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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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幸せな、夢













――夢を、幸せない世界を見ていたんだ。



「あれ、■■■■。もう帰ったの?」


「ん? なにか不都合でもあるのか?」


「いや、そういうワケじゃなくてね……」


「?」


 と、小首を傾げた最中、不意に瞳で捉えた物質により、一切合切を察した。


 焦点は、小綺麗な木製のテーブルへ。

 そのテーブルには、やけに豪勢なホールケーキやらが乗せられており……。

 それと同時に、ようやく俺は自分自身の失念に勘づく。


「……そういや今日、俺の誕生日だったな」


「そういえばってね……もうちょっと、頓着してよね」


「いや、それよりもぶっちゃけ任務の方が――」


 と、なおも言い訳を募らせようとした刹那、俺の視界に拗ねたように頬をふくらませる■■■の姿が……


「女の子には、彼氏の誕生日がとっても大切なんです! そこら辺、もうちょっと■■■■も理解を示してよ!」


「い、いやだな……」


「仕事が忙しいのも分かるけど、もっと自分に……あと、ちょっと私に構ってくれてもいいのに」


「~~~~!」


 よく悶死しなかったな、俺。


 そう安堵してしまう程に、恥じらう■■■の姿は年相応の少女らしいいじらしさが醸し出されていた。

 思わず抱きしめたくたい衝動に身を委ねてしまう瞬間、


「頼も――! 後■■■■は死ね!」


「そうです、そうです! お姉ちゃんを穢さないでくださいよ」


「酷い言われようだな、オイ」


 いつもならば、躊躇なく鉄拳を繰り出していたところであったが、今回ばかりは許してやろうと思いなおす。


 流石に、理性なき獣になるのは、ちょっと――殺気!


「――『風針』」


「ちょっ!?」


 放たれた殺気の焦点は――股間!?


 あまりにも外道な発想に俺は一瞬唖然となり――それ故に、その進行を事実上容認してしまったのだ。

 その報いは、必然。


「〇%*”#↑!?」


「せめて人間が読解できる言語で頼む」


 股間をアレされてそんなことができる奴なんて、人間じゃないと思う。


 身悶える俺を見下ろすのは、自称■■■の妹枠。


「――ざまあ!」


「ぶっ殺してやんよおおおおおおおおおおッ‼」


「止めろ、顔面が教育に悪い」


「ぐはっ!?」


 飛びかかろうとした瞬間、呆れ果てた■■■が俺の顔面を容赦することなく、いっそコミカルに蹴り上げやがった。

 必然、全身を駆け巡る激痛。


 というか、躊躇なく股間に吹き矢を放つ奴に教育もクソもねえだろうが!


「せ、せめて動機を聞こうか……!」


 我慢、そう我慢だ。

 俺はこれでも一端の大人。

 今更、こんなクソガキ程度に一々キレていたら、それこそキリがないよなあ!


 そう自己暗示しながらも、極力穏やかな声音で……


「お姉ちゃんにむらむらしてた罪。変態は死ね」


「ちょっと黙ろうか、■■■■ちゃん!」


 おや、■■■の視線は性犯罪を見るかのようなモノに……。


「お前……師匠直々に鉄槌をお望みか?」


「ちょ、止めてくれよ師匠! あんたの一撃とか、喰らったらマジでシャレにならねえぞ!」


「事案が起きるよりはマシだろ」


「確かに、そうなんだけどさあ!」


「否定しないんだ……■■■■、私にそんな劣情を……」


「!?」


 おや、ふと視線を逸らすと、そこにはいい笑顔をこちらに向ける妹枠が……


 よし、このクソ餓鬼は後で殺そう。

 大人としての矜持? 知らんがな。


 そんなモノより、俺の私情を発散する方が先決である。


「覚悟、妹枠ぐぼっ!?」


「ち〇ちんへ二連撃……さしもあんたでも、死ぬしかないでしょ」


「ちょっと■■■! ■■■が! ■■■が今ちん〇んって!」


「落ち着け、■■■! お前も言ってんぞ!」


「!?」


「お姉ちゃん……ちょっと、それは乙女としてどうなの……?」


「!?」


「……■■■。お前、変わっちまったな」


「!?」


 物凄く心外! とばかりに抗議する■■■がシキちゃんを顕現させ、それを沈めている間に幾度となく妹枠が俺(の股間)へと殺意を迸らせ。


 師匠はもはや慣れてしまったのか、悠々とビールで喉を潤していたり。

 ついでに寄ってきたエルフの長やらで、いつしか一家では収まり切れない程の人口密度となってしまっていた。


 そんな、どこにでもありふれた、極々平凡な日常の一ページ。


 それを俯瞰して眺めていた俺に、どこか同情でもするかのような、そんなふざけやがった声音が耳朶を打った。


「――よお、俺」


「ああ。幾年ぶりかな、『俺』」


 もはや、驚くこともない。


 俺は数年ぶりに出逢った『俺』へ、久しぶりと頭を下げていったのだった。
















「――無駄だろ」


「――――」


 『俺』が放ったのは、凍てつくような、そんな絶対零度の声音で。

 

