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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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息を呑んで


 秘書さんサイドっス


 ……そういえば秘書さんの名前、そういえば何気に考慮してませんね。













――『虚誕』


 その効力は、『視界内の魔法・魔術の軌道を捻じ曲げる』というモノ。


 帝国の某若造と似たような魔術であるのだが、向こうは対象に触れることが絶対の条件になっている。

 しかしながら、この魔術は比較的条件が緩い。」


 それ故にデメリットもある。


 帝国序列二位は、あえて触れることをトリガーにしていくことにより、『自戒』を成立させようとしたのだ。

 制限があるが故に成り立つ高出力も存在する。


 彼の場合が最もたる例。


――『帝国最速』。


 それこそが、あの序列二位の青年が欲しいままにした異名である。


 が、しかしながら、非戦闘員である秘書にそんな度胸はない。

 それ故に、勢いこそ帝国序列二位のあの青年に見劣ってしまうのだろうと、そう推察することもできる。


 これだけの説明ならば、大いに秘書がポンコツに思えるだろう。


 だが、事実は異なる。


 『自戒』を拒否することのデメリットは威力の低減。

 だが、それ故に生じる利点も、また確かに存在するのだ。


「――凪げ」


「――――」


 勅命は、たったの一言で十分。


 その冷徹な声音が廃墟に木霊していった直後、それまで破片と共に殺到していた爆風が一切合切その勢いを消失させていく。

 が――、


「くっ」


「ん」


 だが、あくまでも『虚誕』の効果範囲は『魔術』のみ。


 爆風により散らばっていった破片までもを防げるとは、誰も明言していないのだ。

 だからこそ――、


「――『水泡』」


「んっ、ん」


 故に、瞬時にその術式を構築、展開する。


 水流系魔術は正直なところ相当不得手としており、間に合うかはギリギリとなるであろうと、そう踏んでいた。

 だが、推し量るに魔力が消えうせたことによりある程度爆風が止んだからだろうか。


 それまで秘書へと飛散していた散弾とかした破片がその細身を貫く――直前、淡い陽光と共に、水のアーチが出来上がる。


 それらは、容易く雪崩のように殺到していった破片を絡めとっていく。


 だが、それでも一切合切というワケにはいかず。


「ぐっ、がぁっ……!」


「ん。仕留めたと、思ったのに」


「残……っ念だったな、下郎」


「ん。残念」


「ハッ」


 認めんのかよ、と心中で悪態を吐きながら、秘書は負傷した脇腹を即座に卓越した技量で止血を済ませる。

 応急処置は施した。


 だが、苦痛は依然健在。


「――殺す」


「ん」


――だが、それは今無様に倒れ伏す言い訳にはなりやしなかった。


 その覚悟が伝わったのか、襲撃者は目を細め――そして、その口元に堪え切れないとばかりに弧を描く。


「――キッショ」


「――。狂人には、理解できないだろうな」


「――――」


 その苦し紛れの悪態に襲撃者がどこか疎まし気に目を細め、片手間で神速の弾丸を吐き出すが、無論流れるような動作で回避。

 

(……出血量は中々。だが、動けない程じゃない)


 昔、このような場面を想定して訓練したことがある。

 きっと、要領はその時と同一であろう。


 そう意識しながら、秘書は襲撃者と同様に、容易く、それでいてあまりにも高度な魔術を披露目する。


「――『嵐帝』」


「んんっ」


 直後、襲撃者を起点として渦を巻いたのは、肌を切り裂いてしまう強烈な竜巻であった。

 しかも、ご丁寧にも鋭利な破片、しかもその切っ先には魔物たちうでさえ悶え苦しみ死に至るであろう強烈な劇毒がトッピングされている。


 それは先程の意趣返しか。

 そのみみっちい真似に襲撃者は苦笑し、


「今更」


「だろうな」


 襲撃者は欠伸を噛み殺しながら、軽やかな動作で風刃の乱舞範囲内から退き、そのまま流水が如き手並みで棒立ちの秘書に照準を――居ない。


「囮だ」


「――ッッ」


 秘書あるまじき脚力を存分に発揮し、秘書は疾風怒濤の勢いで襲撃者に急迫、刹那の間に数十もの打撃を加える。

 が、無論そんな暇を襲撃者ほどの手練れがみすみす見逃す筈もなく。


「――射って」


「断る」


 直後、飛来するのは限度まで加圧され、切っ先に猛烈な毒素がふんだんに塗りたくられている弾丸だ。

 この距離、この速力。


 故に、身躱しなどという芸当は、無理――、


「ああああああッッ‼」


「な」


 裂帛の気合が廃墟に轟く。


 秘書は血走ったその瞳を大いに見開き、そして己の肝臓目掛けて飛翔する鋼鉄の弾丸へと、声音を紡ぐ。


――一切合切の魔を弾き飛ばす、その魔術のトリガーを!


