逆鱗に触れ
夏アニメ、楽しみですね。
個人的にはジャヒ―様云々に期待しております。ロリですからね
「……どういう意味かな?」
「 もしかして、それすらも理解できないカンジ?」
「いや、そういうワケじゃないのだが……」
当惑したようにルインは首を傾げる。
とりあえずふざけるのは一旦中断し、さっさと本題を告げる。
すると、何故か殊更に首を傾げる始末である。
なにせ、俺が切り出した内容は不可侵条約云々ではなく、それにはほとんど触れないような内容なのだ。
が、直後聡明な彼はその真意を理解する。
「……成程、情報不足か」
「そりゃあ、俺だってね人間なんだから、しょうがないでしょ?」
「ごもっとも」
そもそもの話、沙織の脅威をなり得る存在があまりにも不特定多数過ぎるのだ。
本体の沙織の力量は甘く見積もって龍と互角に太刀打ちできる程度。
これだけ聞くとそれなりの強者と思われるだろうが、言ってしまえばその程度。
『神獣の器』故にある程度の力量は保証されているのだが、しかしながらそれにしても弱すぎるというのが本音だ。
(やっぱ、『術式改変』云々が強く作用しているのか)
『術式改変』は魔術師において雑多に存在する魔術の中でも、なによりも重宝するべき品物である。
それを扱えないというのは存外痛手だ。
だが、観点を変えてしまうとそれはそれで幸福なことなのかもしれないな。
閑話休題。
ぶちゃけ、上記の理由により沙織の実力は依然微弱。
今の状態の沙織と太刀打ちするのは容易く、たとえ借り物の魔術を駆使したところで結果は変動しないだろう。
故に、沙織の脅威となり得る敵は無数に存在する。
しかも、この世には別世界が幾重にも重なっているのだ。
それこそ俺であえも圧倒するような輩が存在する可能性がある中で、不用意に『誓約』を結ぶのは短慮以外の何物でもない。
それに、ほぼないと思うが実際のところ脅威は『厄龍』以外にしか存在しなんていう都合の良い可能性も存在するしね。
「――存外、身長だね」
「そりゃあ、沙織の今後に関連することだからな。 幾ら軽薄な俺とて、この点に関しては妥協することは許されねえよ」
「ふむ……」
と、宣言する俺をどこかルインは困惑するような様子で頭上に疑問符を浮かべながら、疎むように問う。
「――理解できないな」
「ああ? 理由だったらさっき説明したろ」
と、怪訝そうに俺は睥睨する。
「違うよ。 君の精神性はシステム時代のデータを閲覧しているから、否応なしに理解しているんだよ。――だからこそ、理解に苦しむ」
「――――」
精神性……魂魄のことか。
確かに不用意に魔術師を増加させないためにも、そのような措置も必要不可欠であることも理解できる。
だが、それが何故このような形で出現するのだろうか。
と、相手の腹を探ろうとする俺に対して、ルインは目を細めながら告げる。
「君の魂は異常だ。 ――あんなの、到底人間のモノではない」
「――――」
「だからこそ、理解できない。 何故君はそうも彼女に執着する? そのような機能、とっくの昔に失われたと思ったが」
「ハッ」
まあ、確かに機械が人間を愛してやまないなんて法螺話、信じる方があほらしくなってしまうよな。
あるいは、それこそがカモフラージュであるかのように。
好意というベールにより、その真意を包み隠していると、そう解釈してもなんら可笑しくはないだろう。
「――殺すぞ、雑草」
「――――」
何の前触れもなく周囲へ飛散していった激烈な殺気に、思わずルインは素早く跳躍し、後退してしまう。
威圧の魔術は用いていなかったのだが、どうやら存外脅かしてしまったらしい。
まあ、奴がどれだけ萎縮しようが構わない。
その程度で溜飲が下がる程度の憤慨を俺が覚えいると思っていたのならば、それは大間違いである。
「心底不愉快だ。 もしや、それほどまでに八つ裂きにしてもらいたいのか?」
「……単純な実力だけでいえば、僕の方が上手だと思うがね」
「はあ? ――自惚れるのも加減にしろよ、三下」
「――――」
実際のところ、仮に全面的な死闘となった場合、それなりに激戦になるだろうが、それでも『花鳥風月』により増大した『天衣無縫』が大いなるアドバンテージとなることは自明の理である。
この環境だと、十二分に勝算はある。
が――、
「生憎のところ、俺は感情が叫ぶままに行動することのできない難儀な性格なんだよ。 ――次は、無い」
「……痛み入るよ」
「ハッ」
と、ルインの戯言を鼻で嗤う。
ふと、直後ルインは実に感慨深げに嘆息しながら、今にも消え入りそうな掠れた声音で
「……やはり、君なら――」
「? どうした?」
「……いや、なんでもない」
「――――」
君なら?
元々ルインの思惑の一切合切が不明慮であるのだが、しかしながら先刻呟かれた声音はこれまでとは一線を画すモノだ。
それまでの軽薄な態度には宿っていなかった、幾千年もの想いが溢れ出したかのような、そんな――、
「――。 さて、そろそろ本題を切り出そうか」
「……まあ、そうだな」
だが、今は眼下の問題を解決する方が先決であることは自明の理であるので、俺は目を伏せながら条件を提示する。
「知っての通り、俺は相当慎重な性格だからさあ、情報を開示されなくちゃ判断できないワケですよね、はい」
「……唐突に軽薄な態度に後も度ししたね」
「これが俺の芸風なんだよ。 理解しなはれ」
「……はいはい」
もはやそれを指摘しようがなんら効果を及ば差ないと、そう悟ったのか、ルインは苦笑しながら話題を切り出した。
「――それなら、僕にも条件がある」
「言っとくが、無理なモノは無理だぞ」
「いいや、至って簡単なことさ。 ――君の、その不可解な魔術に関してのお話だ」
「――――」
推し量るに、既にルインはこれまでの一連の流れを理解し、そしてある程度とはいえ俺の魔術の目安はたっているだろう。
だが、確信にまでは至っていない。
まあ、概要が概要だ。
『天衣無縫』の実態を理解するのは、究極的に術師本人からの情報の開示こそが必要不可欠となるワケだ。
だが――、
「――本当にそれだけか? 言っとくが、今回俺は色々と問うぞ。 後で難癖をつけられてもしらないからな」
「いいや――十分すぎる」
「――――」
俺の魔術の用途は多彩であるが故に、ルインは『天衣無縫』の何にこれほどまでに恋焦がれているのかが理解できない。
だが、現状俺はその真意を探る必要性は微少だ。
ならば、やむを得ずにここはスルーしておくが吉であろう。
「んじゃ、契約成立ってことで相違はねえな?」
「無論だとも」
そうして俺たちは流れるかのように『誓約』を結び――そして、互いに開示される情報に当惑することとなった。