 もはやそれに慣れしたんでしまい、逆に心地よいとさえ思えてしまう俺は中々に重重症だろうなあ、とそう嘆息する。


「俺は、何度だってこの世界に足を踏み入れた」


「ああ、そうだな」


「だが、その度に俺はこの在りし日を乗り越えることができないんだ。だから、ロクに『術式改変』さえも扱えない」


「――――」


 『術式改変』の根幹は、その術師の魂。


 そして、それまでの経験からして、きっと過去を向き合い、そして決別することでしか、俺は進歩しないのだろう。

 だから、俺は弱い。

 だから、俺は誰も救えなかった。


「俺は、いつまで経っても、この幸せな世界を切り捨てることができない。――だって、皆幸せなんだから」


「それが、お前の本性か。心底醜いな」


「ああ。だな」


「――――」


 俺は、『英雄』として、少しでも人々が救われるように、これまでずっと足掻いてきた。


 でも、俺は世界平和なんて、そもそも望んじゃいなかったんだ。


――きっと、俺が欲しいのは、俺という醜い化け物を、それでもいよと、そう認めてくれるような存在。

 

 あの日。 

 あの裏路地で俺は、あの見知らぬ女性から、たった一言をもらった――それで、認められた気がしたのだ。


 あるいは、麻薬中毒にも近いのかもしれい。


 誰かに認められることだけが、俺の救いだった。

 それだけを求めて、俺はずっと足掻いてきた。

 だけど――、


「――その結果が、これか?」


「――――」


 ああ、そうだな。


 それまで身近にいたあの子がいなくなって、あれだけ相容れないといっそ憎悪さえしていた奴が消えて。

 その度に、またすすり泣いて。


――こんな生き方、もう止めてしまいたい。


 そう、幾度切願しただろう。


 独りぼっちなら、ずっと傷つかない。

 他人に無関心であれたのならば、誰かの苦痛も感じ取って、救ってあげようだなんて思いもしなかっただろうに。


 でも――もう、後戻りはできない。


 だって、もう失ってしまったんだから。


 今更、あの暗闇に包まれようって――そんな身勝手なこと、散っていったあの子たちにどこまでも失礼だ。

 だけど、それでもやっぱり我を貫くのは、怖い。


 自分のせいで、誰かが苦しんだら。

 救った人の万倍の誰かが泣き叫んでしまったのならば。

 そしたら――きっと、壊れてしまえる。


 それを素敵だと思えてしまう反面、腹の奥底ではそれを、きっとなによりも忌み嫌ってしまっているのだろう。


 だから、何も成せない。


 迷ってばっかりで。

 下らないことに一々悔んでばっかりで。

 どうしようもない、そんな存在で。


「――それの、何が悪いんだよ」


「――っ」


 口を開いた俺に、唖然と『俺』は目を剥く。


 いつも、俺は幾筋もの選択肢を前に迷い、彷徨って、その間に山のように誰かが嗤って、泣き叫ぶ。

 だから――、


「『俺』。俺は、進むよ」


「――――」


「もう、迷わない。――なんて大口、吐く気力もない。悩みに悩みぬいた末の俺なんだ。そんなこと、できるはずがねえよな」


「なら――」


「だけどなあ、勘違いするなよ」


「――――」


 そして、俺はおどけた様子で、それでもなお、どこか誇らしげに胸を張り、宣言した。


「俺は、これからも迷う。――でも、今更握りしめた剣を手放すことはねえよ。だって、そうじゃなきゃ、何もできやしないからな」


「お前……」


 きっと、前までの俺ならただ蹲っているだけで答えの明言なんて、もってのほかであろう。


 だが、それでも――、


「俺は『英雄』じゃねえ。――ガバルド・アレスタだ」


「そうか。――なら、それでいい」


 そう啖呵を切り、改めて『俺』の顔を捉え――、


「――生きろよ、俺」


 『俺』は、そうやって不器用な笑みを浮かべ、やがてその輪郭が霧のように消え失せてしまった。



 


 ■■■……ライカちゃん

 ■■■……クリスさん

 こういうカンジになってます。ちなみに、■■■■は妹枠ちゃんですよ


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