いつかのあなたへ
サブタイトルは呪術リスペクトです。パクリともいう。
それはそうと、プロットが大幅に狂いました。はい。(´・ω・`)
ホントは兄と妹程度の距離感に留める心算だったんですよね。ほらっ、失恋して、それで諦観するってベターじゃないですか。
ですけど、何故か指先が勝手に動き、このような結末に至ってしまったワケです。
もう一度言いましょう。
どうしてこうなった!
……詳しくは、本編で!(ヤケクソ)
――ホント、沙織さまさまだな。
そんな何の脈絡もないことを、その瞳を潤ませるシルファーを見下ろしながら思案していた。
思えば、俺の原点はいつだってあの少女に帰結している。
それは良い意味合いでも悪質に作用することでもある。
今回の『清瀧事変』の一件に関して、当初はなんら興味もなく、勝手に滅んでくださいというのが本音であった。
が、今は異なる。
俺はその性質上、沙織の本体よりも分身体の方をどうしても重視してしまう。
無論、知り合いに沙織の本体を頼んでいるのだが、それでも俺がこうして直々に対処している時点で押して知るべしである。
閑話休題。
今大事なのは、俺が少しでも眼科で涙ぐむ少女を意識してしまっていることである。
「――まあ、お前の極論もあながち間違ってもねえよ」
「――――」
「確かに、今まで通りの俺だったらそんな風に考えてたよな。それに関して、生憎のところ否定する材料は皆無だな」
「――っ」
あの馬車での一件。
本来ならば、適当に綺麗事ばかりを並べたてる心算であった。
相手はルシファルス家の一人娘。
無意味に刺激するのは愚策以外の何物でもないし、ヴィルストあれほど微笑んでいたんだけど、あの細めは全然笑っていなかったんだよな。
でも――、
「でもさあ、あの時、弱音を吐くお前がさあ、重なったんだよ」
「――――」
「盲目で、物事をたった一つの視点で捉えることができない、そんなどうしようもない姿が、どうしてもデジャブを憶えたんだ」
「……そう、なんですね」
「ああ、大いに首肯するさ」
多分、あんな乱雑な手段を用いたのはある種の同族嫌悪なのかもしれない。
それを実行に移したのは、同じ苦悩する者としてのよしみか。
「それからお前と過ごしているうちに、変わったなって、そう思ったんだ。だからかな。ちょっとは疎ましく思ってたお前のことを、好きになれたよ」
「――っ。そういう風に思ってたんですね」
「もちろん」
「――――」
言外の、否、もはや直接的な悪罵である。
が、俺はかつのあの馬車でシルファーの華奢な首筋に太刀を添えたこともあったのだ。
この程度、今更である。
それに、肝心の「今」は伝わったんだし。
そう満足する俺へと、憂いが晴れ渡った瞳で見据えるシルファーが、決然と、それでもどこか恥じらうように問いかけてくる。
「――一人だけひたすら吐露するっていうのも、フェアじゃないですよね」
「――。まあな」
その一度たりとも陽光に焼かれた痕跡なんて皆無な、その純白の頬を、何故か朱に染め上げながら、それでもハッキリとシルファーは囁いた。
「だったら、私も、言わなくちゃですね」
「――――」
射抜かれる。その瞳に。
あの牢獄でひたすら己自身を嫌悪し、忌み嫌い、下らないことで苦悩していた少女の眼差しに迷いはない。
その瞳には、一切の不純物が混じっていやしなかった。
否。厳密には異なる。
あくまでそう感じているだけであり、実際のところ様々な感情が渦を巻き、雪崩のように押し寄せているのだろう。
ただ、少女の身にはそれすらも霞んでしまう想いが確かに刻まれていて。
そして――、
「――私は、アキラさんが、異性として好きですよ」
そう、言い放った。
決然としたシルファーが告げた声音に嘘偽りの気配は一切感じられず、ただただ純粋無垢な感情だけが蔓延っていた。
