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VRMMОで異世界転移してしまった件  作者: 天辻 睡蓮
五章・「モノペウス・ザ・ネーロ」
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『約定の大地』


 本当はえんしぇるのなんちゃらにしようとしたんですけど、土壇場で忘れて結局これにしました。


 正しくは約束の地ですね













――未来。


 それこそが、魔王が見据えている景色。


(……推し量るに、魔王が求めるのは共存という形式か?)


 おそらく、これは今後のための布石。

 例え『老龍』が滅ぼされたとしても、問題なく手を取り合えるようにしていくための方策であるのだ。

 

(ふむ……仮に私のこの推察が的を射ているのならば、どうやら魔人族は今後私たちと争う所存はないようだな)


 そうでなければこんな面倒な真似はするまい。


 そして、その背景には確実に王国が佇んでいる。


(何故に王国がそれを承認し、更にこのような方策を以て片棒を担ぐような行為をした真意は依然として不明……)


 信条の変革?


 否、その程度では埋まらない溝が人族と魔人族には、ある。

 ならば、一体全体何が彼らをこうも突き動かしているのか、それは恐ろしい程に理解できずに内心首を傾げた。

 だが、これだけは告げられる。


「……ふむ。 一応、理解はしました」


「――――」


「ですが――いささか、着眼すべき要点を履き違えているようですね」


「――。 ほう」


 その宣戦布告とも見て取れる発言に愉快そうに魔王は目を細める。


 虚勢か、腹の奥底から浮かんだモノなのか。

 どちらにせよ、グルンが断言する発言になんら変更はない。


「宣告法王殿が仰った通り、不測の事態なんて、そもそも既に先手を打たれている現状、対策なんてほとんどが不毛でしょう」


「――――」


「それならば、個の戦力を増大させるのが先決なのでは?」


「……まあ、一理あるね」


 苦々しそうにそう嘆息する魔王。


(さて……これで諦観するか?)


 仮にそうであるのならば、期待違いもいいところ。

 魔王という存在との知恵比べに多少なりとも呆気なさを感じるグルンであったが、耳朶に指先で触れた彼の発言によりその懸念は杞憂となった。

 

「――『約定の大地』」


「――――」


「理解できました?」


 おそらく、彼が何の前触れもなく吐き出した単語の意味を推し量ることが可能なのは、この場にいる超小数人であろう。

 だが、それでもその声音は確かにグルンの鼓膜を響かせた。


――この青年は、今、『約定の大地』と、そう言ったか。


 関係者?

 否、そもそもの話、適任者は重鎮でこそあるが、しかしながらある程度抑えめの地位であることが望ましい。

 だが、この青年は紛うことなき『王』。


 不適切と、そう判断する。


 ハッタリや虚言の類か。

 

(いや……この舞台でそれはない)


 幾ら何でも無知の状態でその単語に辿り着くのはどのような明晰な頭脳を得ていようが、到底不可能である。

 つまり――彼は意図的に揺さぶりをかけたのだ。

 そして十中八九、グルンを取り巻く問題も既知。


「……誤魔化せば?」


「無論、口外させてもらう」


「――――」


 信用、信頼。

 それらを得るのに、一体全体どれほどの歳月を要したのか。 

 それを、このような形で無為にするのはあまりにも惜しく、致し方なくグルンは白旗を掲げることとなった。


「しょうがないですね。 ――私は、彼の物言いに賛成の意を表明しますよ」















 それまで、グルンは明らかに『魔王』の発言に否定的であった。


 しかしながらそれを撤廃するその発言に誰しもが瞠目し、同時に脳裏によぎる『約定の大地』が宿す多大な意味に戦慄する。


(はあ……今回は完全に失策だ)


 今後の展開を考慮するのならば、今この瞬間暴動を巻き起こすのはあんまりな愚行であることは一目瞭然。

 

「……どういう意図だ、グルン卿」


「そのままですよ。 単純に彼の意見に感銘を受け、それに賛成した。 この尊重されるべき意思になにかご不満が?」


「大いにある」


「――――」


 反論を封殺する心算で言い放った声音であったが、どうやらこの帝王にはなんら痛痒にも感じなかったらしい。

 その事実に目を細めるグルン。


「貴君は、何故この場に及んで主義を曲げる?」


「それは前述の通りですけどね……」


「あの程度の言い訳が通じるとでも? 仮にそれを本心から信じて疑わないのならば、正気を疑うな」


「相変わらず、ご辛辣なことで」


「その嫌味は私にとって一種の誉め言葉だ」


「――――」


 毅然としたこの青年を弄するのは容易ではないのは、最初から分かっていた。

 帝国に在籍する面々の傾向としては、彼らが常日頃忘れることのない主義の影響か、ひたすら我を通そうとするというモノ。

 それがこの場で大いに機能したワケだ。


「あの豹変、口裏を合わせすようなモノではないな。 ――だからこそ問うのだが、『約定の大地』とは一体全体如何なるモノなのか?」


「――――」


 結局のところ、それこそが議題の焦点。

 それまで堂々と怖気づくこともなく、グルンは魔王の意見を切って捨てていたのに、その矢先にあの豹変だ。

 必然、誰しもそれを怪訝に思うだろう。


(……本当に、帝国人は厄介だな)


 どこまでも己が納得するまで付きまとうが如き追及を披露する帝国クオリティーに舌を巻くそんなグルンへ、フォローが。


「――まあまあ。 別に、話が円滑に進むんだからいいんじゃありませんか」


「私が議題にしているのはその議題の果てにあるモノだ。 それこそが、私たちがこの場に一堂に会する由縁なのだろう?」


「ええ、ご名答だよ」


「――――」


 目を細めるライカに対して、魔王はのらりくらりと飄々な雰囲気を崩すこともなく、癖のように耳朶を弄る。


「私たちが一致団結する。 その末路に不満でも?」


「大いにあるな。 確かに、戦乱こそ帝国の代名詞でこそあるが、しかしながら平穏こそが最重要であることもまた事実。 ――だが、仮にそれが虚言の類であるのならば?」


「――――」


「貴君らの真意は依然として不明。 その腹の底に秘めた真意を露呈しない限り、我々の納得を得ることなど到底不可能であることを知れ」


「ふむ、ではあなたは、洗いざけ吐露しろと? 政治官相手に?」


「――――」


「交渉の場において、駆け引きは常套手段だよ」


「確かに、その側面を私は肯定しよう。 だが、それを行わないルートの方が最短である可能性も常に存在することは既知であろう?」


「勿論」


「――――」


 そのどこまでも他者の魂を抉り取るような物言いに、特に深い想うこともなく、アンセルはすっと目を細める。


「私は、貴方のその断言を肯定しよう。 舌戦の奥深さは、ある種武術の類に通じるようなモノがある」


「同意しよう」


 前置きし、そしてアンセルは薄い笑みを浮かべ――、


「――『叡智の魔導書』。 ご所望ですね?」

 

 そう、問いかけた。



 


 お酒って、美味しんですかね。


 年が年ですので未だ分かりませんが、どんな味なんだろうなあと好奇心を疼かせてみたり

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