オールスターですやん!?
ホント、コロコロ視点変わりますね。
ちなみに、今回はアキラ君視点っス
「――余所見? 冗談」
「――ッッ」
術式構築、展開、発動。
それに至るまでのプロセスを最短で済ませ、背後から寝首を掻こうとした刺客の旨を水弾で撃ち抜く。
倒れ伏す刺客に対し、俺は冷徹に言い放った。
「おいおい……俺相手に悪巧みとか、いい気概じゃねえか」
「――っ」
刺客である少年の瞳に宿るのは、明確な恐怖。
それを例えるのならば、いわざ帰り道にエイリアンとでも遭遇したかのような、そんな心境だろうか。
ふむ。
ちょっと脅かしすぎたなと反省しつつ、俺は刺客の首筋を――、
「アハッ」
「――――」
不味い。
そんな言葉を吐き出す暇すらなく、俺へ咄嗟に『羅刹』を盾代わりに添え――、
「アハハハハハハハハハハッッ」
「――ッッ」
哄笑。
それと共に絶大な威力の鋭利な鉤爪のような器官が少年の口元から生え渡り、俺を釘刺しにしようとする。
脊髄反射で『羅刹』を構えたのは正解だったようだ。
その鉤爪を『羅刹』の刀身で逸らすこともできずに受け止めた瞬間、一瞬両腕が吹き飛んだのではないのかという錯覚に襲われた。
最大限までに魔力で膂力を強靭にしているのに、だ。
おそらく、真面に喰らってしまえば俺とはいえども即死レベルの重傷を負っていたであろう。
しかも――、
(直前まで一切殺気が感じられなかった! この俺が!)
詳細は省くが、俺は殺気、というか他者の感覚の機敏に敏感なのである。
それ故にある程度とはいえ奇襲は通じないし、視線で相手がどのような斬撃を放とうとしているのか推し量ることもできる。
だが――俺の瞳には、震える少年は本心から、魂の奥底から俺という存在を恐怖し、生まれ建ての小鹿の如く震えていた。
それだというのに、この豹変。
(そういう魔術か? どちらにせよ俺とは相性が限りなく悪い)
視線を重点的に観察しながら通常通りのパフォーマンスを維持しようとするが、しかしながらどこか動きには精彩を欠いているだろう。
「厄介なっ」
「ほらほらあ、もっと見せてよ! このボクに!」
「何をですかあねえ!?」
クソ、この情緒不安定な口調や素振りからして、狂人の類か!
こういう類の人種はそもそも理性ではなく魂が鳴り響くままに行動しているので、その動作を読み解くことは容易ではない。
つくづく、相性の悪い刺客である。
と、不意に少年は口元にどこぞの性悪を彷彿とさせる薄笑いを浮かべながら、先程までの執着はどこへやら、あっさりと飛び退く。
逃げた? 何故?
無論、沸き上がった疑念の真相に辿り着くのは、心底容易――、
「クソッ!」
「ぐはっ!?」
レギウルスをサッカーボールみたく蹴り飛ばし、即座に離脱を果たす。
「――『贖罪』」
「お前こそ自分の罪数えたらどうですかねえ!?」
次の瞬間、唐突に曇天が稲光したかと思うと、それを矢切としておぞましい程の雷鳴が轟き、こちらへと落下する。
しかも、その軌道は雷電故に不規則ときた。
うなる蛇が如き軌道を描く雷電の一切合切を回避することなど、たとえ神仏であろうとも到底不可能だろう。
しかも、今回の雷撃は俺の真水を警戒して、核が電子ではなく魔力因子となっていやがる。
その分魔力因子に雷電を肉付けするのも相当に難解なのだが……どうやら、自称至高の存在にとって片手間らしい。
「ホント、反則だろっ」
「足掻け、人間。精々主の娯楽の一つとしてその責務を全うにするがいい」
「娯楽! 今娯楽っていっちゃった!」
外道の発想である。
が、しかしながら『老龍』にとって俺が何故抗議しているのか、ちょっとよく分からなかったようで、雷鳴はそのままにこてんと首を傾げる。
……どうせ小首を傾げるのなら、雷撃を中断して欲しいな。
「何か問題でも?」
「問題しかないだろ!って言ったら?」
「無論、無視である。下等な貴様らの声音なんぞ、知らん」
「アッハッハ、死亡フラグありがとさん!」
ガバルドは未だ魔術師初心者であるが故に魔力因子の微かな流れから落下地点を予測することができないので、代わりに俺が蹴とばすことにより何とかことなきことを得ている。
別に、仕返しとか、そんな低俗な意図なんて、一切存在しない。
ただ、ちょっと最近ちょびちょび色褪せた頭髪が度々発見される程のトラブルに巻き込まれたことへの憂い晴らしである。
「おいアキラ! せめて俺を抱いて持ち運びしろよ! というか、俺はサッカーボールじゃねえんだぞ!」
「抱けって……お前……」
「止めろ! 俺は某『英雄』みたいな同性趣味じゃねえぞ!」
某『英雄』さんがクシュンとくしゃみをした気がするのだが……それはまた別の話である。
俺はレギウルスを講義を断固としてスルーし、打開策を練りだそうと――、
「――『滅蝕』」
「クソッ、まさかのオールスター!?」
更に、また一人と鮮烈な気配を察知する。
直後に俺は飛び退き、一瞬前の俺を追うようにして腐食ブレスが通り過ぎるが――、
「おいおい、今度は追尾式か!? 芸達者だなあ!」
「黙れ、人間」
人間ですが何か?
とか言っても普通に激昂するだけなのだろうか。
ホント、龍種の思考回路がちょっとよく分からないわ。
まあ、そんな雑感はさておき。
「――レギウルス。お互い死ぬなよ」
「安心しろ。生き残るのは俺一人だ。たとえお前が生存していたとしても、完膚無きままにぶっ殺してやるからな!」
「私怨入ってますよ、レギウルスさん」
「ハッ」
お互い、憎まれ口を吐く。
そう、こういうやり取りが俺たちらしいのである。
得体の知れない少年は嗤い、『老龍』は下等かつ蒙昧なる人間どもを腹の奥底から見下し、そして腐食龍はただただ破滅を求める。
ホント、共通性皆無の面子である。
この残念なメンバーに俺は重苦しい溜息を吐きながら、ハッキリと指示する。
「レギウルス。こういう場合、全員を相手にしても長期戦に移るだけだ。流石にこの戦力でそれは避けたい」
「まあ、そりゃな」
「なら、狙うは個だ。早計なのかもしれないが、あの少年から感じる魔力は他の面子の中で一番低い。兎にも角にも、あの少年を集中的に攻撃してさっさと寝首を掻くぞ」
「了解っ」
今更、子供の殺害に対する忌避感なんて感じやしない。
俺たちは肩を預け合いながら、互いに口元に不敵な笑みを浮かべ――、
「「――殺す」」
そして、第二ラウンドが幕を開けた。