――きっと、それはある種の病気なのだろう
俺だってそれを現在進行形で経験している。
どこまでも軽薄な俺たちは、たった一言、たった一瞬寄り添ってもらっただけで容易くその病に全身を蝕まれてしまう。
(ああ……綺麗だな)
容姿が、ではない。
幾度となく挫折を繰り返し、まるでヤスリに磨かれたように鮮烈なその魂は、間違いなく万人を魅了するだろう。
無論、その容貌も飛びぬけて整っている。
それこそ沙織と比較することができるレベルであり、そこらの有象無象とは必然お話にさえならないだろう。
そんな、傷だらけの、だからこそ鮮烈な少女が、こんなどうしようもない自分のことを好きだと、そう受け入れてくれたのだ。
思わず、その色香にくらくらしてしまう。
そして――、
「――ごめん」
そう、頭を下げた。
「――っ」
それが意味する事象は如何なる図式を読み解くよりもなお容易であり、それこそ赤子さえも容易く判別できるだろう。
一目瞭然であった。
無論、地頭は十二分に聡明なシルファーがそんな単純明快なことを悟れないわけもなく、その瞳から水滴が零れ落ちる。
するりと上気する頬を駆け抜け、小気味よい微弱な音が確かに反響する。
零れ落ちた水滴が弾け飛ぶその瞬間は、まるで必死に泣き喚くのを堪える少女の激情を如実に示しているような気さえもした。
「……どうして、ですかっ」
「俺は、もうどうしようもなく沙織のことが好きだ。それこそ、彼女を死守するためだったらいつだって死んでもいいと思ってる」
「――――」
「きっと、これはもうどうしようもないと思う。それに、最近ようやく沙織と三年ぶりに出逢えたんだ。――俺のこの意思が、一貫されない筈がない」
「――。そう、ですか」
「ああ」
色々と、前提知識のないシルファーには不可解な物言いであったのだろう。
しかしながら俺が如何にその少女のことを溺愛しているるのかは、否応なしに理解してしまえているようだ。
(さて……問題はこれからだな)
今まで通りのシルファーならば、その事実を否定しようと、がむしゃらに否定しようとするだろう。
だが、今この瞬間は――、
「――諦めたとは、言ってませんよ」
「……はい?」
ちょっと想像の埒外な物言いに「聞き間違いかしらん?」と首を傾げるが、無論眼下に佇む少女の意向は一向に変動しないようである。
「聞こえませんでしたか? なら、脳裏に焼き付いて離れない程に囁きましょう。――私は、まだあなたを奪うことを諦めていませんからね。たとえ失恋しようとも、不死鳥の如く蘇って、あなたを捕まえますよ」
「ちょちょちょ! お前、お前なあっ……!」
浮気・ダメ・ゼッタイ!
そんな俺の露骨な意思を読み取ったのか、何故か不自然にシルファーは頬を歪め、
「アキラさん、知ってますか。――バレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
「アウト! アウトだから!」
「やれやれ、アキラさんも衰えましたね。こんな至極当然自明の理さえも理解できていないとは……」
「いや、その迷言って、そういう意味じゃないだろうが!」
俺だって基本的にそのスタンスで立ち回っているのだが、ちょっと、いや、大いに意味が違ってくるよ、それじゃあ。
というか、吹っ切り過ぎてシルファーさん変な方向に尽きぬてしまったのでは……
そんないい知れぬ不安に駆られる俺へ、不意にシルファーは足音もなく肉薄し、互いの吐息さえも見て取れる超至近距離で、囁いた。
「――ですから、覚悟。しといてくださいよ」
そう囁く少女の姿は、年不相応に艶やかで――、
「……おやおや、頬が赤いですよ?」
「気のせいだろ」
ちょっとときめいたのは秘密である。
浮気フラグとか、そういうのじゃないです




