メテオインパクトとか……ロマンかよっ
ロマンです
「――アハッ」
木霊するのは、どこまでも歪な交渉である。
少年は、その瞳に隠し切れない狂気を宿しながら、濡れるような瞳で熱をこもった眼差しを急迫するレギウルスへと向ける。
「へえ、来るのかな、オジサン」
「俺はまだオッサン呼ばわりされる年齢じゃねえぞ、クソガキ」
ちなみに、レギウルスたち魔人族は、基本的に外見と実際の年齢は一致しないらしいので、実際は案外的を射て――、
「アキラ、うっせぇぞ!」
「何も言ってませんけど」
エスパーかよ。
そう俺は悪態を吐きながら、加勢に向かった水晶龍と腐食龍と対峙する。
「よお、お前ら。生憎、此処から先は立ち入り禁止さ」
「ほう? 何が何でもか?」
「レギウルスをぶっ殺すのが目的ならば、道を譲ることもやぶさかではないよ!」
「テメェっ、後で殺すぞ!」
「……なんだろう、このタッグ」
こちらを見下ろす『老龍』は、どこか呆れ果てたかのように、こちらへジト目を向けてきていらっしゃった。
酷く心外である。
「レギウルス。俺は龍ズたちを足止めするから、お前はそこの少年をお願い」
「ついでにお前も?」
「もちろん……って、いうワケねえだろうが!」
「と、いいつつ……?」
「例外なんてねえわい」
なんだろう、このタッグ……?
なんだが、すごく呆れ果てていた『老龍』の気持ちが分かってしまわないこともないのかもしれない。
迂遠な表現である。
それはそうと――、
(……やっぱ、何度見ても無傷だな、『老龍』)
と、俺はちらりと目を細めながら、こちらを見上げる『老龍』を一瞥する。
覚醒していったレギウルスの膂力は凄まじく、それは生で体幹した俺がその証明である。
その筋力で振るわれた鮮血の刃が生半可なモノで済まされる筈がない。
その証拠に、強固な筈の水晶龍も、既に手負いの状態。
だが――依然、『老龍』は無傷。
「やはり、俺の予測は事実か」
この時間帯、更にルインのあの助言。
あのクズ野郎が吐いた声音にどこまで信憑性があるのかは議論の余地があるのだが、それらの審議はとっくの昔に済ませてある。
「……少なくとも、『老龍』の対処はまた後だな」
「何を言っているっ」
「――ッ」
肌を刺すような殺気が木霊する。
無論、その起点は、多いい『老龍』を敬愛してやまない水晶龍さんである。
俺はその露骨な反応に苦笑しながら、魔力により周囲一帯を威圧しながら、水晶龍を脅すようにして睥睨する。
「よお、二度目だな。お前の相手は」
「ニンゲン如きが、我々に気安い口を……ッッ」
「アハハハハ……」
「それって貴方の感想ですよね?」という返答が咄嗟に思う浮かんでしまったのだが、流石にムードを無視して我慢する。
ついでに、歯噛みする水晶龍を無視し、腐食龍がこちらへ急迫する。
うん。
戦略上は間違っていないんだけど、もうちょっと水晶龍に一応とはいえ仲間なんだから、目を剥けようよ。
それはさておき……。
(近接……か)
無論、相手は『羅刹』の刻まれていった魔術を大いに危惧したが故の策略なんだろうなあと、そう呑気に推し量る。
え?
どうしてこんなにも余裕綽々だって。
そんなの、決まっている。
「――だって、実際に余裕なんだからな」
「――――」
黙々と、その腐食の魔術が大いに付与されていった鉤爪をこちらへ振るう腐食龍が、こちらへと肉薄する。
この巨体だ。
どれだけ身体能力を魔力により強化しようが、それでも結局のところ、結果に変動はないだろうなと、そう推察する。、
故に――、
「――行くぞ、『滅炎』」
「――――」
俺は一旦『羅刹』を納刀し、即座に間髪入れず、『滅炎』を踏み込みと同時に、腐食龍の鉤爪が振るわれるのに合わせ、抜刀する。
そして、
「ぶっ飛べ」
「――ッッ」
バキッ。
響き渡るのは、硬質な破砕音。
無論、それは腐食龍の甚大な膂力に耐え切れずに『滅炎』が瓦解していった際に生じた音――では、ない。
生憎、この太刀はヴィルストさん作だ。
この程度の衝撃で、崩壊する筈がない。
ならば、一体全体何がひび割れた?
