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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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本日一度目


 そろそろ、アキラ君のこの不可解な権能についても解説したいです。


 















「――存外」


「――――」


 『老龍』は、やけに人間臭く嘆息しながら、ジッと目を細める。


 先刻、稲光したと認知した瞬間、抗いきれぬ雷光が轟き、そのまま眼下の無粋な輩たちを滅ぼしてしまったのだからその態度は余裕そのもの。


 だからこそ――、


「――このくだり、またやるの?」


「――ッッ」


 射出。


 練りだした魔力により、根底に至るまでを加圧したその水滴は、音速さえも上回る勢いで悠々と飛行する『厄龍』へと放たれる。

 

 しかしながら、老龍は驚きこそすれ、苦痛に呻く素振りは見せることはなく、いっそ関心したように目を見開く。


「ほう。今のを回避するか」


「違う違う。別に、あんな広範囲の雷撃、躱す程の労力なんて無駄以外の何物じゃないでしょうがい」


「――?」


 訝しむ『老龍』へと、俺は欠伸を噛み殺しながらしりもちをついているレギウルスをちらりと一瞥する。


「腰抜け、さっさと起きなさいな」


「い、いやなあっ」


 レギウルスが断固として抗議する姿勢を見せるが、わざわざそんなモノに付き合う筋合いもないので適当にスルーする。

 と、そんなふてぶてしい俺を『老龍』はさも興味深そうに見下ろす。


「貴様、一体全体、どのような方策により我の一撃を死守した?」


「んん? 疑問なんですけど、なんで俺がそんなこと懇切丁寧に説明しないといけないの? というか、なんでしてもらえるって履き違えたの? なんなら、有名な頭のお医者さんを紹介してやりましょうかねえ。ん?」


「――――」


 煽る、煽る。

 これ以上ないくらいに『老龍』を焚きつけていく。

 

(基本的にこういう輩は容易く堪忍袋の緒が切れやすいからな。適当にキレさせて、有利にことを進まさせてもらおうか)


 無論、俺もただの憂い晴らしにこんな挑発行為を行ったワケではない。


 基本的に俺の戦闘スタイルは他者を愚弄するという外道なモノだ。

 人間とは、脳内の沸点を超えた瞬間に、その元凶である存在へ焦点を釘付けにされ、盲目になってしまう生物である。


 この蜥蜴もシッカリと会話が成立している。


 故に、十中八九このような手段も有効なのだろう。


 が、約一名そんな至極当然な俺の座右の銘を理解できないゴリラが。


「お、おい、アキラ。お前頭大丈夫か……?」


「大丈夫じゃないようにしてやろうか?」


「――――」


 「今は真剣な場面なんだよ? 妄言とか吐いて場をかき乱したら……分かるよね?」と『羅刹』の刀身を鞘から微かに露出させることにより言外に示す俺であった。


 流石にレギウルスもヤバいと察知したのか、背筋をただし、直立不動の姿勢で『老龍』を睥睨している。

 その姿はどことなく教科書に記載されている遥か昔の軍人を彷彿とさせた。


 普段自由奔放なレギウルスが、まさかの軍人スタイル……


「――気持ち悪い姿勢だね、レギウルス」


「お前本当になんだんだよ!」


 地団太を踏むレギウルスをスルーしながら、俺はさりげなく『穿龍』を『老龍』へと極々自然に発射する。

 

「……なんだよ、今の自然な殺人行為」


「日常だ」


「嫌な日常だなっ」


 俺みたいな輩からしたら会得して当然の技術である。


 それはさておき――、


「――傷、刻まれていやしねえな」


「……寸前で止まっていやがる」


 俺たちは、先刻までのコミカルなやり取りはどこへやら、目を細め、鋭く大空を揺蕩う『老龍』を睥睨する。

 

 俺とて小手先技とはいえ妥協するワケもなく最高出力で極限まで圧縮した弾丸を吐き出したのだが……。

 しかしながら、幾ら目を凝らそうが、『老龍』には傷跡の一つもない。


「愚か。愚昧。蒙昧。貴様程度が繰り出す技など、片手間で振り払えるわ」


「……気色悪い口癖だな」


「し、静かにしろアキラ! デリケートだろうが! 分かるけど! 確かに中二病かよって、そう思えるけど!」


「――――」


 おや、老龍が龍の容貌であろうとも容易く判別できる程に、能面さながらの無表情となってしまい……、


「――『雷針』」


「――ッッ」


 直後――俺の頭蓋が、容易く神速の速力で放たれた一撃により、木っ端微塵となった――、















 ――。

 ――――。

 ――――――――。


「――『雷針』」


 直後、俺の頭蓋を鋭利な雷電により構築された針が貫通し、死に果てる――寸前、俺は猛烈な速力で陣を無詠唱で構築。

 そして、コンマ一秒にも満たない速度で構築した魔術を即座に行使する。


「――『拒波』」


「――っ」


 詠唱。

 次いで俺とレギウルスを覆うように展開されたのは、どこまでも澄み渡った水流により彩られたアーチである。


 そのアーチに、雷電が触れた瞬間、まるで雷は、それを避けるように大地へと逸らされ、やがて消え去っていく。


 今回は規模は小さいが故にハッキリとルーツを垣間見ることができたのか、老龍は驚嘆したかのように目を見開く


「――真水かっ」


「穢れ無き水流を電流が干渉できるワケないでしょって話ですよねえ」


 なんで世界を滅亡させるような存在が、どうしてそんな科学知識を知り得ているのか、心底聞き入れたい。

 無論、頭がちょっとアレなレギウルスにはちょっと理解できなかったようで。


「――? どういう意味だ?」


「俺、さっき説明したよね?」


「――? ちょっと何言ってるのか分からないな」


「それはそれで天才だろうが」


 俺とて、無用な混乱を避けるために、真水の原理やらを言及したつもりだったのだが……不要と脳が切り捨ててしまったのか、もはや眼中にないらしい。

 流石脳筋。

 いよいよレギウルス=ゴリラ説が真実味を帯びた気がしなくもない。


「レギウルス。そろそろ『紅血刀』握れや。戦士が剣を構えないって、それこそニート同然だと思うぞ」


「嫌な響きだな、その言葉っ」


 どうして真水だなんていう少々マイナーな言葉を明らかに人外な老龍がご存じなのに、このゴリラはこの程度の一般教養も知らないのだろう。

 まあ、そもそも存在しないっていう可能性もあるがな。


 それはともかく――、


「んじゃ――そろそろ、飛ばすか」


「――――」


 こんなどうでもいい一幕であんな羽目に合うとは少々予想外ではあるが、別に性質上回数制限なんて皆無なので問題はない。


 仕切り直しとばかりに懐からぶら下げた鞘から、『羅刹』の刀身を垣間見せる俺を見習い、レギウルスもようやく己の得物を構える。

 お互い、準備は万端か。


 そして――、


「――『氷牙突』」


 俺は虚空に氷結のジェット機を生成し、軽やかな動作でそれに乗っかると――、


「――クソ蜥蜴。その角、抉り取ってやんよ」


 そう啖呵を切り、凄まじい速力で虚空を踊り舞ったのだった。




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