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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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当惑と困惑














――何が、起こった?


「誰かっ、誰か助けっ」


「――――」


 滑稽にもその殺意を直に浴び、常軌を逸した感情に逃げ惑う襲撃者を咎めることができる人なんて、どこにもいやしない。


 だって、きっと当事者になれば自分たちだってあんな醜態を晒していたのだから。


 否。


(今追い求めるのは、『理由』ではないのだ)


 今更、この程度の不可解に首を傾げていたら、それこそどこぞの変態的な紳士のように頭髪が段々と色褪せてしまうだろう。

 この瞬間、頓着すべきは――、


「――沙織!」


「め、メイル……」


――力なく倒れ伏す、親友の介護だ。


 沙織は乱雑に投げ捨てられた弊害により、所々擦り傷が刻まれており、その事実に内心歯噛みする。

 が、それ以下も、それ以上もない。


「……怪我は、これで全部なのだ?」


「う、うん……」


「……なんなのだ、その煮え切らない態度」


「いや、ちょっと……いや、かなり、不安、かな」


「――――」


 何とか自分自身へ治癒魔法をかけることにより擦り傷などを跡形もなく治癒した沙織は、なんとか難を逃れたというのに、その瞳には確かな憂慮が浮かんでいて。

 なんとなしにそのい起因を察しながら、メイルは視線でその原因を問いかける。


 沙織はその言外の意思表明を受け取り、覚束ないながらも口を開いた。


「今の殺気……多分、アキラの」


「――? あのニンゲンが……?」


「――――」


 スズシロ・アキラという人間は如何なる戦局であろうとも思わず殴り飛ばしたくなる程に飄々としている。


 故に、先刻にどこまでもドス黒い殺意の波動とは、恐ろしい程に嚙み合わない。


 だが――、


「――でも、分かる」


「――――」


「あれは、きっとアキラのモノ」


「……理解したのだ」


 いわゆる、シンパシーという類のモノであろう。

 メイルとて常日頃レギウルスとそんなことをしているワケではないのだが、それでも時折それに似た状況に陥ることがある。


 無論、それは根拠とは言えない、ただの感情論。


 だが、これほどまでに親友が真摯に、言葉少なく、その瞳だけで全てを理解してくれと、そう言外に言うのだ。


 ならば、それに答えなくてどうする。

 

 もちろん、それが理解できたからといってなんだという話であるのだが。


「……それで、どうするのだ?」


「――――」


「仮にあれがあのニンゲンが発したモノだとして、一体全体私たちに何ができる? 何かを果たせたとして、それは何の効力を齎すのだ?」


「そ、それは……」


 突き放すかのような声音であるが、未だ眷属たちは、新手の刺客の到来が予測できているこの戦場において、沙織のような優秀な治癒術師は稀有なことは明白。


 悲しいかな、沙織がどのような行動に移すにせよ、必然的に死傷者数という形で多大な影響を受けるのだ。

 それに、どうせ自分たちがアキラに対して何もできないのなら――、


「――私たちは、私たちにできることをするのだ」


「――。……納得は、してない」


「――――」


 そりゃあそうだと、メイルも内心で嘆息する。

 恋焦がれて仕方がないあの男の身に、未だかつてない程の異常事態が巻き起こっているというのだ。


 おそらく、メイルも立場が移り変われば沙織と同様の行動をとるだろう。


 が、


「――でも、理解は、した」


「――。そう」


「だから、これ以上我儘は言わない。迷惑なんて、もってのほか。私は、私にできる唯一無二のことを精一杯やるよ」


「……了解した」


「うんっ」


 メイルは、無理してはにかむ沙織のその姿に、「ああ、そういうことか」と納得と、そして共感を示す。


(ニンゲン……お前は、この少女に惹かれたのか)


 その内面はどこまでも幼稚で。

 でも、誰かのためなら誇張抜きに死ぬ覚悟で足掻くことができ、仁義を弁え、その陽光に薄汚れた自分たちがあらわにするような、そんな少女に。


 ならば、納得である。


(ニンゲン、精々生涯沙織を死守するのだぞ)


 そう内心で薄い笑みを浮かべ――そしてメイルは、力なくその胴体を鉄筋が如き鋭利な氷柱により刺し貫かれ、力なく倒れ伏した。
















「え」


 目下に広がる意味不明な光景に愕然と目を剥く。


 脳がそれを理解するのを無様にも拒絶し、漏れ出、飛散していった鮮血がその雪のように真っ白な頬をにこびりついた。

 そして、


「げほっ、ぁふ」


「――ぇ?」


 そして、倒れ伏すメイルは、その口元から洪水を彷彿とさせる程の勢いで、おびただしい程に吐血していった。

 溢れ出る深紅の血液が、沙織の靴底を染め上げ――、


「え?」


 あまりにも常軌を逸した光景に、涙さえも出てこず、愕然としてしまってい――そして、唐突に現実が遅滞して噛み砕かれた。


――刺された。


 刺されたのだ。

 背後から、分厚い氷柱が、メイルの華奢な細身を、刺し貫いたのだ。

 それ故に臓腑がこぼれ出る程の勢いで、鮮血が、命が零れ落ちて――、


「――駄目‼」

 

 また。

 また、失うのか。

 大切な、大切な人を!


 沙織はその残酷で無慈悲な未来を何が何でも回避せんと、明白に群を抜く勢いで術式を構築、無意識レベルで行使する。

 それと共に淡い陽光がメイルを包み込んでいき、少しづつであるが出血も納まっているように思える。


 その確かな手ごたえに安堵しつつ、沙織は巨大な氷柱の処理に躍起にやろうとし――、


「――余所見?」


「――ッッ」


 確かなる殺意を感じ取った途端、脊髄反射で勝手に体が過敏に反応していた。

 即座にそれまで控えていた大鎌を荒れ狂う激情を込めるかのように、大地を踏み締めながら振るってく。


 が――感触は、どこまでも硬質。


 鋭利という概念を遥かに超越するこのアーティファクトであろうとも、何の前触れもなく出現したその氷盾に歪の一つや二つさえも刻むことができなかった。

 それを認識した直後に、骨の髄にまで響くような圧倒的な冷気が全身を苛む。


「――あら。元気なお嬢さんね」


「――っ」


 もちろん、沙織にも『赫狼』の因子の一片程度は含まれているので、この程度の冷気、一蹴するのは心底容易い。

 それよりも、今もなお生と死の境を彷徨うメイルの治癒を優先すべきだろう。


 沙織はしっかりと木霊していったどこか艶やかな声音に目を細めながら、それと並行して最高峰治癒魔法を行使。

 これだけ治癒魔法を付与すれば、次の瞬間に息が絶えることはないのだろう。


 万が一のことを考慮し、ついでとばかりに持続的に対象の傷跡を修復する魔法を付与し――音源へ、向き合う。


「――誰?」


「誰? ……あら、この子から聞いていなかったのかしら」


「――――」


 吹き上がる白煙により悠々と歩み寄る推定女性のその容貌はベールに包まれいるととなり、どんな容姿なのかは定かではない。

 だが、これは否応なしに理解している。


「私? そんなの決まっているじゃない。唯の母親と――『龍』よ」


 そう、人型のシルエットのまま頭部に禍々しい大角が生え渡った妙齢の女性は、甘美に囁いたのだった。





 唐突に発覚する血縁関係!

 母を自称する不審者の正体は……!?


 ……はい、ちょっと腸〇さんを意識しました。ちなみに、この人は腸〇のようにアレな人ではなく、れっきとしたメイルさんの母親ですよ。

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