフィールと刃を交える必要性はほとんど皆無であり、自らの天命の方が重視すべきなのだろう。

 理解はできる。


 が、無論それを納得することもできず、沸き上がるのは黒々とした嫌悪感。


「――弱いわね、貴女」


――それは、呪いの声音だ。

 

 メイルにとっても、あの人にとっても――そして、セフィール自身の。


 あるいは、ある種の自己暗示であったのかもしれない。

 もちろん、そんなことセフィールにとっては心底どうでもいい些事でしかないのだが、


「待っていなさい、メイル。――私が、今ここで貴女を殺してあげるから」


 そう宣言し、セフィールはうなじより龍翼を顕現させ、大空へと飛び立て行った。
















「――ッッ」


 唐突に視界が切り替わる。


 微かに魔力が蠢動する気配を察知した頃には、とっくの昔に沙織の視界に映し出されていた景色は一片していた。

 具体的には、星々が明瞭に視認できた野外から、真っ暗闇に包まれた屋内へと。


 が、今頓着すべきはそのような些事ではない。


 沙織は目を剥きながら目を凝らし――そして、肩で息をする五体満足のメイルの姿形を補足すると、たちまち涙目になり。


「よ、よかった……」


 頬を通り過ぎるのは一筋の水滴だ。

 この年になってこんなモノを流すとは未熟もいいところであるが、それも今だけは致し方ないのだろう。


 その起因は唯一無二。


 生き残ったから――ではなく、メイルがこうして五体満足でしっかりと息をしているという、その事実に。


 本当に、つくづく他人流儀な少女なのだ。

 そう苦笑にも似た笑みを零しながら、メイルもつい感極まって沙織にがばっ!と抱き着いてしまっていた。


「め、メイル……」


「まず、最初に礼を言っておくのだ、沙織。今回の一件、私一人だったらまず間違いなく生きて帰れなかったのだ」


「べ、別に私はそんな大層なことしてないよ……」


「……ホント、揃いもそろって自己評価の低いヤツばっかりなのだな」


「?」


「ああ、なんでもない。こっちの話なのだ」


「そ、そう……」


 意味深な発言をするメイルを、怪訝な眼差しで見つめながらも、沙織は当惑しながら周囲を見渡す。


「ここは……」


「万が一の際の避難所なのだ。あの砦の地下の、その更に奥の隠し部屋なので、ほぼほぼ補足される可能性はないぞ」


「そんなところあったんだ……」


 補足すると、その移動手段は先日支給されたアーティファクトだ。


 それはもう、気持ち悪いくらいにこやかかつフレンドリーな国王の大判振る舞いにより、ルシファルス印のこのアーティファクトが支給されたのである。


 付与された魔術は『特定転移』。


 一度きりという欠点や転移座標の変更が不可という短所を抱えているのだが、それ故に『自戒』により起動に必要な魔力は最低限で済む。


 虎の子で、あまり利用したくなかったのだが……この状況下ではそんな贅沢なんてしていられないと判断した次第である。


「……私、そんなの聞いてないんですけど」


「そうなのか? てっきり既知の事実かと……」


 沙織がその必要不可欠な情報を知り得ない起因は不明。

 

 だが、犯人ならば容易く目星が付く。


「……多分、アキラの計らいだと思う」


「……あのニンゲン、何を考えているのだ?」


「うーん、ちょっと、私にも分からない」


「そ、そっか……」


 そもそも、あの男の行動の真意なんて看破することなんて不可能だし、仮にできたとしてもそれは罠を疑うべきだろう。

 スズシロ・アキラとはそういう男なのである。


「……ホント、面倒な男に捕まったのだな」


「ま、まあアキラにはそういうこともあるんだけど、それを差し引いてもカッコいいって思えるいいところが一杯あるよ!」


「そっか……」


 ぶっちゃけ、メイルからしたらあの軽薄という概念の体現者のどこがいいのこちょっとよく分からない。


(いや……顔ならまだ分からんでもないがな)


 何故か、それはもうとってもイラっと来るほどに端正な顔面を想起しながら渋面をするメイルは、ふとそういえばとばかりに嘆息する。


「そういえば、沙織。一体全体、あの龍はなんなのだ?」


「――――」


 その当然といえば当然の質問に思わず押し黙る沙織。


 答えは、既に知っている。

 それ故に沈黙の由縁は無知だからではなく――知り過ぎているからである。


(どうしよう! 本当にどうしよう!)


 如何なる回答が正答なのは、沙織には皆目見当も付かなかった。


 なにせ、話がデリケートが過ぎる。

 ほぼほぼ雰囲気や言動からして、セフィールがメイルの実の肉親であることは既に断定すべき事実。


 だが、メイルはその母親に胸先を刺し貫かれ、瀕死にまで追い込まれたのだ。


 そんな彼女に追い打ちをかけるのは――、


「……答えられないのだ?」


「――――」

 

 無言こそれを如実に示す態度。

 それを見届けたメイルは、「はあ……」とお馴染みの溜息をつきながら、口元に微苦笑を浮かべる。


「それが沙織にとって正しいことなら、私は根掘り葉掘り聞く所存はないのだ。それよりも、もっと重要なことがある」


「――――」


 心底複雑な心境で言葉の続きを促した沙織に、メイルは少々頬を引き攣らせながら、


「……どうやって倒そう、あの化け物」


 そう、作り笑いを浮かべ嘆息したのだった。




 あれ!?

 明日ヒキフェスじゃんか!? と今更ながら気が付いても後の祭りですよね。


 ……無料公開される日を心待ちにしておりますよ。




 

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