パパのキャラ崩壊が留まることを知らない
サブタイは、あのなろう作品のパクリです
我ながら、言い方が悪いですね
多分、文字数もあってると思いますよ。知らんけど(魔法の言葉)
「――――」
小鳥の囀りが呑気に木霊するような、そんな平穏そのものの情景。
そんな片隅で、シルファーは力なくベットに横たわっていた。
「――っ」
適当に暇つぶしにとそこらの乱雑に散らばった書巻を漁ってみるが、どうしても綴られた文章を紐解くたびに、何故か否応なしにあの少年の顔を思い浮かべてしまう。
それもそうだろう。
何故ならば、あれほど鮮明に正真正銘の刀身を首筋に添えられたのだ。
誰であろうともあの情景を忘却してしまうのは至難の業であろう。
否、それとも――、
「……ないな」
幾らなんでも、そんな物語があってたまるか。
ヒロインに殺人未遂の行為をしやがる王子様がいる物語なんて、この広大な世界のどこを探しても存在しないだろう。
故に、これは色恋沙汰などではない。
だが――、
(……自己嫌悪は、おさまった)
幾度となく、己を責め立てていた。
しかしながら、生きたいとそう根底で叫びながらも、消えたいなんていう恥知らずなことは、もうしたくない。
折角、それを自覚できたのだ。
ならば、今はこの感情を大事にしたい。
でも、一つ疑念がある。
(……こんな私でも、生きていいの?)
シルファー・ルシファルスは実に罪深い少女だ。
それは本人自身が否応なしに理解している。
だが、それでもなお魂から生きたいと、そう思えてもいいのだろうかと、そんな疑問を抱くようになったのだ。
その正答を究明することは、未だ叶っていない。
一体全体、どうやったらその回答に辿り着くことができるのだろうか、皆目見当もつかない。
――否。
理性は、その方策を理解できてしまっている。
自分に、確固たる本音を吐露させたあの少年ならば、この葛藤さえも容易く決壊させてくれるのではないか。
だが、それには多大な不安がある。
相手は、王国を支える四柱の一角、ルシファルス家の一人娘にさえも、あれほど辛辣な声音を吐き出す少年だ。
最悪、またあの悪夢の後戻りである。
だが、それでも確実に答えに至ることはできると、そう確信できてしまう。
「うぅ……本当にどうすればいいんでしょうか……」
枕に顔を埋め、そのまま「はあ……」と溜息を吐く。
と、その時不意に前兆もなくシルファーの私室の扉が開いた。
「おや……寝ていたのかな?」
「……パパ」
パパことルシファルス家現当主であるヴィルストは微苦笑しながら、ちらりとシルファーを一瞥する。
「何か、悩んでいるのかい?」
「……どうしてそう思ったの?」
「言語化できるほどの由縁なんて本当に稀有なんだけど……強いていうのならば、君が私の娘だから、かな?」
「……答えになってないよ」
「アッハッハ、まあいいじゃないか」
「――――」
快活な笑みを浮かべるヴィルストは、不意にその双眸を細め、ジッとシルファーを見据える。
「シルファー、悩み事って色々あると思うけど、君も色々と考えていたんでしょう? それでも、答えが見つからなかったんでしょ?」
「う、うん……」
首肯するが、ヴィルストから溢れ出すどこか自分に通じる雰囲気に瞠目する中、彼はにやりと悪戯気にウインクする。
「恥ずかしいのなら別にいいけど、そうじゃなかったんだったら、私に相談してもいいんだよ? だって、親子なんだから」
「……うん。そうだね」
無論、どこの馬の骨なのかも分からない相手に己の葛藤を吐露してしまうなんで、それこそ愚行でしかないだろう。
しかしながら、その点ヴィルストは無条件に信頼できる父親であるが故に、容易く口先がまわってしまうこととなった。
「――ふむ」
「――――」
シルファーのカミングアウトを聞き終えたヴィルストは、心底複雑そうな表情で天井を仰ぎ――、
「――今更だけど、そのアキラっていう餓鬼、殺していいかな?」
「正義の象徴がなんてことを!」
「シルファー、脳裏に刻んでおくといい。――娘に手を出しやがったクソ野郎は、皆一様に滅ぶんだよ。無論、これは常識だよ」
「六法全書を一度読み直した方がいいと思うよ」
公私共に誠実なヴィルストであるのだが……どうやら、娘を慮るばかりに彼女に手を出したアキラのことを心底許容できないらしい。
そんな父親に呆れながら、シルファーは断固として抗議する。
「パパ、真面目に相談してるんだから、ふざけないでよ!」
「ああ、済まない済まない。ついついクソ野郎への怨念が暴走してしまったようだ」
「クソ野郎って……」
そろそろヤンデレの域に届きそうなパパにドン引きしながら、それでもシルファーはおそるおそる答える。
「――でも、その人は私に自分自身の本音を気づける契機をくれた」
「――――」
「こんなことを私なんかじゃ抱いていいのっていう疑念はあるんだけど、でもこれは偽りない私の魂からの声だから」
「そう、かい……」
「だから、あんまり厳しい罰はしないでよ? 一応は恩人なんだから」
「シルファー、君の意向は理解した。君に免じて、頭蓋を木っ端微塵にする程度でとどめておくとしよう」
「悪化してる! 悪化してる!」
「――? ちょっと何言ってるのか分からないね」
「それ私のセリフだから!」
常人ならば頭蓋を砕かれた時点で死に至るという自明の理に気が付いていないのでは……と胡乱気な眼差しでヴィルストを眺めるシルファーさん。
何故かこの年なのに親に心底呆れてしまう何気ない苦労人である。
「それで……パパは、どうすればいいと思う?」
「ふむ……。最初に問うのだが、君はその難題を解き明かしたいのだね? そして、そのための手段にはクソガ――アキラ君とやらが必須だと」
「クソ餓鬼云々は置いといて……まあ、そんなかんじだよ」
「ほう」
目を細めるヴィルストは、「それならば簡単じゃないか」と呟きながら、まるで不出来な生徒を論ずるような口調で言い放つ。
「なら、躊躇う必要性なんて皆無じゃないか。それに、万が一のことがあったら――存分に殺せるからね♡」
「後者が本音じゃないよね! 違うよね!」
「シルファー、後遺症だね」
「最近パパのキャラ崩壊が凄まじいよ……」
いつもは凛々しく、大衆の目標ともなっていたあの厳格な四血族はどこへやら、今では普通に娘を想うあまりドン引きされる立派な父親である。
どうやらヴィルストは娘が関わると存外平時の性格が瓦解するらしい。
だが、それはともかく――、
「――ありがと。迷いを断ち切ることができたよ」
「――――」
ヴィルストの、からかうような態度は鳴りを潜め、今やその瞳に宿るのは賢者の知恵だ。
だからこそ、そんな賢者へ、シルファーは言い放つ。、
「……パパ、お願いっ」
「何でも聞くとも」
即答であった。




