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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
一章・「赫炎の魔女」
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蛇足・祭りの終幕


 ちょっとした伏線っす。









 ここまではまだよかった。

 

 不測の事態とはいえ、こうして何の問題もなく過ごすことができたかたら。

 ひょっとしたらこのまま普通に祭りを楽しめるので?

 なんていう淡い期待が生まれてしまう。

 だが、俺は忘れていたのだ。


 波乱万丈を極めてしまったこの姫さんが持つトラブル体質を。


「……一応聞く。 その子は?」


「拾いました」


「俺はロリっ子を誘拐するような女に育てた覚えはないぞ……!」


「語弊がありますよ! 語弊が!」


 何故かシルファーは俺が少し目を離すと幼気な少女と手を結んでいた。

 穏やかな誘拐現場である。


「さっき偶然、一人で泣きながら歩くこの子を見つけたんですよ。 聞いてみると親と逸れたそうです」


「成程。 お前が強奪したのか」


「ちょっと何言ってるのか分りませんね。 まぁ、そんなわけでこの少女の親を探したいわけですよ。 もちろん、手伝ってくれますね?」


「当然、断る」


「えっ」


 ちょっと何言ってるのか分からないみたいな顔しないで欲しい。


「俺はなぁ、今日一日だけはゆっくりと怠惰に過ごすって決めたんだよ! 絶対トラブル巻き起こすじゃんこの子!」


 ラノベではこういう展開になると必然的に面倒な事になる可能性大。

 当然、俺としてそれは許容できないな。


「ちょ、何言ってるんですか! 幼児が泣いてるんですよ! 少しは同情しないんですか!?」


「可哀想だなぁーとは思う。 でも放置するしかないじゃないか」


「爽やかな笑顔で言い切らないでくださいよ!」


 チッ、平行線か。

 と、その時俺たちのいい争いに刺激され、幼女が涙目になる。

 あ、泣くな。

 そう漠然と悟った俺は、「はぁ……」とため息を吐きながら手元の串焼きを幼児に渡した。


「ほら、美味しい串焼きだぞ。 これ食って泣き止め」


「うぅ、うん」


 基本、この世界の住民は飢えている。

 それもそう、戦争中故に支援できる物資も限られており、日々の日銭を稼ぐのが精一杯というのが現状である。

 当然、このような香ばしい焼肉に慣れているわけではない。


 幼女は涙を零すことすら忘れ、一心不乱に焼肉を喰い尽くす。


「ありがとう、お兄ちゃん!」


「オッケーオッケー。 ついでにわいわい騒ぐ姫さんのためにもお前の保護者、探してやるよ。 お兄ちゃんに任せとけよ」


「あの……どうして私と彼女とでは対応がそんなに違うのですか」


「ハッ」


 幼気な幼女と残念系美少女。

 どちらの願いを優先するかなんて……サルでも分るだろ?


「というわけで少しは淑女になってから出直せ」


「ぶっ殺」


 俺は幼女の小さく、そして枯れ枝のように細い手を握る。

 幼女は拒絶するわけもなく嬉しそうに握り返してくれた。

 ロリコンちゃうし。

 シルファーも「はぁ」とため息を吐きながら、もう片方の腕を優しく握った。

 というか、何故貴様がため息を吐く。

 

「何というか、まるで親子みたいですね」


「そ、ソウダネ」

 

 あぁ、こんなシチュエーションを沙織とやってみたかった!

 だというのに相手は残念令嬢。

 アハハ、俺運終わってるな。

 運命ももうちょっと人選考えろよ。


「というかそもそも姫さんの年的にもう歩けるだけの子供が居るって……」


「ちょ、恥ずかしくなるから止めてくださいよ!」


 姫さんの非難は無視で。

 俺たちは幼女の歩幅に合わせ、ゆっくりと大通りを歩く。

 ……確かに、傍目から見るとバカップルだな。

 

「そういやお前、名前は?」


「なまえー? しゃるるはしゃるるだよ?」


 幼児――シャルルちゃんは舌足らずな口調でゆっくりながらもそうハッキリと言った。


「シャルルか。 良い名前だ」


 俺としては某有名楽曲をつい思い出してしまうネーミングであるが、特に癖のない良い響きの名前だと思う。


「シャルルちゃん。 お前の保護者……パパかママはどこにいるのか?」


「ぱぱとままはまおうじょうっ! くんりんしてるの!」


 アカン、可愛いけど話にならないは。

 パパが魔王城に君臨したら不味いだろ、色々。

 いや、まさか……な。

 

(……念のため、後で確認しとくか)


「じゃあ、シャルルちゃんは誰と来たの?」


「えーっと、ろーず! しゃるる、ろーずときたの!」


「ローズ、ね」


 俺は目を細めながらそう呟く。

 と、その時、


「あ、お嬢様! お嬢様ではありませんか!」


「ん?」


 立ち止まる俺達へ――声色からして青年か?――声がかかった。

 振り返るとそこには鮮やかなパール色の髪を束ねた長身の青年がこちらを――正確には、シャルルを――凝視していた。


「あれがローズか、シャルルちゃん?」


「うんっ! ローズきたのっ!」

 

 心なしか興奮した様子のシャルルが、こちらへ向かってくる青年、もといローズへと物凄い勢いで抱き着いてきた。


「見つかったな、姫さん」


「えぇ、そうですね……」


 だが、それとは対照的にシルファーの表情は少し暗い。

 なんせ、保護者が見つかったのだ。

 部外者である俺たちはお暇するのが宿命だろう。

 そして聡明なこの子は当然の如くそれを理解している。


 だからこそ、少しでも水が差さないように努めて笑顔で振るまっているのだ。

 まったく、どんだけ懐いているんだよ。

 たった数時間でここまで情が湧くとはな。

 これはこれで美点なのではないだろうか。

 

「あ、ありがとうございます。 お嬢様が居なくなった時は、本当に生きた心地がしませんでしたよ」


「いえ、こちらこそ」


 俺はそう社交辞令を返し、ちらっと横目で姫さんを一瞥する。

 姫さんは何とか涙腺が崩壊するのを堪え、その言葉を口にした。


()()()


「うんっ!」


 そして、シャルルとローズの背はどんどん遠ざかっていった。

 

「――――」


「――――」


 どこか気まずい雰囲気が流れる中、不意にシルファーは口を開く。


「赤ちゃん、欲しいですね」


「…………」

 

 何故、その話を俺にする。




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