ネコミミメイドアキラちゃん、爆・誕☆
実は『清瀧事変』への伏線です。
はて、先程のシリアス具合はどこに……
――そこには、メイドが居た。
「う、うぅ……」
羞恥心故にその美貌を赤らめるそのいじらしい姿は可憐の一言に尽き、万人が魅了されること間違いなしである。
加えて彼女が試着しているメイド服はそこらの月並みにありふれた品物とは一線を画すモノで、真っ先に注目すべきなのはそのひらひらのスカートの丈なのだ。
もう、滅茶苦茶短かった。
それこそ、少し油断してしまえばパンチラ必至ともいえるレベルで。
少女は必死に下着を見られないようにとスカートをおさえており、そんな恥じらう姿を一瞥した瞬間、世界が深紅の降水で水浸しになるだろうということはいかなる愚図であろうとも容易に想定できた。
更にその魅力を上乗せするのは圧倒的な絶対領域!
清楚な白ニーソとふんだんにフリルが使用された丈の短いスカートの挟間の素肌は誰もが自然着目してしまうだろう。
そして、畳みかけるかのようなネコミミ!
それまでその美貌故にどこか神聖な雰囲気が醸し出されていたが、いつしか付け加えられていたネコミミによりその様子は豹変する。
身近に感じられるようになったその色香に惑わされない男なんてきっとこの広大な世界には存在しない。
そう――今ここに、可憐極まりなきメイドさんが降臨なされたのである!
「アッハッハ、あー溜飲が下がる! アキラ君、最高に可愛いよ! 娘にしたいくらいだ!」
「アキラさん、今度は前かがみで『ご主人様♡』って、上目遣いで仰ってくれませんか!? そしたら、至れそうなんですよ!」
「どこにだよ! 後見るな!」
……はい。俺です。
爆誕したネコミミメイドの素性は俺でした! コンチクショウが!
「ふむ。似合うと思っていたが、よもやこれほどとは……」
「ヴィルストさん! 今ならあなたもぶっ殺せそうですねえ!」
「おや、そうなのかい?」
銃口がチラリ……
「違うにゃん♡ ご主人様には敵わないにゃん♡」
「はっはっは」
……死にたい。
俺の力量では到底この化け物と太刀打ちできませんですしね!
でもねえ、ガバルドさん。あんた、最近本当にキャラ崩壊が凄まじいぞ。
そんな性格だったのだろうか。
れっきとした男をネコミミメイド服を着せ、「にゃん♡」と言わせるのが趣味な、鬼畜漢だったのだろうか。
「……うわあ、これはこれで萌えますね」
「止めて! 恥ずかしくて死にそう! もう本当に!」
「声も美少女じゃないですか」
「ああああああああっっっ‼」
何故こうなったのか。
それを説明するのならば、たった一言で十分な筈。
――君への制裁は、ネコミミメイド服の着用及び撮影だよ
察してくださっただろうか。
当初、『白日の繭』とやらに比べてしまえばなんと生温いだろうか……そんなことを想っていた時期が、俺にもありました。
だが――、
「ほら、アキラちゃん。今度はM字開脚を――」
「いや、シルファー、ここはもっと攻めてようか! 具体的にはメイド服の露出を、それこそ水着同然に……」
「もう止めてよっ!」
必死に叫ぶが、無論そんな声誰も聞いちゃくれない。
「知ってるかい、シルファー。あれがツンデレだよ」
「成程。勉強になります」
「ヴィルストさん、ちょっと黙ろうか!」
「ん? 口答え、するのかな?」
おや、硬質な銃口が……
「しないにゃん♡ご主人様の言うことは絶対にゃん♡」
「よろしい」
――かつて、これに勝る恥辱が存在しただろうか。
今やただえさえ甲高い俺の声音がルシファルス印のアーティファクトにより、紛うことなき美少女同然となってしまっている。
ついでとばかりに髪も腰に届くまで伸ばしたしまうまでがご愛嬌。
しかしながら、言ってしまえばその程度。
それらを除けいてしまえば、全く俺の本質を弄ったりしていないのだ!
つまること、俺からしたらほとんど恥辱に差異は無く。
しかも、だ。
「……せめて、もっこりは止めて欲しかった。やるなら、徹底的にやって欲しかった……っ!」
「アキラちゃん、人生はほどほどくらいが丁度いいんだよ」
嫌な真理である。
……あの後、紆余曲折あり、シルファーとの和解を果たした俺は、それを彼女と共にその保護者に報告しにいったのだ。
彼も彼で愛娘が振られてしまった事実に思うことはあるだろうが、それでも一応俺の心の奥底は見透かしているようで、黙認される形となった。
が、どうやらこの人は存外根に持つタイプらしい。
結果、俺は『制裁』という名目のもと、ネコミミメイド服を着用する羽目になったのだ。
普通に支離滅裂である。
「楽しいの!? そんなに俺を辱めて楽しいワケ!?」
「こら、一人称は『わたし』でしょ、アキラちゃん」
「そうだぞアキラちゃん。ほら、まずは手始めに……」
「その前に俺の呼称に関して断固として異議を唱えようか!」
俺、男!
れっきとした♂!
故にこのような不当な扱いは心底不本意であり、故に未だかつてない程に吠えるが、しかしながら相手は俺でさえ凌ぐ化け物と、失恋して吹っ切れてしまった少女だ。
その返答はさしも俺でも予測不可能であった。
「アキラちゃん。――性別なんて、些細な違いですよ。違うことを受け入れ、認め合う。それが『愛』じゃないですか」
「些細!? どこが!?」
「やれやれ、もう少し落ち着き給え。メイドなんだから」
「騎士だよ! れっきとした騎士だよ!」
俺っていつのまに専属メイドになったんだっけ。
「アキラちゃん――今度は、護衛としてではなく、使用人として雇用されてみませんか?」
「執事だよな。執事として雇うんだよな」
「そんなこと……言わせないでくださいよ」
「ああ……お前、変わったな。あの頃の無垢な少女は、もう消えちまったんだな……」
ご臨終であ――殺気!
「アキラ君。――ロリータファッションに、興味はあるかい?」
「ちょっとヴィルストさん、娘を馬鹿にされたからってその判決はどうかと思いますよ!」
「大丈夫さ。きっと似合うから」
「だから問題なんだよ!」
「安心しないさい。写真は永久保存しておくから」
「悪質ですね!」
そろそろルシファルス家と絶縁した方が得策か。
まあ、きっと推し量るにこれはヴィルストさんに、少しでも気まずい雰囲気を醸し出さないための一種の計らいなのだろう。
流石は大貴族。
若者への配慮は容易か。
「アッハッハ、そういえばシルファーの洋服のお古がたくさんあるんだよね。 ――もちろん、水着も」
「そ、そんなの破廉恥だよ……!」
「殊更、よいではないか」
配慮……なのかな。
ちょっとヴィルストさんの本心がよく分からなくなってしまった今日この頃である。




