行き当たりばったりな
いとも容易く行われる身内同士の殺し合い!
もちろん、裏がありますん。
まあ、そこら辺の解説は、また次回ですると思います
「――来い」
「言われずとも、なッ!」
と、馬鹿正直にアキラ目掛けて跳躍……するはずもなく、そこらの廃墟から適当に刳り貫いた岩盤を常識離れの膂力で投げ飛ばす。
無論、この程度の物量だ。
「――蒼海・乱式『藍蜘蛛』」
「ふんっ」
故に、決定打になる筈がない。
もちろん――そんなこと、百も承知だ。
スズシロ・アキラはつい最近魔術に目覚めた男だ。
それ故に今だ成長の余地は多分に有り余っており、事実既に龍艇船での決闘以上の魔力が立ち上っていやがる。
おそらく、真っ向勝負なら――負ける。
この俺が。
『傲慢の英雄』が。
それに対する屈辱は、もちろんある。
だが、それを噛み締めるのはもう既にとっくの昔に済ませており、更に修練を倍増して積み重ねているんだよ。
未だ成長期なお前には見劣るが、少なくともあの決闘の際の練度と比較してしまえば、それこそ比べ物にならないであろう。
が、それでもなお、埋め尽くせない距離が存在していやがる。
ならば――、
「――いい加減、愚直に進むのは飽きた」
「へえ」
ばら撒いた岩盤の破片は、いわば俺の輪郭を覆い隠すためのベール。
が、通常ならば弄したこの小細工は無意味でしかないのだろう。
なにせ、ありとあらゆる生物には魔力が宿っている。
たとえ一般人であろうとも多少なりとも魔力を纏っており、それは神仏の御業であろうとも覆すことは到底不可能だろう。
だが――俺の場合、少々話が異なる。
「……嫌な体質だなあ」
「――――」
そう――俺には、ほとんど魔力が宿っていない。
アキラの妹曰く、あくまでも一切合切が抜け落ちているワケではなく、『ほとんど』なので、魔力自体は健在らしい。
だからこそ、『紅血刀』を起動できるいるんだからなあ。
だが、アキラ妹曰く、俺の全身を巡る魔力は――それこそ、知覚することさえも困難なレベルで微弱だとか。
(――幾らお前でも俺の魔力を補足することはできやしない!)
気配を遮断する。
極限にまで足音を忍ばせ、拍動を抑制し、呼吸音さえも爆音のように感じられてしまう静けさが訪れる。
これにより、降りしきる岩盤の破片が止むまでの間、アキラは俺という存在を認知することができない!
これも、メイルとの修練の賜物だ。
本当に、俺には出来過ぎた幼馴染だと、そう自嘲にも似た笑みを浮かべ、直後に跳躍。
疾風怒涛の勢いで、されど一切靴底が鳴らす硬質な音を奏でることもなく、廃墟を駆け巡っていく。
幾ら何でも、アキラはこれだけの物音を知覚することは厳しいだろうな。
だから――、
「――終いだ」
「――――」
背後からでも、如実にアキラが目を剥いてる情景がありありと浮かぶ。
流石にアキラに気づかれぬよう、気配を押し殺しながら疾駆するのは相当疲弊したが、どうやらその甲斐は十二分にあったようだ。
――なにせ、これだけ無防備なアキラの背中を拝むことができたのだから。
「――ッッ‼」
「――――」
残留するなけなしの魔力を酷使していくことにより生成した透明な足場を思いっきり踏み締め、その背中を撃ち抜こうと、拳を振る――、
「――甘ぇんだよ」
「な」
直後、耳朶を打ったのは底冷えするかのような声音。
そして次の瞬間――極限にまで加圧した水滴の弾丸が、俺の臓腑を穿っていった。
「がっ、ぁぁっ」
「――――」
最初に認識したのは、言い知れぬ空白。
数瞬後――本命の、耐え難い苦痛を神経を蝕み、それこそ意識を堕としてしまいそうに――、
「だりゃああああああッ‼」
「――ッ」
轟くのは、どこまでも猛々しい咆哮だ。
俺は死力を振り搾り、重傷の傷跡から鮮血が滝のように溢れ出すことにも頓着することもなく、その鉄拳を振るう。
今だ。
明白に、再起不能にしたと、そう思えるような致命傷を俺が負った今、お前はかつてない程に動揺するだろうな。
俺の勝機は微かな綻び。
そして――それが一つだけとは、誰も言っていない。
流石のアキラも、俺の全身全霊の膂力により放っていった一撃を躱すことができずに、一応右腕で受け流したもの、その骨髄は明らかにひしゃげている。
俺は目を丸くするアキラへと、追撃を加えようとし――寸前、無いに等しい魔力を浪費していき、虚空に足場を生成。
それを踏み締めした直後――アキラの頬を巨大な氷柱が掠める。
あの距離だ。
それこそ、俺の頭部を破裂させる所存かよ。
ホント、どこまでも軽薄で無慈悲な男である。
「チッ。当たると思ったんだけどなあ……」
「おいおい、そりゃあ舐めすぎなんじゃねえのか」
「妥当な評論だと思うぞ」
「そいつは辛辣なことで」
アキラの軽薄さは依然として差異が生じているようには思えないが、おそらくその根底は以前までとは大いに異なるだろうな。
そう解釈しながら、俺はちらりとアキラを一瞥しながら問いかける。
「なあ、疑問なんだけど、あれって明らかに俺を殺害する心算で放ったよな?」
「ちょっと何言ってるのか分からないねえ」
と、胡乱な笑顔をこちらへ向けるアキラ。
その表情で、おおよその意向を悟ることができた。
「苦しい言い訳って言葉、後で辞書で引いとけな」
「言い得て妙だ」
「ハッ」
先刻の言動、そして限度を超えたあの殺傷能力という強烈な概念の化身ともいえる氷柱は、その仮説のなによりをの証明だ。
――アキラは、俺を殺す心算だ。
面倒な手駒が暴走でもしたんだ。
つい最近メイルと興じた『プレイヤー』なる人種により齎されたカードゲームでもおなじようなシチュエーションを経験したことがある。
あるいは、これはあの延長線ではないのだろうか。
まあ、そんなことを予測したとして何になると抗議したいがな。
「おいおい……図星をつかれたからキレるって、小学生かよ」
「お前には負けるよ」
「どういう意味だ、コラァ」
「さあね。お前こそ、『ゴリラ』と辞書で引いてみたらいいんじゃないのかな?」
「ア”ァ?」
「ん?」
表面上は、在りし日の一ページを切り取ったようなモノだったんだろう。
だが――実際の話、両者の中は未だかつてない程に険悪であった。
その事実に微苦笑しながら、俺はすっとアキラを見据え、口を開く。
「……俺を殺した後、どうする心算だ?」
「さあね。適当に戦死したってことでいいんじゃないのかな。ここは戦場、それも相手はかの『老龍』だ。十二分に有り得るだろうよ」
「それは重畳」
行き当たりばったりにも程があるとツッコみたかったのだが、どうも今の俺にはそんな暇、持ち合わせちゃいないよな。
「そんじゃ――生き残るために、お前を叩きのめすか」
「来いよ」
再度地面を踏み締め――跳躍。




