そして、
レギウルスさんとアキラさんの関係は、多分文ストのあのコンビを意識したんだと思います。
……はて、あの全身タイツは何処に
「――なあ」
「ゴリラ、鬱陶しい」
「普通、そこまで言うか?」
「ちょっとお黙りになってくれません? ただいま『羅刹』の習熟作業にとっても忙しくて、メンヘラゴリラとお喋りする暇なんてないんですう」
「ア”ァ?」
「ん? どうしたのかな紅血刀なんて構えて」
――舞台は、巨大な洞窟の奥深くだ。
ここは、かつてかの『老龍』がその吐息一つで刻んだ大地の傷跡らしく、その伝説はいまや英雄譚のように扱われているらしい。
まあ、それはともかく。
「レギウルス。退屈なのは理解できるが、メンヘラも大概にしろよ」
「だぁかあら! 俺はお前みたいな変態と一緒じゃねえんだよ!」
「変態? 変態さーん、どこですかあ?」
「お前だよ!」
あれ、おかしいな、変態と形容できるヤツなんてどこにも……。
と、ようやく俺は真相に辿り着くことに成功した。
「成程。ついに自覚したんだな」
「何をだよ、何を」
変態という枠組みに該当する存在なんて、レギウルス以外に見当たらないので、そう的確な指摘を繰り出す俺であったが――、
「じゃあ、これはなんだって言うんだ?」
「そ、それは……っ!」
レギウルスが取り出したのは、一枚のプロマイドである。
そこに射影されたのは、一人の可憐な少女で――、
「……誰だろう、このメイドさん」
ツインテールにまとめられたたなびく長髪も、美の骨頂としか言いようのないその容貌も、可憐なたずまいの一切合切が魅力的な美少女である。
ふざけたことに、その頭髪には可愛らしいネコミミが……
「ああ、全くだ。こんなコスプレとしか言いようのないヒラヒラのメイド服を、それもネコミミを装着してまで着飾るだなんて、世も末だな」
「同意見だよ」
「だよな。やっぱり、メイドといったらもっと清楚であるべきだよなあ。なあ、アキラ君?」
「同意せざるを得ないな」
「そうか。お前とは分かり合えないと、そう勝手に解釈していたが、どうやらそれは誤りであったようだ。だって、こんな痴女同然の装いをする恥という概念を知らない女の子だもんなあ。なあ、同士アキラ君」
「やれやれだね」
一拍。
「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ」」
なんか、哄笑が響き渡った。
それは、まるで悪役が倒れ伏す主人公を嘲笑うかのようなモノであった。
無論、両者共に目は全然笑っていやしない。
俺は射殺せんとばかりにレギウルスを睥睨していき、同時に心底愉快げな下衆な眼差しが向けられる。
(よし、ヴィルストさん殺そう)
もう、あんなクソ親父生かしておかねえな。
そう、決意する今日この頃であった。
「――さて、アキラ。ようやく俺の話を聞くつもりになったか?」
「寝言は死んでから――」
ネコミミメイド写真が、チラリッ!
「なんでも聞くよ、親友レギウルス君」
「……お前、合理性が極まり過ぎて気持ちが悪い惨状になってるぞ」
どうやら親友レギウルス君は眼球に少々異常があることが発覚してしまい、心底消沈してしまった。
「……なんだよ、その眼差し」
「大丈夫。大丈夫だから」
「はあ……」
もはやツッコむ気にさえ沸いてこないのか、盛大に溜息を吐きながら、レギウルスはちらりと俺を一瞥する。
そして、問いかける。
「なあ、お前って、今回の一件、というか一切合切の黒幕だよな?」
「否定はしないよ」
別に俺が『清瀧事変』を巻き起こしたとか、そういう意味ではないのだが、訂正が面倒くさいのでスルーさせてもらおう。
それに、このゴリラとの付き合いもそろそろ多大なモノだ。
故に、こいつもそれは理解しているだろう。
外道だけど、最低限沙織を害するようなことはしない。
それが俺への正確な評論である。
無論、沙織という女の子がどうしようもないくらい大好きだってことは否定はしないのだが……俺は基本的に手段を択ばない。
――末路で笑えたら、いいじゃん
ふと、在りし日にはにかんだ少女を思い出した。
そういば、あの子はそんなことを言ったっけ。
そんな、なんの益体もないことを思案する。
そうした中で、レギウルスは普段の無思慮な言動はどこへやら、今や理知的な雰囲気を醸し出し、問う。
「前から疑問に思ってたんだけどさあ。――どうして、お前はこんなにも面倒なことを画策しやがったんだよ」
「――。それが、お前が抱いた疑念か?」
「ああ」
ふむ……。
まあ、確かに一般常識と照らし合わせてしまえば、必然俺の常軌を逸したその行動を不自然に思うよな。
不可能だと思われた人族と魔人族の同盟、
更に、各国の同盟や、この采配まで。
それらは、たった一つを成しこなすことさえ至難の業ともいえるのに、俺はそんなことを無視してすべてを成し遂げてしまったのだ。
故に、疑念を抱くだろう。
どうして、この男はこうも智謀を張るのか、と。
成程、俺でもそう感じるな。
そんな、妙な共感を感じながらも、俺は唇に人差し指を立て、
「――それは、永劫の秘密さ」
「ほう」
胡乱気な眼差しで俺を見詰めるレギルスへ、俺へおざなり、それでもハッキリと明瞭に返答することとなる。
「おいおい、そんなに誰かさんのメイド姿を配布して欲しいのか?」
「どうぞ、ご自由に」
「――――」
先刻の態度から、俺が如何にそれに羞恥心を抱いているのか、それは既に否応なしに理解できているだろう。
だからこそ、唖然となる。
それほどまでに、口を噤むべき内容なのだと。
それと同時に沸き上がっていくのは、得体の知れない、俺という存在へ抱く、根底的な警戒心――、
「邪推しないの」
「――――」
「断言しておくけど、俺の動力源はお前が食い止めない程に厄介なモノじゃない。……ただ、恥ずかしいだけだ」
「……ハッ。なんだそりゃ」
「ん」
今の一連の会話で俺の意思が理解できる筈がない。
しかしながら、どこか恥じらうような俺の態度から何かを察したのか、にやにやと気味の悪い笑みを浮かべるレギウルス。
とりあえず、
「ふんっ」
「あがっ」
最低限、目は潰させてもらう。
「どうだ。嬉しいだろ」
「俺はどこのアキラだっ」
「ちょっと、いや、かーなーり、疑問なんだが、もしかして君達、俺の事心底度し難い変態って誤認してない?」
「それは違うぞ、アキラ」
「ん? もしかして、邪推のしすぎか――」
「『誤認』なんかじゃない、お前が沙織とやらのパンツをどこぞの変態●面のように被る変態だってことは、国際常識だから」
「嫌な国際常識だな!」
というか、誰が変態仮●だ!
あんな筋骨隆々な変態漢と一緒にするな!
そう盛大にツッコもうとした刹那――、
「「――ッッ!!」」
刹那――世界が、割れる。




