WоWоW
丁度これ書いている時にP丸様がグッバイ宣言を歌唱していたので
「やあルイン君、落ち着いたかい?」
と、俺は宿敵であるはずのルインへ、そう気安く話かける。
もはや人間としてアウトなレベルで歪み切ったその顔面は、ハンバーグと形容されてもなんら違和感を抱くこともないだろう。
「君が黙らないと僕の顔面を滅多打ちにするっていう三秒前にそれを実行したからね」
「そうだね今日の朝ご飯はステーキだね」
「どうして、僕をじっと見つめるのかな」
「そんなの……察してよ」
「どうして君は鉄筋さえもバターのように切り裂けそうなナイフを当然のように所持しているのかな?」
「知りたい? 身をもって知りたい?」
「なんでもないです」
俺の優しい説得にルインはまるで関わってはいけないキ○ガイから目を逸らすかのように顔を背けた。
酔っているのかもしれない。
「ルイン、そろそろおぞましき貴様の生態家について言及した方が賢明だと思うぞ」
「何の益体もないな」
「理由なんて、そんなのいらないだろ……!」
「ちょっと何言ってるのか分からない」
直後、ルインのおぞましい顔面は瞬時に逆再生でもしたかのように修復され、元の端正な、端正な……端正な……
「何!? 性悪の上にイケメン!? 爆発しろよ!」
「誉めているじゃないか」
「どうせその耽美な容姿で数々の乙女を誘惑して、好き放題してるんでしょ! このヤ○キン漢め!」
「けなしているじゃないか」
捉え方次第である。
と、ルインは心底呆れたように嘆息しながら、まるで夕食の献立でも語るかのようにその真相をカミングアウトした。
「――まあ、この体は僕本来のモノじゃないんだけどね」
「――! 最低! 何!? そこまでしてイケメンになりたいの!?」
「普通倫理観について憤慨すると思うよ。 それと、君こそそれなりに端正な容貌ではないか。 己を卑下にするのも大概に――」
「ええ? ま、まあ確かに万年に一人の美少年ともいえる俺ですからね? その評価も中々に妥当だと思うよ」
「君はもう少し顕著に生きてばモテるのかもしれない」
もう既に沙織は俺にメロメロなので、この難儀な性格のままでもさして問題は生じることはないぞ。
「……そういや、沙織曰く『寄生』だって」
「そういうことだよ。 僕たち加護……いや、この場合『呪い』と、そう形容した方が正確かな。 ともかく、僕たちはそうして肉体を転々としながら、今日この日に至るまで生きながらえているんだよ」
「そ、そんな……! 女の子になれるんだって!?」
「だから、論点そこ?」
もちろん、これまでの一連の事件や沙織の証言からある程度その権能についての目安はたっていたが、断定されると思わず瞠目してしまうだろう。
というか――、
「俺の文法知識が間違いじゃなければ、今お前複数形を利用した気がしたのですが」
「目聡いね。 ――そう、僕以外にも、シオンやキルを筆頭とした同胞たちも存在するよ」
「――――」
失神してもいいだろうか。
「……同格と思ってもいいのか?」
「うん、概ね正解さ。 いや、彼の成れの果てや、シオンは正直厄介さにおいては、僕とは比較にmならない」
「ちょっと何言ってるのか分かりたくない」
もはや悪夢としか言いようのない自己紹介である。
この世界を今の今まで牽引していった存在と、同格異常が複数?
それらの力量は、少なくとも沙織を上回る品物であることは自明の理であり、必然相当俺の頭を悩ませる。
が、一つ希望的観測が。
「だ、大丈夫! 全員お前が引き連れてくれているのなら……!」
「安心して、シオン以外全員自由気ままに生きてて、好き勝手やってるから」
「あー、あー! 聞きたくない!」
基本的に俺は最悪の場合を想定して物事を思案しているのが、こうも悪い意味合いで予想通りの結果は中々に稀であろう。
「……交友関係は……あっ、なんでもないです」
「どうして君はそんなに申し訳なさそうな顔をするのかな」
だってね……ぼっ○だからね……。
「シオンとは目的が一致しているから同盟関係を構築できているよ。 キルに関しては、多分リンネに付き従っていると思う」
「――――」
『誓約』を反故した際に生じる天罰は……到来しないな。
つまること、今語ったことの一切合切は全て事実であるということだ。
「……余談なんだけど、そのリンネって誰?」
「おや、どうして君は数ある名の内彼を選んだのかい?」
「あー、理由はない。 強いていいうのなら――運命、かな」
「君、ゲロ袋を携帯していないだろうか」
「ナイフならお手元にあるよ」
用途はナ・イ・ショ♡
「ああ、そういえばリンネの件に関してだったね……。 『傲慢』の息子に憑依したのが災いして逆に取り込まれた哀れな奴さ」
「ふーん。 じゃあその『傲慢』の息子ってのは?」
『傲慢』関連ならば、もしやレギウルスのことを指しているのではないかと一瞬思うが、そう仮定すると様々な不都合が生じてしまう。
実際それは俺の早計であったようだ。
「リンネは傲岸不遜っていう四字熟語の体現者みたいな奴で、なまじき実力があるから相当厄介だよ」
「じゃあそいつが沙織へ牙を剥く可能性は?」
「分からない。 さっき言った通り、彼の精神性は到底理解できないような品物なんだ。 余人に推し量ることなんて、できやしない」
「いつになく辛辣ですねルインさん」
「――。 彼とは、紆余曲折あってね」
「へえ。 それで息子をもがれたの」
「今理解した。 この世には彼以外にも話が通じない輩が存在することを、否応なしに」
「なんと! どこにそんな面倒極まりないキ○ガイが存在するんだ! 是非とも、駆逐してやるぞ!」
「へえ、自殺してくれるんだ」
「??? 頭の病院に行った方がいいと思うよ」
「君がね!」
知人の知能指数が猿以下、否猿と比較することさえも無粋なレベルで、ショックを受けてしまっている今日この頃。
それはそうと、
「……リンネに関しては、まあ理解した。 キルとやらはともかく、他に『呪い』は存在しないのか?」
「いや、一名存在するのだが……『円卓』により完膚無きままに消し飛ばされたよ」
「当然の末路だね!」
「いや、確かに僕もあのクソ野郎が死んでくれてせいせいしてるんだけど、それにしてもその態度は駄目だと思うよ」
「同胞の死体に興奮している奴がよくいう」
「言い方! 言い方!」
文化の違いって……、悲しいなあ。
変態仮面の概要見た瞬間噴き出しました。