「――『虚誕』ッッ‼」


「――っ」


 嘘だろっ。


 そんな、あまりにも人間くさい襲撃者の声音が響き渡ると同時、強引にその魔力の渦は、弾丸に込められた毒素に含まれる、微弱な魔力を拾う。

 込められた魔力は絶大。


 それこそ、己の全魔力を喰い尽くさんとばかりの勢いで。


 だが――それで、十二分な結果を得ることができれば、十分!


「――ぁがっ」


「――ッッ」


 そして、あまりにも荒唐無稽な魔術の、その隙間をついていった屁理屈は、莫大という形容さえもおこがましい魔力の渦により、存分に現実味を帯び――そして、ついにその弾丸は襲撃者の脳天を射抜かんと、反逆を決起する。


 無論、襲撃者もプロ、。


 それ故に、その生じていった魔力反応に過敏に反応していき、ほとんど脊髄反射で小首を傾げるようにして、飛来した弾丸を回避する。

 だが――その先には、更なる魔力の渦が、


「――若造。あまり年配を舐めるな」


「――。クソっ!」


 またも、秘書の魔力が猛烈な勢いで擦り減っていく。

 だが、それでもなお弾丸に込められた魔力を拾うことにより、大いにその軌道を強引ながらも、捻じ曲げていく。


 歪曲していった直線状の軌道が行きつく先は、必然――、


「――射抜け」


「――ッッ‼」


 その弾丸を吐き出した、無様な襲撃者において他ならない。


 襲撃者は、死力を尽くす勢いで飛翔するその弾丸を躱そうとするが、先刻に無理をした動きが今になって響く。

 至近距離で弾丸を避けたのだ。


 ならば、それを実行するには、それ相応のリスクが必要不可欠。


 そして――、


「穢れを祓え。――『虚誕』」


「――――」


 そして、声が紡がれた。


「――ぁ」


 疑似的な銃声が木霊した直後には、確かにその鉄鉛は肉的怨敵の脳髄を撃ち抜いており――、


「――これで終わりじゃねえだろ!? なあ!」


「正解」


 背後、秘書の影に気配を忍ばせていた襲撃者が、軽やかに跳躍し、最も回避が困難な足首へと狙い定めその刀剣を振るう。

 だが、秘書がそんな単純明快な動作を勘づかない筈がない。


 なにせ、仮にそんな真似をしてしまえば、大いに自らの、ひいてはそれを秘書として採用した敬愛すべき魔王の品性が疑われるのだ。


――断じて、それを許容だにしない。


「――見え見えだ」


「くっ」


 秘書は、どこから取り出したのか鋭利な短刀で火花散らしながら振るわれる刀剣を受け止め」、こちらへと急速に肉薄していった襲撃者を睥睨する。


「――貴様程度の小細工、誰であろうとも容易く看破できるっ」


「同感」


「――――」


 何故、自ら実行した策略を貶すのか。 

 否。そもそも、前提を履き違えてしまっているのだとしたら。

 

――そもそも、この一幕が下らぬ茶番、『罠』だとしたら……、


「――ッッ!」


「目聡い」


 直後、どこからか見るからに毒々しい色合いのナイフがこちらへと投擲されていった。

 

 秘書はそれを咄嗟に回避し、そして死角より飛影する弾丸を、どこまでものらりくらりと避け通っていく。


(ふむ……今の一幕で、おおよその情報採取は済んだ)


 既に目途は経っている。


 故に、今すべきなのは、それが真実であるという、その確固たる証明なのである。

 秘書は必死に襲撃者の顔色を伺いながら、されど口元に不敵な笑みを浮かべ、問いかけるようにしてその声音を紡ぐ。


「――お前の魔術。もう分かってんぞ」


「ほう?」


 どこか飄々とした雰囲気で首を傾げる襲撃者へ、秘書は高らかに宣言する。


 これまで得た情報。

 培ってきた経験を存分に発揮し、組み立てた図式を、誇らしげに披露する。


「――『実態を伴う分身の創造』。それが、お前の魔術だよ」


 果たして――襲撃者の口元に浮かんだのは、


「――不正解」


 直後、爆炎が秘書を吞みこんでいった。


 

 

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