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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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バイバ〇キーン、的な……?


 アンパ〇マン……好きでしたよ、私は。













「さて……初めるか、餓鬼」


「へえ……」


 俺は目下で構える餓鬼へと、そこらの大人が逃げ喚くような、壮絶な眼光を飛ばすが……どうやら、なんら痛痒に感じてないようだ。

 容姿からして、およそ十代だな。


 だが、それは外見上の話。


(こいつ……魔人族か?)


 基本的に魔人族は外見年齢と実際の歳月は一致しない。


 それこそが長寿の秘訣であるのだが、それはまた別の話である。


(まあ、警戒するに越したことはないな)


 有力候補は龍人や、それに類似する存在だ。

 なによりも警戒すべきなのは、奴のうなじにより蠢く、あの意味不明な器官であることは自明の理である。


 騎士レベルならば、容易く蹴散らせていっただろうな。


 そう嘆息し――俺は、問題は無しと、そう判断する。

 そして、強かに、跳躍。


「――ッッ!?」


「驚いたか、餓鬼」


 自分自身で筋肉を酷使したと、そう認識し直後にはとっくの昔に目下の光景は切り替わっており、既に俺は餓鬼の背後に。

 俺さえも制御できぬ速力で動くのには少々不安は残る。


 だけど――もう、慣れた。


「――砲弾の気分を味わってみないか?」


「――っ」


 餓鬼は、俺の声音が耳元でささやかれたと、そう認識した直後には鋭利に増幅していった鉤爪がこちらへと押し寄せる。

 威力も速力も十二分。


 だが――この程度で、『傲慢の英雄』を滅ぼすことができると、そう考えているのだとしたら……。

 

 ならば、本当に救い難いな、


「遅ぇよ」


「くっ……!」


 俺は、こちらへとい振るわれる鋭利な管を、ひらりひらりと木の葉が微風に舞うような、そんな足取りで避けていく。

 不埒な小細工も、もう要らない。


 なにせ、そんなモノが不毛に思えてしまう程に、両者には隔絶した実力があるのだから。


「餓鬼。――泣き喚く暇があると、そう吐き違うなよ」


「何をっ――」


 と、俺は口元に凄惨な笑みを浮かべ、次の瞬間、猛然と餓鬼の胴体へ、遠慮容赦もなく深紅の刀身を振るう。

 この至近距離だ。


 それ故に、回避は不可能。


「でも――再生できないとは、言っていない……!」


「……やはり、龍人か」


 しかも、かなり高位の。


 俺の『紅血刀』により胴体が泣き別れになっていた餓鬼であったが、数秒後には何事もなかったかのように、その傷跡は修復されている。

 この異常な再生力。


 まあ十中八九、龍か、それに類似する存在だろうなあ。

 

