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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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化け物と


 アキラ君の永遠の課題です。


 やっぱり11章に決着がつくんじゃないんですかね。













「あー。あーーー」


「ん? どうしたのかい、ガイアス君」


「いや、なんでもない」


 ガバルドはそう、明らかに欠伸を噛み殺しながら、黙々と歩行しようとする。


 それにルイーズは「相も変わらず心開かないおっさんだな……」なんて何気に失礼なことを想いながら、遠くなる背中を追随する。

 

「そういえば、スピカ君は?」


「所要。どうせ、またスズシロのパシリだろ」


「彼も難儀だね……」


 狂じ――ちょっと年分不相応な程にアキラに慕うあの暗殺屋の容貌だけはあどけない少年を憂慮するルイーズ。

 片やガイアスは心底どうでもよさそうである。


「ガイアス君、アキラ君から聞いてない? どうしてあんなにスピカ君がアキラ君を慕っているのって」


「俺がどれだけ信用されてるか、聞きたいか」


「あっ……」

 

 まるで友人のアレな一面を垣間見てしまったかのような、そんま表情をするルイーズに、ガイアスは微苦笑する。

 

 だが、ちょくちょく痴話喧嘩程度であるが衝突しているアキラとガイアスとて、その関係は劣悪ではないはず。

 それに、アキラはガイアスのはんば体を共有している状態らしい。


 それならば、もう少しお互いを信頼し合ってもいいように思える。


「……君って、確かアキラ君の相棒だよね」


「いいや、違うぞ」


「――――」


 即答であった。


 「うわあ……彼、嫌われれる」と同僚の嫌悪度合いに思わず同情してしまうルイーズであったが、その気持ちは分かる。


 だって、滅茶苦茶ウザいもん。


 恐ろしい程に、精神をかき乱してくるような男だもん。


 余程の大バカ者ではない限り、親しみを感じることはないことは明白な、そんなある意味難儀な人柄なのである。

 ルイーズとて初対面以降ちょくちょくちょっかいをかけられた被害者。


 何となく、ガイアスの心情は理解できる――、


「――そういうことじゃあねえよ」


「――。どういうことだい?」


 気配から、ルイーズが思慮するモノを察したのだろう。


 流石は自称二万年歳。

 その慧眼は、それこそルイーズさえも上回る品物である。

 

 そんなガイアスは、どこか複雑そうに――否、まるで懐古するかのような表情を垣間見せ、嘆息した。


「あいつはさあ――誰も信じちゃいないんだよ」


「……そ、それは当然なんじゃないのかな?」


 この世界は平然と欺瞞が跋扈する。


 それに、アキラは参謀という立場である以上、その類のセンサーは過剰に発達してしまっているのだろう。

 その程度ならば、有り得ないことでも――、


「違う、違う。お前が思案しているような類じゃない。――あいつは、いっそおぞましい程にそれを徹底してるんだよ」


「――?」


 徹底?

 要領を得ない抽象的な発言と、どこか馴染みのない存在に理解が及ばないルイーズを一瞥しながら、ガイアスは目を伏せる。


「誰だって、生涯誰も信じないってことはないだろ? それが親友でも、家族でも、何でもいい。お前だって例外じゃない」


「ま、まあそうだけど……」


 大切なモノが多大だからこそ、それが喪失する際の苦痛に心がひび割れ、今に至るルイーズがそれを理解できないワケがない。

 無論、ガイアスとて例外ではないのだろう。


 あの、どこか沙織とかいう小娘に似た、真っ白な少女も――、


「……馬鹿みたいだな」


「――? ガイアス君?」


 前触れなく自嘲にも似た失笑をこぼすガイアスへルイーズは怪訝な眼差しを向けるが、数瞬後にはいつもの大人びた真顔に後戻りしていった。


















「話を続けるぞ。俺が言いたかったのは、どのような極悪非道であろうが、無意識レベルで虚言を信じ込んでしまうって話だ」


「……まあ、それは理解できる」


 人間は、生まれながら未完成。

 そして、生涯どれだけ生きようが『完成された人間』――間違えない人間なんて、終ぞ一目見ることなど叶わないだろう。


 それが、人間なのだから。


「だがなあ――アキラは、違うんだよ」


「……それは、どういう意味合いで」


 らしくもなく神妙な――まるで、数か月前の大貴族さながらの、真剣な表情をするルイーズへ、ガイアスはその声音を投げかける。


「あいつは、本当の意味で絶対に他者を信ずることはない。人柄も、先入観も、印象も、何もかもが作用しないんだよ。それこそ、無意識下で信望してしまう事項なんて、どこにもありやしない。徹底っていうのは、そういうことだ」


「な……」


「否、厳密には、もっと適切な表現があるな。――奴は、何も感じないだよ。俺たちが当然のように享受していた感情とさえも、無縁なんだよ」


「――――」


 その断言を聞き入れ、唖然とするルイーズ。


(そんなの……人間と言うのか……?)


 何も感じない、何も信じられない、何にも縋ることが叶わない。


――そんなの、まるで機械ではないか。


「いいや。機械なんかじゃない。――もっと、半端な存在だ」


「……もう、私の心境を手に取るように把握しているという衝撃的な事実はスルーさせて、もらうよ」


「それは僥倖」


 ガイアスは一切合切を見透かすような、どこまでも冷徹な眼差しでどこかを見据えながら、滔々と語る。


「お前は、きっとスズシロのことを機械の類だって認識したろ? 違うか?」


「間違ってはないけど……」


「じゃあ、訂正してやるよ。――正確には、機械だったんだ」


「……だった?」


 何故に、過去形。

 それでは、今現在のスズシロ・アキラという男は、一体全体何者なのか。

 理解が、及ばない。


「あくまでも俺が閲覧した記憶を寄せあつめ、推測したに過ぎないのだが、――六年前、あいつになにかがあった」


「――。その何かって……」


「さあな。十中八九沙織とかいう餓鬼が関連していると思うが、流石に俺も詳細は知らねえよ。相棒じゃないしな」


「……ホント、不仲だね」


「悪かったな、存外険悪で」


「いや……なんとなく、理解できる気がするよ」


「――――」


 何故、ことあるごとにガイアスがアキラを邪険にし、辛辣に接していたのか。


「――もしかして、君は怖かったんじゃないのかな?」


「……どういう意味だ?」


「ふふっ」


 珍しく、ガイアスを出し抜けたと、無邪気に笑う美少年風の老人に目を細める。


 ルイーズは嘆息しながら、ちらりとガイアスの横顔を一瞥し、返答した。


「自分たちとは明らかに異質な、――化け物のような、スズシロ・アキラという少年の存在に、どうしても恐怖を掻き立てられたんじゃないのかな?」


「……否定は、しない」


「へえ」


 珍しく、何気に自身家なガイアスが素直にその妄想を真実だと、そう明言した事実に、すっと目を細める。

 そして――、


「――まあ、その気持ち。ちょっと、分かるかもね」


「――――」


 そう、化け物に魅入られた美少年は、消え入りそうなか細い声音で呟いたのだった。




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