ほらっ、特攻隊とかね……?
ちなみに、襲撃者の銃はその実ルシファルス印です。
パンッ。
乾いた銃声が木霊していき、音速さえも上回る未知の兵器が火を噴き、愚昧なる者の臓腑を抉り取ろうと――、
「――『虚誕』」
「ん」
直後、物理法則を完全に無視した弾丸が秘書目掛けて急迫し――着弾の直前、唐突にその軌道が捻じ曲がる。
必殺必中の弾丸は、やがて廃墟の一角へ。
背後より木霊する爆音から、相当の威力を持ち合わせていると理解できる。
だが、どちらにせよ、問題はない。
何故ならば――、
「――俺に、遠距離攻撃なんて、基本通用しねえよ。マヌケ」
「……厄介」
「そりゃあどうも」
「――――」
普段の礼儀を弁える態度とは一線を画す傍若無人な態度を特に咎めることもなく、男は即座に跳躍。
廃墟を構成する岩盤が破砕してしまう程の勢いで跳躍し、即座に秘書の懐に音もなく、ある意味暗殺者らしく潜り込んだ。
そして、
「――これなら、魔術も、無意味」
「――――」
再度、木霊する発砲音。
それも、互いの拍動さえも筒抜けなこの至近距離で。
推し量るに、なんらかの軌道を変更するような、そういう類の魔術、もしくアーティファクトを併用したのだろう。
だが、この距離だ。
必然、どれだけ軌道を捻じ曲げようが、回避は到底不可能――、
「――一つ、指南してやるよ」
「――――」
秘書は、全身へ凄まじい練度で身体強化魔術を付与、鋼鉄さえも容易く破砕できる程の肉体と化し――そして、来訪する弾丸を片手間で掴み取る。
音速で飛翔する弾丸を、だ。
しかも、この距離で。
成程、確かに魔王の秘書だけあって、実力も十二分だ。
そう判別し、即座にこれ以上の接近は危険だと、そう判断し、男はバックステップを遂行しようと――、
「――甘い」
「がぁっ、はぁっ」
横殴りの殴打が、まるで流星のように到来する。
小腸、肝臓、心臓、脳味噌などの臓腑が、なんら容赦情けなく綯い交ぜにされ、盛大に吐血する男。
そんな男を、秘書は冷徹に見下しながら、乱雑に蹴り飛ばす。
男は絶え間なくその身を苛む激痛に頬を歪めるばかりで、受け身を取ることさえも叶わず、盛大に大地のクレーターを刻むこととなる。
「――教えてやろう、若造」
「ぁがっ」
秘書は倒れ伏す男の胸倉を掴み取り、次の瞬間その魂を燻る烈火が如き憤怒を猛烈な頻度で頬筋を殴り飛ばすという手段を用い、発散する。
「――貴様は、暗殺する相手を間違えた」
「――っ」
歯骨はとっくの昔にへし折られており、眼球が抉れ満足にその機能を果たすこともなく、透明な液体を流し続ける。
明らかに、瀕死の致命傷。
もちろん、それを理由に手加減する心算はない。
この男は、敬愛してやまない魔王に、重傷を負わせたのだ。
――万死に、値する。
「若造。これから息をしていたいのならば、覚えておくといい。――この世には、刺激していけない化け物が幾らでも存在するのだと」
「あがlsx」
「ハッ」
声帯さえも押し潰され、溢れ出す声音はどこまでも枯れきっており、それでも懸命に怨嗟を叫ぼうとする姿は、どこまでも滑稽で。
だから――、
「まあ、これから死にゆくお前にはなんら関係のない心得だろうな」
「――――」
いつしか荒れ狂う嵐のように打撃を叩き込んでいると、それまでもがいていた男の意識は深淵の奥深くに沈んでいた。
失神か、もしかくは純粋に死亡したか。
いずれにせよ、辿る結末に差異はない。
「――死ね」
懐から取り出したのは、どこぞの妙齢の売女(by・メイル)により借り受けた、強烈な劇毒である。
これならば、骨の髄までこの不埒者を溶解してしまえるだろう。
この男の苦悶の声音を聞き入れるのがこれで終幕なのかと、少々要求不足な側面もあるが、しかしながら、そんなことよりも、そろそろ本格的に魔王の治癒に心血を注ぐべきなのは自明の理であろう。
ならば、さっさと手早く済ませ――、
「――残念」
「は?」
そう思案した直後――何の前触れもなく、砲音が響き渡ったのだった。
「は?」
心の臓から、噴水を彷彿とさせる勢いで、鮮血が溢れ出す。
意味不明な光景に唖然たら呆然と――する筈がない。
「――ッッ!」
「ん」
踏み込み、どこぞの諜報機関のトップの女性が重宝している劇毒がふんだんに塗りたくられた鋭利な短刀を背後へ投擲。
が、振り向いた直後には、件の男の姿形は、無く――、
「ここ」
「――ッッ」
西南の方角に、忌々しきあの声音が響く。
それと同時に、ほとんど脊髄反射で秘書は再度先刻併用した、極限にまで殺傷能力が増大された短剣を投げ入れる。
が――、またも、空振り。
次いで四方八方に微弱な気配が消えては出現していき、秘書の正常な感覚をこれでもかとかき乱す。
その得体の知れなさに歯噛みしながら、秘書は相手の動向を探るべく、瞑目――、
「無様っ」
「狙ってんだよ」
無論、暗殺者たる男が、これだけの好機を見殺しにする筈がない。
男は音もなく秘書の刺客――と見せかけ、頭上へ跳躍しつつ、自由落下に体を委ね、狙いをより精緻なモノとする。
だが、秘書とて一端の戦士。
この戦場において、目をつぶるという行為は愚行以外の何物でもないことは自明の理と化してしまうのだ。
もちろん、秘書もその程度は心得ている。
故に――これは、悪質な罠。
卑怯?
悪辣?
正々堂々やれ?
仮にそんな非難を受けたのならば、秘書はしたり顔でそいつこそ愚かだと、そう嘲弄するであろう。
戦場において、この程度の小手先技、日常茶判事。
暗殺者の癖に、否、常に無防備な背中を狙い定める暗殺者だからこそこの稚拙なトラップにかかってしまった男が間抜けなだけである。
どこぞのキチ〇イ騎士が絶賛しそうな持論である。
そして、秘書は『虚誕』の魔術の準備を開始しながら、己が成せえる最高峰の魔術を構築し――突如、脳天を撃ち抜かれる。
「――『虚誕』ッ!」
が、その出所不明な弾丸さえも、秘書に通用することは決してなく、彼は頭上に接近する男を早々に始末しようと――、
「甘い」
「な」
直後、何の前触れもなく、鮮血にまみれた純白のコートを翻す瓜二つの男が、三名こちらの懐にもぐりんでいた。
そして――、、
「――これは、間に合わない」
「――ッッ! ――『虚誕』‼」
次の瞬間、曇天を晴らすかのように、三名の同一人物たちが、なんら躊躇うこともなく爆炎を撒き散らしながら、爆裂していった。
誤解を招くようなので前書きの記述を補足しますと、あくまでもあの銃はルシファルス家が生成したモノで、襲撃者さんが依頼したワケではありません。
さる遺跡に偶然向かっていた襲撃者さんが数奇な巡り合わせで現在持ち合わせている銃を発見、そして武器として利用しているワケです。
シンプルな窃盗ですね。はい。
ちなみに、銃弾は原型のモノをベースに錬金術師さんに頼んでいるらしいですよ。