 俺はそう考察しながら、こちらへ勝ち誇ったような笑みを浮かべる餓鬼へ、口元に薄笑いを浮かべながら、柄にもなく、静かに、されど確かに宣言していく。


「小手調べは済んだ」


「――?」


 俺の発言を怪訝に思いながらも、餓鬼は俺へとそこらの刀剣に匹敵、どころの話ではない業物を振るう。

 俺は『紅血刀』を構え、明瞭に断言する。


「餓鬼。俺は言ったよな」


「――――」


 俺の声音を、強がりか虚勢と、そう捉えたのか。

 餓鬼は、らしくもなく俺の発言に過敏に反応することもなく、うなじにより蠢く鋭利な管で俺を細切れにしようと――、


「――ッッ」


 した寸前、またも俺の輪郭が掻き消える。


 またか、とそう歯噛みしながら餓鬼は俺の気配を探ろうとするが、無論それを察知するのは到底不可能であろう。


――レギ。もうちょっと、地味になるのだ。


 『傲慢の英雄』となり、色々な面倒ごとに関わるようになってから、メイルがよく俺に気配遮断術を仕込んでいたりもしたいっけ。

 そして今、意図せぬ形でそれが実を結んだようである。


「――『絶影』」


「クソッ……どこだっ」


 声を荒げ、こちらを補足しようと血眼になってしまう餓鬼へ、俺は無音で忍び寄り、その寝首を掻こうと――、


「――アハッ」


「――――」


 悪寒。

 久しく感じていなかったその気配に、俺は目を凝然と見開き――そして、腹の奥底から驚嘆故に呻いてしまう。


「君には……貴方には、言っていなかったっけ、ですねえ」


「――――」


――そしてツギハギ、狂っていく。

















「――――」


 これまで、この餓鬼は明らかに狂気を垣間見せるような言動を繰り返し、周囲に無邪気な悪意を振りまいていた。

 だが、それでも。


 それでも、確かに人間の輪郭を保っていたのだ。


 そして、今。

 それまで死守していた誓約を、餓鬼はそもそもそんなモノは存在しなかったとばかりに、それをぶち破ってしまう。


「お前は……」


「――僕の名前を、聞きたいですかあ?」


「――――」


 いつしか、それまで少年の輪郭を維持していた餓鬼を、うなじより来る謎器官が、母の抱擁のように、優しく覆い尽くす。

 否、覆うという表現では事足りない。


 搾り、密着し、束縛し、しばりつける。


 そんな、形容し難いモノを、決して覆うなんていう生半可なモノで飾り立てるのは、あまりにも無粋であろう。


 全身を謎器官が覆った頃合いには、とっくの昔に餓鬼の顔面は鮮血だらけとなり、今もなお溢れ出さんとばかりに血反吐を吐いている。

 しかも、特に右腕の束縛は更に悪辣だ。

 

 それこそ、筋肉が膨大な圧力により崩壊しても可笑しくはない程の勢いで締め付けており、洪水のように深紅の液体が滴る。

 それを垣間見た瞬間――脳裏を、凄まじい飢餓感が支配した。


(これは……親父の血か……?)


 吸血鬼は人間の血液を大いに好む。


 それは、多少なりとも吸血鬼としての成分が薄れてしまっている俺にも、一応とはいえ適用されるらしい。


「――美味そうだな」


「君の、貴方のそのトチ狂った感想も大概だと思うんだけどねえ」


「……へえ、その状態でも声帯は健在なんだな」


「いいえええ。既に潰れてしまったので、管で補完しているんだよ」


「……イカれがっ」


「君も、僕もね」


「同意する」


 明らかに画風が一変していった餓鬼は、それでもなおどこか余裕な雰囲気を一切崩すこともなく、呑気に会話を紡ぐ。

 俺は欠伸を噛み殺しながら、餓鬼へと対峙した。


「餓鬼。泣き叫ぶ覚悟は、できたか?」


「もちろんさ。君の、貴方の断末魔の悲鳴を聞き届ける覚悟なんて、とっくの昔にできているよねえ」


「ああ、そうかい」


 そのあどけない容姿でこうも痛烈な皮肉を……。

 きっと、将来はアキラに勝るとも劣らない『嫌な奴』に成り果ててしまうだろうなあと、そう嘆息しながら、俺は餓鬼を見据える。


「そんなに見ないでよね。ぞくぞくしちゃう」


「おいおい、誤解を招くからそういうきわどい発言は止めとけ」


 「メイルに聞かれたら絶対にぶっ殺されるなあ」と、俺は苦笑しながら、静かな動作で『紅血刀』を構え――直後、強かな音と共に、跳躍する。


「――死ねよ」


「死んでね」


 互いに、悪態にも似た殺意を言語化しながら、急迫していく。


 今現在、俺はアキラの計らいにより、強力な『自戒』の材料を得ることに成功していったりもした。


 だが、その反面得た多大な魔力に反して、依然として魔法は使えないし、運が悪いことに新たな『紅血刀』の機能も行使することができなくなってしまった。

 ちなみに、血液云々は魔力が関連していないので、健在である。


 まあ、そんな余談はともかく。


(さて……小手調べを新たに行った方が良さそうだな)


 本来ならば、血刀を併用したかったんだがな……。


 が、現状前述の由縁により、それは到底不可能ということになってしまった。

 俺はその事実に苦笑しながら、餓鬼へ――、


「――後ろだよ」


「知ってる」


 俺の気配察知に関しての技量を舐めるなよって話だ。


 俺は、光の速力にも類似するレベルの速力でこちらの寝首掻こうと背後――と思わせておいて、逆に盲点をついて靴底目掛けて鉤爪を振るう。

 狙いは、言うまでもなく脚か……。


 無論、俺にそれを素直に受け止めることもないし。


 俺は迫りくる鉤爪を『紅血刀』で受け止め、破砕する。

 奇襲が通じず、目を剥く餓鬼の死角へ俺は気配を忍ばせながら全身全霊で跳躍し、その無防備な動体で剛腕を遠慮容赦なしに振り落としていった。


「ぶっ飛べ」


「――ッッ」


 無論、人外の膂力に餓鬼程度の身体能力で凌げる筈もなく。


 直後、餓鬼はそれこそ流星を彷彿とさせる勢いで大空を猛然と吹き飛んでいった。



 

 

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