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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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莫迦者


 あまりにも退屈だったから四千文字書きました。


 悔いは、ない……













――烈火が吹き荒れ、氷結が乱舞する。


「はああああっ!」


「うふふ……」


 裂帛の気合と共に、余波のみで常人ならば消し飛ぶ程の爆炎を巧みな魔力操作技巧により成立させる沙織。


 そんな沙織を嘲笑うかのように、次第に氷柱の弾幕が勢いを増していく。


 神経を逆撫でするのは嫣然とした微笑みであり、目を細めるその仕草は明らかにこちらを見下している。

 無論、今更になってそんなことに憤慨なんて、しない。


 そんな愚行、きっと彼に叱られてしまうから――、


「……叱られれば、いいなあ」


「あらあら」


 きっと、無理だろうなあ……と諦観混じりに巧みに大鎌を振り回す沙織を、セフィールは目を細める。


 そして沙織は攻勢を緩めることなく、それでも少しでも相手の精神を搔き乱してくれるかなあ、と希望的観測込みで問いかける。


「……メイルの母親って、どういう意味合い?」


「あら? そんなことも理解できなかったのかしら」


「茶化さないで」


「あらまあ……辛辣ねえ」


「――――」


 沙織はセフィールの戯言に構うこともなく、その細身故に生じる利点を遺憾なく発揮しながら、軽やかに疾駆する。

 数瞬後、先刻まで沙織が滞在していた地点におびただしい物量の氷柱が。


(……間一髪だった)


 一応、膠着状態。


 しかしながら、それは相手が手加減という縛りを解かなければ、という限定された状況下でしか成立しないだろう。


「じゃあ、なんで私に匙加減を?」


「娘の友人でしょ? なら、優しくするわよお」


「なら――どうして、その愛娘を、あんな目に?」


「――――」


 ここで初めてどこまでも浮世離れなセフィールがすっと剣呑に目を細め、それが吐き出す眼光が沙織を射抜く。


「どうして、だったかしら」


「――――」


 セフィールはそう嘆息し、どこからか二対の扇を取り出す。


 一目見て判別できた。


――アレはヤバい。


 独特かつ美麗な刺繍が施された扇からは、大鎌さえも見劣りしないような、絶大な魔力の渦を感じ取ることができる。

 そして――直後にその第六感は虚言ではないと、そう証明された。


「――『白吹雪』」


「――ッッ‼」


 セフィールが嫣然と扇を翻した直後――世界を、純白が支配する。


 壮絶な魔力が雪結晶と化し、やがてそれは鋭利な刃を化し、全身をどこまでも度し難い程に無遠慮に切り刻む。

 

「くっ……! ――『烈火爆炎』ッ!」


「――――」


 なんなら即死さえも現実味を帯びるこの大魔術。

 流石に私も余裕がなく、自分とメイルを起点として周囲に私の最高火力の爆炎を結界を展開していった。


 これだけの物量。

 更に吹雪はセフィールの魔力を糧として無尽蔵に生成されており、その勢いは一向に衰えることはない。


(現状維持が精一杯――!)


 一向に終止符が打たれない猛吹雪。

 それの持続に反比例し、沙織のなけなしの魔力が次第に底がつきはじめ、意識が朦朧としてきた頃合に――、


「――はあ」


「――ッッ」


 木霊したのは心底気だるげな溜息。


 それが耳朶を打つと共に、その太腿が無遠慮に沙織の華奢な細身をくの字に折り曲げ、場外にまで吹き飛ばす。

 それでもなお展開していた火炎の結界を解かなかったのは素直に僥倖か。


 仮にその操作を手放していたのならば、今頃沙織は細切れになっていたであろう。


 その事実に首筋から滝のように冷や汗を流しながら、沙織は追撃を警戒する。


 と、そんな沙織へ、吹き荒れる氷結晶のようにどこまでも冷え切った、冷徹な声音が投げかけられる。


「――どうして、あの子にあんな仕打ちをって、そう聞いたわよね」


「――――」


「そんなの、決まってるじゃない。――弱過ぎよ、あの子」


「――――」


 理解が、及ばない。

 

 最近アキラと再会して事あるごとに衝撃を味わっていたりもした沙織であるが、これほどまでに愕然としたことはないだろう。

 

 たった、それだけ。


 たった、それだけの理由で。

 そんな些細なことで――メイルは、あんな目にあったのか?

 あれ程までに両親との再会を切願していた、彼女が?


「――ふざけないで」


「――――」


 それを噛み砕いた時には、脊髄反射で済んだ声音が、強かに廃墟に響き渡っていた。


 沙織は未だかつてない程に魂が憤怒により侵される感触をとくと味わい、それでもなお足りないとばかりに怒声を吐き出す。


「どうして!?_どうして、そんな下らない理由で、あの子の想いを蔑ろにできるの!? どうしてそんな酷いことができるの!?」


「……どうして?」


「――――」


「――ふざけないでよ、小娘」


「――っ」


 どこか、底冷えするかのような声音が響き渡る。


 爆炎に包まれる中で、セフィールはその双眸に未だかつてない程に冷徹な色を宿しながら、値踏みするように沙織を見据える。

 おそらく、常人ならばそれだけで失神していただろう。


 でも、でも――、


――私は、両親ともう一度、逢いたい


「――ふざけないで!? そんなの、私がいいたいよ!」


――気が付けば、そう声を張り上げていた。


















「――っ。何を――」


 唐突な豹変に唖然とするセフィールであったが、沙織はそんなこと知るかとばかりに精一杯声を張り上げる。


「親なんでしょ!? あの子を産みだしたんでしょ!? なら、ほんの少しでもいいから、愛情を注いでよ!」


「……他人事でしょ? どうして他人の貴方が、そんなに熱くなってるの?」


「――他人?」


「――――」


 否。 


 セフィールの、その認識には、明白な齟齬が生じている。

 沙織はそんなことも気が付かなかったの? と、珍しくもどこぞの参謀兼騎士を彷彿とさせる皮肉な笑みを浮かべ、高ららに宣言する。


「――私は、メイル・グランの『友達』!」


「――――」


「だから、関係ない、なんてことはない。あの子が辛かったら、私だって悲しくなるし、あの子が喜んでいたら、私だって嬉しくなる。――そんな、自明の理も理解できないで、今更母親面なんて、しないで」


