旅立ち
メイドアキラさん、もしかしたら九章にも登場するかもしれません……
ない……よね?
……無きにしも非ずと、コメントしておきましょうか。
「――国の内情は、既に把握しているかい?」
ようやく終幕した「アキラちゃん鑑賞会」の際とは打って変わり、まごうことなき大貴族の威信を言外に痛烈な威圧感と共に示すヴィルストさん。
どうやら最近の彼は情緒不安定らしい。
ようやく、本題に入ったなあ……とはんば呆れ果てながらも、俺は肩を竦め、ハッキリと明言する。
「もちろん」
「ほう」
心底愉快そうに目を細めるヴィルストさん。
ちなみに、原点復帰というべきか俺は未だフリフリのメイド姿である。
声帯や髪に関してもなんら改善してもらえなかったこに悲しみ。
「……あの、今更ですけど、メイド服。脱いで良いんですか?」
「――人前で、女の子が服を脱ぐだなんて大胆なことを言ったらいけないよ。痴女だと思われるからね」
「男ですが」
ぞうさん、生えてますよ。
無論、俺の講義も当然のようにスルーである。
何故か、シルファーがやけに熱っぽい眼差しで俺を凝視しながら「百合って、いいかも……っ」と呟いていたのだが、きっと気のせいだろう。
「……というか、ヴィルストさんは戦場に征かないんですね」
「大貴族だよ? 当然じゃないかい」
「いえ、既に王国の四血族の半数が瓦解していますから、それも頷けるんですけど……なんか、イマイチ納得できないんですよね」
「ほう」
余談だが、その半数が壊滅する起因を作り出した主犯は俺であることは『天衣無縫』により消去しているので問題はない。
ちなみに、欠如した記憶は後でスピカ君に補充してもったのだが、それではまた別の話なのである。
閑話休題。
「それで、ガバルドさんは俺に何を?」
「――私は、君に期待しているんだよ」
「――――」
「娘がいる手前、あまり語りたくないのだが――今回の一幕、ほとんどの黒幕は、君だろう?」
「――。興味深い、考察ですね」
「興味深い、ね」
ジッと疎まし気にメイドさんを見据えるヴィルスト。
……シリアスな雰囲気で黒幕がネコミミメイド姿ってのはどうかと思うが、もはや体が「ご主人様」には逆らえないと痛感している。
なんとも模範的なメイドさんであった。死にたい。
まあ、それはともかく――、
「俺がそれに関与したという証拠は?」
「まず、心当たりのない者はそもそも犯行の証明を所望しないと思うけどね。ミステリーでは典型的だよ」
「アッハッハ、ですねー」
「――――」
ふと、視線を感じてその方角を一瞥すると、不意にシルファーと目が合う。
その瞳に移るのは、多分な憂慮。
まるで恋人が化け物になってしまうのではないかと、そんな形容できぬ不安を抱えているようにさえ感じれる。
「――でも、今は黙秘しますよ」
「――――」
「まだ、何も始まっちゃいない。終止符なんて、一度たりとも打たれなかったんだ。――俺が真相を口にするのは、もう少し先ですよ」
「――。そうかい」
もちろん、これは本心だ。
それが魔術の副次的な効力か何かなのかは定かではないが、ヴィルストさんには他者の思考を垣間見る慧眼を持ち合わせている。
故に、虚言は愚策。
真実以外の決定打が存在しないのだ。
法螺話を吹けば、即座に頭蓋が弾け飛ぶだろう。
そして、俺に自殺願望なんて存在しないので、そのような愚行も必然やらかすこともなく、正真正銘の本音を語った。
唯一の憂慮すべき焦点は、彼がそれで納得するがどうか。
この世界は弱肉強食だ。
俺もそれなりの力量であるという自負があるのだが、しかしながらそれも生粋の化け物の前にはひどく無力。
あるいは幼児の稚拙な反抗程度の効力さえ満足に発揮することはできないだろう。
だが、仮に――、
「――今は、それで納得しよう」
「――――」
仮に、その曖昧模糊とした説明で、この人が納得してくれたのならば。
そんな希望的観測に縋った、自分でも情けないモノであったが――どうやら、今回に限っては容認されたらしい。
否、厳密に言ってしまえばあくまで執行猶予が設けられただけ。
だが――それで十分。
俺が、もう一度朝日を迎えることができるのならば、それで。
「――。そういえば、『羅刹』の性能はどうだったのかい?」
「スミマセン、話の脈絡がちょっとよく分からなかったのですが」
どうして今『羅刹』が……まあ、一応『清瀧事変』を見越して改良してもらったんだかた関連性はあるんだけどさあ!
「というか、今更なんですけど、メイド服はともかく、この甲高い声音や長髪はどうすれば良いんですか……?」
この状態でレギウルスたちの元へ行ったら、確実に晒しものになれるという確固たる予感がするのだ。
流石に、俺でもそれは堪忍して欲しかった。
あるいは現実世界の両親以上に親しくなって、同時にそれなりに好意的に受け入れてくれるこの人たちならまだいい。
だが、相手はあの『傲慢』だ。
絶対に爆笑される。
と、そんな途轍もない憂慮を口にする俺は、次いでヴィルストさんの口元に浮かんだ微笑を視界にとらえた瞬間、何故か寒気が。
「――もう、いっそのこと、女の子として生きなよ。なんなら、ゾウさんも摘出してあげようかな?」
「め、名案だね、パパ!」
「四血族って、もう皆頭のネジぶっ飛んでるよね」
全身包帯野郎然り、クズジジイショッタ然り、パパ系大貴族然り。
あれ、俺が殺したあの令嬢って数少ない常識人では……、と思えてしまうまでがご愛嬌であるのだ。
閑話休題。
「脱線したね。話題を元に戻すよ。――アキラ君、君はこの騒乱の中、どう立ち回る?」
「――――」
騒乱。
無論、それは『清瀧事変』の、その延長戦のことを示しているのだろう。
(ったく、この人なら容易に判別できるだろうに)
俺の巧妙に隠した本心さえ汲み取ったんだ。
この程度、それこそ片手間で推し量ることができそうな気もするのだが、現状無闇に反抗するのは得策ではない。
メイドは、ご主人様に逆らえない!
「――これは、あくまでも『過程』ですよ、ヴィルストさん」
「――――」
「ですから――結果を自らが叩き出すまで、歩みは止めません」
「ほおう」
そう、これはあくまでも長居旅路の道中。
故に、この程度の障害、これだけの歳月があるのだから、容易に対処することができるのだ。
少なくとも――俺の、真の宿願に比べてしまえば、容易い。
そんな俺をヴィルストさんは愉快げに目を細め――、
「――持っていきな」
「――っ。これは……」
不意に、何の前触れもなくヴィルストが懐から投げ出したのは鉄製のどこにでもある、ありふれたネックレスである。
(アーティファクト……ではないな)
一切の魔力の感じれない何の変哲もない贈り物に首を傾げるが、その真相は終ぞ本人の口から語られることはなかった。
「きっと、これが大いに役立つ頃合がある。その時までに、持っていなさい」
「――。感謝、します」
「なに。娘の大切な婿なんだからね」
「大切と思うのならメイド服は御遠慮願えません? というか、俺っていつのまに婿入りしたの……?」
そう、釈然としない風体で愚痴る今日この頃であった。
なんだか、今週の仮面ライダーはちょっとよかったです。
お前そろそろ仮面ライダー卒業しろよ、とか言わないでください。ちなみに、私は依然01推しですよ




