亡霊
最近、地味にそらるさんにハマっております。
あの人の声って、まふまふさんとは異なる力強さが宿っていえるので、私の好みのど真ん中でしたね。
作業用BGMには重宝しますよ。
……前置きが、長くなってしまったな。
つまること、肝心なのはヴィルストさんが『付与魔術』により、再現したレギウルスの魂を『紅血刀』に刻み込んだことである。
――『共振』という、現象がある。
事例としては、肉親や兄弟などが該当するだろう。
これは限りなく同質の魔力に呼応していき、それにより身体強化系の、肉体などに作用する魔術が互いに効果を及ぼしてしまうというモノだ。
具体例を述べよう。
例えば、兄Aが自分自身へ身体強化をかけたとして、それが一定の割合で弟Bに作用し、その弟Bの身体能力も同様に強化されるというモノだ。
この一定の割合とは、些末な魔力の差異により生じる、いわば誤差。
ならば、瓜二つの魂ならば?
結果は、必然。
更にここにヴィルストさんは創意工夫しており、本体の魂がそれを渇望すれば、感情の起伏に応じて微動する魔力に呼応する仕掛けとなっている。
かつて、俺はレギウルスに魔力が宿っていないと、そう勘違いしていた。
それも、俺が奴の価値観が極々自然に脳内に編み込まれているからであろう。
まあ、そんな雑念はともかく。
「――『凪千切り』ッッ」
「――――」
紡がれるのは、今まで無縁と断じていた術式だ。
レギウルスの感情の突起に応じていき、『紅血刀』に宿った魂も呼応していき、そして――『紅血刀』に編み込まれたギミックの一つが発動した」
「うぉっ!?」
「……まだ慣れないのか」
一応、改善してもらってから二時間程度の猶予は与えた筈だが、それでもなお幾百年にものぼるその感覚が勝ったらしい。
――『紅血刀』に施されたギミック
それは、レギウルスの意思に微弱に振動し――そして、それをトリガーとして、ある付与された魔術が起動することとなる。
その魔術が『紅血刀』に付与された瞬間、それに呼応して『共振』という条理が生じていくことにより、彼本人にもそれが適用されることとなる。
『紅血刀』に付与された魔術。
それは――『魔力』の付与。
――多分、単純に魔力が微弱過ぎるんだろうねえ
ヴィルストさん曰く、そういう旨らしい。
なにやら、元来魔法が扱えない由縁なんて、基本的に魔力回路に致命的な障害があるのか――それとも、純粋に魔力が少なすぎる。
存在する選択肢は、このたった二つ。
そして、ヴィルストさんは後者だと述べ――、
「――ッッ」
――刹那、『紅血刀』にストックされた鮮血は、やがて飛翔する鋭利な刃と限界まで加圧されることにより変貌する。
爆音。
薙ぎ払われたその斬撃は、レギウルスを確実に封殺しようと目論み包囲陣を描いてた水晶製の鉤爪の一切合切を木っ端微塵にしてしまった。
この水晶の硬度は凄まじい。
それこそ、俺の強化された『羅刹』でさえ両断が困難なレベルである。
それをたった一閃で一切合切を薙ぎ払ってしまうとは……
「流石ゴリラ。凄まじいな」
「誉めてるのか、それ?」
「もちろん、貶してるよ(満面の笑み)」
「――――」
「あの……苛立つのは分かるんですけど、笑顔で中指立てないでくれません?」
最近、よく他者の殺気を一身に浴びることが多いなと苦笑しながら――、
「――甘いよ」
「――――」
何の前触れもなく死角から襲撃するその鉤爪を両断する。
が、しかしながらそれはあくまでたった一つ脅威を退けただけの意味合いしかなく、言うならば大海原に剣を突きまわすかのような愚行。
「……面倒だな」
「ジリ貧狙いか?」
「なら真っ先に死ぬのは俺か」
「骨は砕いてやるよ。靴底でな」
「お前、俺のこと嫌いすぎるだろ」
「? 常識だろ? お前、今まで俺に何をしでかしたのか、まさかもう忘れちまったわけじゃねえよな?」
「…………」
奴隷宣言、リスクを避け捨て駒扱いにしたり、ついでに今回の一件も『誓約』を駆使し、十二分にこき使うその姿は――、
「――俺、ド外道じゃんか!」
「今更かよ」
と、喚きながら俺は鋭く踏み込み、初速を殺すことなく滑走するかのように、そこらかしろに張り巡らされた水晶を粉砕していく。
だが、水晶の数はまさに無尽蔵。
細々としたこれらを一つづつ、懇切丁寧に捌くのは愚行以外の何物でもなく、無論俺もそのような無意味な真似は絶対にしないだろう。
ならばどうするか。
その回答は単純明快。
「――根底を、ぶっ潰すしかねえだろ」
そう呟き、俺は懐にぶら下げていたもう一つの『羅刹』を手に取る。
いや、それは少々厳密な定義ではないだろうな。
そもそもの話、今回俺がヴィルストさんに改良を依頼したのは愛刀『戒杖刀』とネタ武器『鬼切丸』である。
後者に関しては本当に「できればいっかあ」的な不貞腐れた精神で改善を申し出てしまったのだが……これだけの出来だと流石に委縮してしまうな。
閑話休題。
ヴィルストさんが俺に手渡した『羅刹』は、『戒杖刀』がベースとなった『羅刹・月下』と――そして、『鬼切丸』が原型の『羅刹・滅炎』である。
後者に至っては物騒な気配しか漂ないというこの末路。
無論、その豪壮な名に反さない実用的価値は実証済みである。
「行くぞ――『滅炎』」
一旦『月下』の方は納刀し、その代わりに『滅炎』を抜刀、構え、そのまま強大な魔力の気配へ一直線に突っ走る。
今回は耐久云々を完全に度外視した、脚力のみの純粋な身体強化。
分散されることなく、たった一点へ集束することとなった魔力がもたらすその効力が生半可な品物である筈がなく――、
「遅ぇなあ」
「――ッ」
遠く、微かに歯軋りするような物音が。
この距離間ならば、そう遠くに居るってことはないだろうな。
そう分析しつつ、俺は本体への接近を危惧したのか雪崩のように殺到する水晶の嵐をかいくぐっていく。
迎撃の必要性は、依然感じれない。
仮に被弾してしまったとしてもそれにより負うであろう傷跡はそう深々とした品物ではないと判断する。
ならば、辿るのは一直線上という何よりをの最短ルート。
そして、いざ水晶龍の魔力の残滓が漂う力場に辿り着いた瞬間――、
「ほう……」
「――ッッ‼」
あたかも開き直ったかのようなそんな方向が木霊した瞬間、
「――『蝕腐』」
――一切合切を分解する、亡霊の吐息が廃墟に響き渡った。




