表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
401/584

退職したい!(切実)


 














 各々が激戦に身を投げ出している頃合。


 そして、時刻はアキラがレギウルスと仲違い(誤解)が生じる、少し前。


「ふわっ!?」


「……どうした、陛下」


 なんだか、やけに女の子らしい声音が響き渡った。


 そんな、あまりにも普段とは一線を画した無防備な姿に「ここって戦場だぞ……」と大いに呆れ果てる粗悪な印象の男――クリスであった。


 クリスとライカの付き合いは長い。


 だが、それもそう。

 なにせ、何を隠そう、この粗悪なおっさんこそ、未経験のライカちゃんに色々と叩き込んだ男なのである!


「……なんだか今、ものすごく誤解を招く紹介をされた気がする」


「気のせいだろ」


 気のせいである。


 閑話休題。


 クリスは「はあ……」と溜息を吐きながら、なんでもないようして中位の蜥蜴をなんでもないように切り伏せる。

 ちなみに、龍種の中で中位はそこそこの規模の街を滅亡に追い込むことができるレベル。


 それを、こうも容易に。


 成程。

 確かに、あの帝国最強の『帝王』の師匠という称号も適切である。


「……弱いね、クリス」


「口調」


「弱いね、クリスッ‼」


「お前……どんだけ女の子になりたいんだよ」


「いや、だって!」


 曰く、ここ最近ずっと事務仕事とかでロクに休憩できないない。


 曰く、戦場で男らしく振る舞うには想像以上にストレスがかかる。


 曰く、ガバルドいない。さみしい!


 以上、ライカちゃんの弁明を要約した内容である。


「……お前、マジでそろそろ本性が露呈するぞ」


「じゃあ、その度に全員暗殺しちゃえばいいだけじゃん♡」


「――――」


 クリスさん、「違う違う。そうじゃない」と言いたいが、無言の圧力の前に何も言えなくてとても複雑な表情をしていらっしゃる。

 というか、そんな発想をするヤツが『女の子』なのか……殺気!


 気が付けば、頬を鋭利なナイフが掠めており……


「次は、ないよ!」


「……イエス、マム」


 クリスさん、とっても複雑そう!


 内心で「とんでもねえ化け物育てちまったなあ……これ、どうすればいいのかなあ」と遠い目をする。

 ついでに、流れるような動作で胃薬を投与。


 ああ、脳が……。


「ど、どうしたの、クリス。顔が明らかにヤクをキメたアレな人に」


「嗚呼……神よ」


「あっ、もう手遅れか……」


 心底残念な生物を垣間見てしまったような、そんな表情をするライカちゃん。


 ちなみに、彼女はあの堅実なクリスがこんなカンジになった主な要因を未だ知らない。

 

 そうして、場が混沌となっていった頃合に。


「……陛下。クリス殿が、なんだか、その……とてもヤバい顔を」


 なんだか、物凄い渋面をした大男が頬を引き攣らせながら参入してきた。

 無論、それは帝国序列一位――グレンである。

 そんなグレンに対して、ライカは良い笑顔で断言する。


「無視していいよ」


「い、いえ、でも同僚として……」


「無視していいよ」


「ですが……」


「無視して、いいよ!」


「……………………はい」


 どうやら、グレンさんに拒否権はなかったらしい。


 グレンはライカやクリスのように一癖や二癖もある連中とは大いに異なり、至ってどこにでもいる常識人である。

 それ故に、依然としてこのようなカオスに耐性がないらしい。


 と、ようやくグレンの来訪に勘づいたようで、クリスが今になって復帰する。


「ああ、居たの。グレン」


「……一応、序列では私の方が上位なのですが?」


「そうだっけ?」


「――――」


 常識人!

 グレンさんは、立派な常識人。

 それ故に、この凄まじくイラっと来る上司を前にしても、その鉄拳を振るうことはない。


 だって、社会人だもの!


 何故か紆余曲折を経て現代で言うサラリーマンに類似する立場になったこともあるグレンは、そう心中で呟く。


「どうしたんだい? 苦虫を噛み潰したような顔をして」


「そうだよ、グレン。我慢は良くないよ」


「――――」


 我慢! 我慢!

 たとえ思いっきり発狂しながらこの実にうざったい上司たちを心の奥底から殴り飛ばしたいとしても!