そんなの、赤子でも理解できるだろう。
「ぐぅぅぅっっ‼」
「――――」
それまで、何気に饒舌であった『老龍』とは打って変わって腐食龍は、その声帯からひび割れ、掠れた声音を吐き出す。
その声音が耳に滑り込み、正直鳥肌が立つが――それを一切無視し、再度腐食龍の懐に潜り込んだ。
刃の感触は、決して肉を切り裂くような品物でもない。
言うならば、いっそのこと空ぶったのかと、そう見紛う程に感触がなかったが、俺の刀身は確かに腐食龍の龍鱗を刻んでおり――、
「――ッッ‼」
「ったく、もうちょっと静かにしてくれないかなあ!?」
直後、轟音と共に低空より、腐食龍の胴体の一部がおびただしい程の鮮血と共に、零れ落ちていった。
(ふむ……やはり、ヴィルストさんには頭が上がらないなあ)
これだけの威力を、俺一人で繰り出すのは到底不可能であっただろう。
だが、生憎残念至極なことに、俺は一匹狼なんていう性分、恐ろしい程に合致していねえんだよなあ。
利用できそうなモノは無理がない範囲で併用する。
それが俺のスタンスであり、どうやら時々デメリットを及ぼすこの主義が今回ばかりは功を走したようである。
だが、無論これで終幕。
なんていう生易しい話じゃないよなあ。
「貴様ァ――ッッ‼」
「そんなに大声を出さなくても、聞こえているよ」
こっちも前回と同じ轍を踏まないようにと、怒り狂っているとはいえども、近接戦で俺に挑んできたようだ。
その鉤爪は、相当な強度であろう水晶により構築されていやがる。
真面に喰らえば即死で上出来。
言うに及ばず、武器欠損という案さえも、あの高度の前では愚策に成り果ててしまうだろう。
だが――それは、俺の得物が、『滅炎』なんていうぶっ壊れ武器でなかった場合の話。
「ふんっ」
「――ッッ」
虚空に足場を形成。
それと同時に、身を屈めながら、思いっきり水晶龍へと、『滅炎』を振るった。
水晶龍も、流石に愚直に進み行くような行為は慎んでいったのか、インパクトの直前に甲高い音を奏でながら跳躍。
それにより、寸前でその刀身を回避したか。
俺は「はあ……」と重苦しい溜息を吐きながら、軽やかに跳躍し、水晶龍の背後へと一瞬で移動してみせる。
そして、その脳天目掛けて、刀身を――、
「――『雷針』」
「チッ」
振るおうとした直後、俺の脳天へと、雷速の勢いで鋭利な針が飛来する。
しかも、この角度。
回避と止めを同時に実行するのは到底不可能なように調節していったその精緻かつ繊細な手腕に、どことなく狙撃手を彷彿とさせた。
現状、水晶龍の命を刈り取ることに関しては、そこまで優先度は高くはない。
俺はため息を吐きながら、水晶龍から離脱しようとした直後――、
「――雪辱を、晴らさせてもらうぞ……!」
「……へえ」
直後、頭上から水晶龍共々俺を溶解させてしまうであろう劇毒が無作為にばらまかれていったのだった。
うわあ……詰ませに来ていやがる。
無論、今更魔術なんて愚の骨頂なので、俺は気だるげに『羅刹』を振るうことにより、突破口を作り出していく。
が――やはり、予測通りこれは誘導であったようだ。
「――『虹晶』」
「成程ね……」
俺がその弾幕を通り抜けた直後、何の前触れもなく頭上より、超高速で隕石と見紛うような水晶が飛来する。
まさかの、メテオインパクト。
こういうこともできるんだなあ……と俺は半ば関心しながら、即座に『滅炎』を抜刀していき――一閃。
「なっ……」
「いい加減、学習しろってんだよ」
と、俺は悪態を吐きながらレギウルスの放免を一瞥した刹那――少年が、こちらへ猛然と吹き飛ばされていった。




