パパ……
最近、パパのキャラ崩壊が凄まじい……いや、ある意味通常運転ですね。
ちなみに、パパを掘り下げるのは九章です。
「――魔力が使えない理由なんて知らないけど、打開策ならば容易く浮かび上がるよ」
「ほうほう」
そう、ヴィルストさんは自信に満ち足りた表情で宣言する。
そう、なにせ眼下でしたり顔をするこの大貴族は、大いに相伝魔術を使いこなし、数えることさえも億劫な程のアーティファクトを作り出した張本人。
故に、このようなケースも特殊でさえない。
「それで、どうするんですか?」
「その前に、アキラ君。『傲慢の英雄』の魂は、分かるかな?」
「まあ、それは……」
どうしてそんな常人ならば関知しないようなことを問いかけてきたのだろうと、心底不思議に思い小首を傾げる。
無論、幾ら目を凝らそうがヴィルストさんの心情を推し量ることは叶いやしない。
(……ホント、食えない相手だ)
協力者としてはこの上なく強力。
なにせ、ヴィルストさんは誇張抜きにその軍事力を利用してしまえば、容易に国家程度滅亡させてしまえるのだ。
そんな彼が背中を死守してくれるのならば、大いに頼もしい。
だが――仮に、不意にその瞳が無機質になり、背後から俺の心臓めがけて、その引き金を引いたら?
実際、それは有り得る。
ヴィルストさんの琴線は明らかにシルファー。
そして、俺はそれなりにシルファーと頻繁に関わってしまうので、意図せずその逆鱗に触れてしまう可能性があるのだ。
まるでか細い糸で崖を渡っているかのような気分である。
が、現状彼との関係は存外良好。
今後の敵対の有無に関して、それは俺さえも予測不可能なのだが、兎にも角にも今現在、彼は前者の立場でいるのだ。
ならば、存分に彼に背中を預けてるのもある種の得策だろう。
「では、もう一つ。その魂を、再現できるかい?」
「……その問いかけ、ホント非常識ですね」
「それは私も理解してるよ」
無、返答なんて決まり切っている。
俺は、かつて前回のループにて奴の喰らい、故にその記憶――つまること、その魂が刻み込まれていることとなる。
魂は、それまで培ってきた記憶により、始めて構成される。
それ故に、あるいは俺の中にレギウルスの魂が滞在するのだと、そう形容してもなんら可笑しくないだろうな。
「でも、流石に魂の再現なんてできませんよ?」
「そうかい。なら――今作る」
「へ?」
聞き違いかなあ? と小首を傾げる俺を完全にスルーしていき、ヴィルストさんはどこからか硬度の高い鉱石を取り出し――、
「――『付与』」
「――――」
直後、その鉱石へとヴィルストさんを起点として煌びやかな魔力光が宿り、その身に魔の術式を宿していく。
そう、それは紛うことなき『付与魔術』――、
「ちょ!? そういうの、俺に見せて良いんですか!?」
口封じに殺されないかしらん、とそんな懸念が沸き上がるが、直後にようやく自分自身の愚かさに勘づき、苦笑してしまう。
「だって君、そもそも相伝魔術知ってるじゃんか」
「……ですよね」
そもそもの話、四血族たちは自分たちに刻まれていった相伝魔術を大衆へ開示することは決してない。
なにせ、四血族は国家の中枢を担う大貴族。
それ故に、魔術の対策でもされて暗殺でもされやしたら不味いしな。
というか、シルファー曰くそういう事件が巻き起こっていたらしい。
だからこそ、四血族たちはより一層己たちの魔術の情報を一切提示しないように細心の注意を払っているらしい。
そして俺は、紆余曲折あってルシファルス家の相伝魔術を認知してしまっている。
そんな俺が今もこうして吐息を吐き出すことができているということは――、
「……何か打算でも――」
「娘の恋路を応援する。パパとして当然だろ?」
「――――」
俺が今、どんな表情をしているか、分かるだろうか。
合わせ鏡がないので未だ明瞭としないのだが……おそらく俺は、それこそギ〇スに記載される程の渋い顔をしているだろう。
なんだろう。
何故か、ヴィルストさんが某兄を名乗る不審者に重なったような……。
うん!
きっと、きっと毎度の如く、これも冗句の類なのだろう。
俺の知る大貴族、ヴィルスト・ルシファルスは頭脳明晰の根源ともいえる凛々しき存在であり、半ば存在自体がギャグともいえるあのお兄ちゃんみたいだなんて……流石に、そういう展開は御遠慮したい。
実際にアレは客観的に見てしまえば相応愉快なのだが、どうも、主観的な目線からすると、ね……?
「どうしたんだい、アキラ君。まるで苦虫を百匹噛み潰したような顔をして」
「大正解ですよ、ヴィルストさん」
もしかしてこの人も俺と同じなんじゃないかという疑惑が浮上する。
それはさておき、俺は嘆息しながら石ころ(推し量るに込められた魔力量からそれこそ国宝級)に触れる。
「これで、どうすれば?」
「想起すればいい。その魂を」
「へいへい」
――バンッ!
「承りましたにゃん♡」
「よろしい」
「パパ……」
忘れていたが、どうやら依然俺はルシファルス家のメイドだったらしい。
心底不本意であるのだが、それを声を張り上げて宣言してしまうと確実に頭蓋に風穴が開いてしまうので、甘んじて自重する。
と、何故かどこか満悦そうなヴィルストパパを、心底ドン引きしたかのような眼差しで後ずさりながら凝視するシルファーが目に映る。
うん、とっても気持ちは分かるわ。
というか、もうメイド云々に関しては我慢するから、もう少しスカートの丈を長くしてほしいと思う。
メイドとは、清楚だからこそメイドなのである。
故に、その信念に反するこの装いは、俺からしてみれば不本意極まりない。
閑話休題。
「はいっ。終わりましたよ」
「ほう。もうかい?」
「もちろんっ」
既に喰らい尽くしたその記憶を想起することなんて、それこそ吐息を刻む程に容易く、刹那に限りなく近いこの短時間でも十二分に事足りる。
そんな俺の事情を知ってか知らずか、ヴィルストさんは口元に薄笑いを浮かべながら、嘆息する。
「有難うね、アキラ君。これで材料は全部そろったよ」
「そっすか」
魂と、『紅血刀』(パクってきたやつ)。
このたった二つの材料で、如何にる手法により、ゴリラでも併用できる魔術を創造できるのかと首を傾げていると、
「――魂は、共鳴し合う。それもそう。魂とて微かに魔力を浴びており、そして魔力は同種、もしくは限りなくそれと瓜二つのモノと『共振』する性質がある。今回は、それを利用させてもらおうよ:」
「ああ……」
成程、『共振』を利用するのか……。
本来ならば害悪でしかないこの性質であるのだが、しかしながら今回に限っては相当に頼もしく思えてしまった。
「――パパに、不可能はない。それを今から、証明してあげよう」
「…………」
そう、不敵な笑みを浮かべるヴィルストさんの姿が、何故かお兄ちゃんなあの人と重なってしまったのは……きっと、気のせいだろう。