 

 社会人としての矜持が!

 未だ常識人ふぇありたいという切願が!

 それらが相まってなんとかプルプルと小刻みに震えるにとどまったグレンさんであった。


 脱サラし、楽そうという理由で軍役の任についておよそ二十年。


 グレンさんは、今になってようやく本性を露呈しやがった帝王と、その愉快な一味たちにより大いに心労をあたえられることとなるのであった。


(ああ……これが終わったら、軍から脱退しよう)


 と、もはやお決まりとなった常套句を心中で口にした刹那。


「「「――ッッ」」」


 次の瞬間、その場に滞在する全員が凝然と目を見開き――一斉にその場から飛び退く。


 直後――絶大な衝撃が、大地の隅々にまで響き渡った。

















「――――」


――それは、『龍』だ。


 世界的には希少で、この廃墟に限った話であれば、極々平凡な存在である。


 だが、今回ばかりは、この龍に『平凡』なんていう形容詞が恐ろしい程に似合わないと、そう断言するべきなのだろう。


(なんだ!? なんだ、この隔絶し魔力は……!?)


 立ち上る魔力は、帝国最強であるライカさえも匹敵するレベル。


 異常、異端、異彩。


 本来ならば、呆けていてもなんら可笑しくはない事態。


 だが――この場に勢揃いしているのは、帝国の頂点に君臨する猛者ばかりなのだ。

 それ故に、即座に飛び退くことができた。

 それは、素直に僥倖といえるだろう。

 

 なにせ――その回避行動を実行していなければ、今頃全員肉塊に成り果ててしまっていたのだから。


「あーれれれれれっ」


「――。お前は……」


 土煙が晴れ、ようやく唐突に生じていった存在の輪郭がハッキリとしていった。


――それは、『龍』だ。


 否、それはあくまでも本質の話。

 不思議なことに、襲撃者は否応なしに魂が『龍』と、そう認識できてしまえるような不可思議なプレシャーを放っていながら、その実本人は人の姿形をしていた。


(龍人……面倒なっ)


 そうグレンが心底煩わしげに舌打ちをしながら冷静に分析する。


 龍形態には、翼という絶大なアドバンテージが存在する。

 しかしながら、その反面、格好の的になってしまうという弱点も兼ね揃えてしまい、比較的対処が容易だったりする。


 だが、龍人に至った者は、その短所が改善され、更に最高峰の利点も健在であるのだ。


 どちらが厄介なのかは、もはや言うに及ばないだろう。


 そして、何の前触れもなく到来していった推定竜人は、目を細めこちらを見渡す。


「あれれれれれ。勢揃いじゃんかああああああ」


「……気色悪い口調をするな、オイ」


「だ、ダメだよクリス! 本人だって気にしてるかもしれないじゃん! たとえ滅茶苦茶口調がダサくても、それを口にしたらアウトだよ! 言っとくけど、これ一般常識だからね! ね、グレン君?」


「……………………ええ、もちろん」


「えらい間だな」


 退職したい。

 もう、切実に。


 それこそ、このカオスな上司に囲まれるくらいなら、いっそのこと己自身の寝首を掻き切ってしまいたいくらいである。

 悪い人たちではないのだ。


 ただ、滅茶苦茶癖が強いだけで。


 無自覚に、胃に痛烈なダメージを負わせるだけで!


(あれ? これ、もう裏切ってしまった方が得策なのでは?)


 と、冷静に真剣に考慮してしまうあたり、どれだけ厄介な上司に追い詰められているのか、如実に占められている。

 グレンさんは常識人であり、同時に苦労人でもあったようだ。


 否、より厳密に言うのならば、常識があるからこそ、大いに心労を感じているのであるが……その淡い想い(笑)に自覚するのは、もっと先でらる。

 閑話休題。


「――誰だ、お前」


「――――」


 そう、クリスは先刻までの軽薄さを取り払い、凄まじい眼光で問いかけたのだった。


 果たして、答えは――、


「教えなああああああいいっ」


「死ね」


 無論、得られる筈もなく、普通にぶちキレるクリスさんであった。


 グレンさんはちょっとミーハーなお人ですけど、自らが常識人であることにこだわっていたりもします。

 その要因は……ちょっと、大人の方々なら理解できると思いますよ。


 詳しくはまたいつか、です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