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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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『傲慢の英雄』=ゴリラ


 ↑今更ですね













「――ん? 魔力、使えないの?」


「ヴィルストさん。頭脳明晰なゴリラとか……悪夢でしょ」


「その言い方はどうかと思うけど」


 実際のところ、レギウルスのように絶対的な身体能力を持ち合わせる奴が魔術までも使えてしまえば、相当に厄介となってしまう。


 俺としては、今のほどほど程度の力量こそが望ましいとも思っているのだが、それはまた別の話である。


 と、至極真摯に今後の相談をする俺を、シルファーはまるで不貞を問いつける女房かのような表情で……


「……浮気ですか?」


「お前っ。俺に死ねっていってんのか!?」


「それはそれでどうかと思うけどね」


 ちなみに、仮にどのような形であれ不貞を働いてしまえば、俺はまず間違いなく自刃して己の罪を贖うだろう。

 まあ、そんなどうもでいい話は置いときまして。


「……というか、俺っていつまでメイドスタイルで……?」


「一生?」


「なんなら、このまま我が家で……」


「シルファーさん、我欲がただもれですよ」


 何故か頬を紅潮させながら、口元かた涎を垂らすシルファー。


 さぞ幸せな妄想をしておられるのだろう。


 できることなら、俺に配役をまわさないでくれると大層助かるな。

 と、割と辛辣な物言いを心中でこぼしながら、俺は依然として女の子スタイルのまま本題へ修正する。


「……んで、ヴィルストさん。一応聞きますけど、できます?」


――ドバンッ!


 おや、今発砲音が聞こえたような……


「――舐めないでくれるかな、アキラ君」


「スミマセン、俺ってそんな理由で殺されかけたんですか?」


 俺の頬を紙一重で掠った弾丸は、それこそ一歩間違えてしまえば頭蓋を捉えてしまっていたであろう。

 なにこの大貴族。


 そろそろ隠蔽されていた本性が露呈してきた頃合か。


「……パパ、最近、感情の起伏が激しいね」


「シルファー、一応言っておくんだけど、今さりげなく殺人未遂行為が実行されたんだよ。死にかけたんだよ」


「な、なら私が責任を……」


――ドバンッ!


「殺気!」


「チッ」


 シルファーのギリギリ(アウト)な発言に堪忍袋の緒が切れてしまったヴィルストさんは、それこそ予備動作なんて欠片も見せつけない無駄に洗練された、鮮やかな手並みで発砲、即座に屈んで回避する。


「ヴィルストさん、頭のお医者さんの心当たり、ありますよ」


「うん。そうだね。だから、頭蓋を木っ端微塵にしても大丈夫だよね」


「死にますよ。俺でも死にますよ」


 愛娘があんな大胆な発言を……


 娘の成長を祝うと同時に、なんだか無性に苛立ち、あのような暴虐に打って出てしまったという事情は理解できる。

 だが、お願いだから事あるごとに俺に鮮烈な殺意を向けないでください。


 結局嫉妬モンスターと成り果てたヴィルストさんをメイドと愛娘の奮闘により、何とか諫めることに成功した。


 婿養子になるかもしれない少年にはメイド服を着せ、ついでに日常とばかりに殺意を銃口から吐き出すファザー。

 改めて思う。なんだこの貴族は。


 できることなら、もとの真面な大貴族に戻って欲しい。


「……ゴホンッ。脱線したね」


「ええ。大いにね」


「シッ! また殺されますよ!」


「……私は猛獣か何かなのかな?」


 猛獣じゃんか。


 そんな的確な返答は、しかしながらさりげなくホルスターへと指先が触れていらっしゃるヴィルストさんの前では、何も言えなかった。


「……えーっと、確かゴリラの件だっけ」


 『傲慢の英雄』=ゴリラ。


 どうやらこれは大貴族さえも当然のように把握してしまっている国際常識であったらしい。

 

(強く生きてくれ、レギウルス!)


 誰かさんのせいで大いに風評被害が拡大していき、ただのゴリラと成り果てつつあるレギルスへ冥福を祈る。

 え?

 誰のせいで彼がこんな羽目にあったんだって? ちょっと何言ってるのか分からないな。


 兎にも角にも、俺は残念なゴリラのことは完全にスルーし、ようやく本題に移る。


「ええ、そうですよ。ゴリラの件っス」


「ふむ。ならば、君の問いかけの返答は必然単純明確だよ。そもそも、君は兵器の定義を履き違えていないかな?」


「……成程ね」


「…………」


 兵器とは、本来万人が扱うことができ、更にその凡庸性はそのままに、如何に絶大な効力を発揮するか否かにより品質が変質する。


 そして、その製作者はあの大貴族。


 付与魔術の金字塔ともいえるルシファルス家当主様だ。

 それ故に、必然彼が編み出すアーティファクトの一切合切は――、


「――大貴族に、不可能はない」


「…………」


 なんだろう。


 その台詞にすごく複雑な思いを抱いたのは、俺だけなのだろうか。
















「――走馬灯!? 走馬灯なの!?」


「うっせえぞ、キ〇ガイ!」


「止めてよね、そのニックネーム! というか蔑称!」


「お前にはお似合いだぞ」


 と、そんなレギウルスへ洗礼とばかりに、包囲陣かのように、全方位から水晶の鉤爪が溢れ出し、膾にしてしまおうとする。

 

「殺意、高っ! というか、俺をこうも徹底的に潰そうとするなら、先にアキラをぶっ殺してしまえよ!」


 ちなみに、俺には足止め程度しかない。

 無論、この程度を捌き切れないことなどないので、容易く片手間で押し寄せる鉤爪を薙ぎ払いながら、ちらりとレギウルスを横目に補足する。


「俺より始末するの楽だって思われたんでしょ。弱いからさあ」


「なあ、もう裏切っていいか!?」


 君は『誓約』という概念をお忘れだろうか。


 数瞬遅れてレギウルス自身も俺との間にある隔絶した上下関係を悟ったのか、心底悔し気に歯軋りする。

 

「畜生! お前と出会った時点で俺の運も尽きたか!」


「今更だな」


 レギウルスはそう喚き散らしながら、ようやく観念したのやら、その両椀に固く握られていた『紅血刀』をしなやかに振るう。


 獣のように低い姿勢で、それこそスケートさえもするかのような動作で跳躍し――そして、大地が陥没する程の勢いで、踏み込む。


 爆音と共にここまで破片が飛び散っていく。

 レギウルスがその深紅の刀身を振るったのは、鉤爪の間近――ではなく、縁遠いモノで数十メートルはあろうかという距離。


 この間合いでは、必然迎撃など夢のまた夢。

 無論、『傲慢の英雄』という痛々しくも誇らしい異名がつけられる程の猛者がそれを理解できていない筈もなく――、


「――『凪千切り』ッッ」


 直後、レギウルスの魂と、『紅血刀』に編み込まれた陣が呼応していき、蓄えられ居た魔術が存分に猛威を振るう。

 圧縮、加圧、鋭利化を一瞬で済ませ――直後、壮絶な勢いでそれが飛散していった。




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