 言い切った。

 これ以上ないくらいにハッキリと、言い切った。

 

 もはや今ここで無礼千万な発言に堪忍袋の緒が切れ、セフィールが沙織が殺害しようとも、なんら悔いもない。

 それに、これだけ言いたい放題にしたのだ。


 それならば、それ相応の報いは受けるべきなのだろう。


 そう、納得しかけたその時――、


「――そうよね」


「――ぇ」


「今更、私なんかがあの子の――メイルの母親面なんて、片腹痛いわね」


「…………」


 そう呟くセフィールの横顔は、本当に雪細工のように、今にも溶け切ってしまいそうに思える程に儚く――そして、悲痛だった。

 今更になって、沙織は己の浅ましさを悔いる。


――こんな顔をする人が、母親ではないだなんて真理、この世に存在しないと今更ながら気が付いたのだ。


「……ごめんなさい」


「何が?」


「私は、貴女の事を何も知らないのに一方的に叱責した。――本当に、ごめんなさい」


「……ふっ」


 そう、真摯に頭を下げる沙織に対し、サフィールは嫣然な笑みを扇により遮ながら、すっと目を細めた。


「やっぱり貴女、色んな意味でイカれてるわねえ」


「――?」


「考えてみなさい。貴女の友人に致命傷を刻ませた私に、その親友が頭を下げるって、本当にどういう神経をしているのよ」


「あっ」


「あっ、って」


 自分でその無神経さに気が付き、今更ながらも羞恥心故に顔を紅潮させる沙織に呆れ果てながら、セフィールは言い放つ。


「――でも、私は貴女みたいな莫迦者、嫌いじゃないわ」


「……誉めてるの?」


「いいえ、けなしてるわ」


「…………」


 「ホント、険しい女性だなあ……」と沙織は微苦笑し――その首筋を扇が撫でる寸前、それを大鎌で受け止める。


「……何の心算?」


「何の心算? それも、今更ねえ」


「――――」


 セフィールは小馬鹿にするようにして、沙織の些細な疑問を鼻で笑い、怒涛の勢いで扇を双剣のように振るう。

 沙織は大鎌という手数的に不利な大鎌でなんとかその連撃を応戦しようと奮闘する。


 そんな沙織へ、セフィールはなおも飄々と淫靡な声音で囁く。


「そもそもの話、私は『龍』で、貴女は『人間』」


「――――」


「たとえ互いに理解を示そうとも、今は敵対者よ。――そして私は、敵対する輩に情を抱くような、そんな女じゃない」


「――ッッ」


 淫らな声が囁かれる度に増加する斬撃の頻度。

 それを前に、沙織も防戦一方となり、浮遊する烈火を刀剣のようにして併用することにより、何とか乗り切ろうと懸命に足掻く。


 戦局は紙一重。


 微かな綻びが命どりだ。


 だが――どうしても、これだけは効いておきたかった。


「理解はしたよ。――でも、本格的に始める前に、一つ聞いていい?」


「遺言かしら」


「違うよ。――私を殺した後、メイルはどうするの?」


「……そう、ね……」


 確かに、沸いて当然の懸念だとセフィールは目を細め――そして、冷徹の非情な現実を告げていった。


「――もちろん、殺すわ」


「なっ……」

 

 その、あんまりな選択に、目を丸くする沙織に対し、セフィールは扇で強烈な刺突を繰り出しながら、それを補足する。


「言っておくけど、これは個人的な感情と、組織の意向が一致しただけだから。だから、今更説得なんて、無意味よ」


「……どうして?」


「ん?」


 セフィールは沙織の浮かんで当然な疑問を聞き入れ――そして、直後に先刻までの軽薄な態度から一転、真摯な眼差しで宣言する。


「――弱いから」


「それが、娘を殺す唯一無二の理由!?」


「ええ、そうよ」


「――ッッ!」


 理解、できない。

 どうして、そんなにちっぽけな理由で愛娘を殺害しようと目論んでいるのか、おそろしい程に分からなかった。


 でも――、


「……もしかしたら、私が納得するような理由があるのかもしれない」


「――――」


「もしかしたら、私が納得してしまうのかもしれない」


「――。で?」


 沙織はついにこの至近距離で到来してきた氷柱を天才的な直感で躱し、それが叶わないモノが獄炎により迎撃する。

 そんな作業と並列し、口先は身勝手に動く。


「――だから、何も言わないで」


「――――」


「私に、貴女と戦うことに、疑念を、抱かせないで」


「……あらあら」


 その、あまりにも直球な発言にセフィールは苦笑し――、


「――いいわよ。それに、貴女とも、少しは愉しみたいもの」


「――。ありがと」


「本当に、変な娘」


 そうして、猛吹雪と爆炎に覆われながら、第二コングの鐘が鳴る――、




 文量、あるいは「ありふれた」に匹敵しててビビりました。


 ちなみに、これ50分で書いたんですよね。

 書けたん、ですよね……


 ……考えないようにしよう! そうしよう!

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