未来を見据えて
たぶんヒロアカのサブタイトルのパクリです。
やっぱりヒロアカって安定の面白さがありますよね。
「――――」
依然、円卓を鋭利な気配が渦巻いている。
「貴君の意図が分からぬな。 そもそもの話、既に魔人族との同盟に関しては既に十二分に済ませてある筈だ」
「名義上はね。 でも、この状態のままで始まればどうなると思うかな?」
「――空気を吸うな、気色が悪い」
「――。 法王」
「辛辣なのは自覚しているが、今回ばかりは相手に非があるな。 存在していることとか、ね」
「――――」
法王の暴言をライカは咎めようとするが、しかしながら法王の返答はにべもなく、反省の色は決して見られない。
その様子にグルンは嘆息し、仕方がなく挙手する。
「帝王殿の問いかけに便乗する形ですが、私も彼の疑問に同意しますね。 そもそも、この円卓が組まれた意義が分からない」
「――――」
「主催者として、そこら辺を明瞭にしておくべきでは?」
「ふむ。 一理あるね」
「――――」
決して魔人族と相容れない立場である法王が魔王の嘆息に顔を顰めるが、帝王の鋭い眼差しでそれも自粛する。
それを確認した魔王は、にこりと愛嬌のある笑みを浮かべ、告げる。
「――そもそもの話、今の状態では『老龍』を打倒することは到底不可能ですよ?」
「ほう」
明言される事項にライカは目を細め、その真意を問う。
「それは、如何なる意味合いで?」
「単純明快だよ、君達。 『老龍』の強大さはこの場に参列する君たちも否応なしに理解していますよね?」
「……汚害、上から目線な口調な慎め」
「それは、お互い様ではないのでは?」
「貴様と私は立場が大いに異なる。 劣等種が粋がるなよ」
魔王はまだしも、法王はその敵愾心を誤魔化すことなく、いっそのこと清々しく思える程に剥き出しにしていた。
彼のルーツを知る者であれば、ある程度は納得できるだろう。
だが――それでも、流石にそれは無礼が過ぎる。
「――法王。 かつてのよしみであろうが、この場にいる以上誰しもが平等だ。 侮辱するのならばそれ相応の仕打ちとなることを重々承知しろ」
「それは、脅迫で?」
「いや――ただの、宣言だ」
「――――」
啖呵を切る帝王を心底忌々し気に睥睨するその様に疎ましく思いながらも、グルンはそれを諫めようとする。
「まあまあ。 二人とも、そういきり立つ必要もないじゃありませんか」
「お互い、譲れぬ信念がありますので」
「つくづく、我ながら愚かしいな」
「はあ……」
ライカと法王が犬猿の中であるのは周知の事実であるので、グルンもこれ以上それを指摘することはない。
だが、それでも何気なく一触即発の張り詰めた雰囲気は霧散し、鋭いがそれでも数刻前と比較すれば、空気は幾分かはマシになっていた。
「――で? 現状では敗北するとは、どういう意図で?」
グルンは嘆息しつつも、ようやく話の本題を切り出す。
それにアンセルは目を細め、薄い笑みを浮かべながら告げる。
「そのままの意味合いですよ?」
「それでは言い方を変えます。 何故、そのような結論に至ったのか、愚昧なる私にも理解できるように、どうかご指南願えますか?」
「ふむ……」
畏まった物言いに一瞬耳元に指先を触れさせ、告げるか否かを思案し、そして数瞬後容易く結論を導き出す。
「現状、私たちはともかく君達――特に、法国の皆さんは私たち魔人族を大いに毛嫌いしている。 この見解に差異はないね?」
「ええ。 私みたいな変わり者や、フィール国王のような寛大なる、お人でもない限りはそうですね」
「――グルン殿、失言が過ぎますよ」
「おっと、これは失敬」
魔人族に対して敵意を抱いていないという発言は、それこそ人族の一切合切を敵に回すという宣言に他ならない。
無論それが交渉における最低限の礼儀であることは心得ているが故に罰っすことはないが、それでも申し訳程度に苦言を申す。
「脱線しましたね。 確かに、私たち人族は大いに貴方たちへ敵愾心を剝いている。 自明の理ですよね」
「ええ、その通りだよ」
「――――」
二百年。
それだけの歳月を戦乱に費やした代償に凄まじい死者を続出させたその大罪は言うに及ばず、その他諸々。
それらが積み重なり、魔人族は諸悪の代名詞と化すこととなった。
無論、それも誇張の類や優秀な兵を得るために植え付けられるモノでしかないが、それでも抱く敵意は確固たる事実。
「そんな、火を見るより明らかなことを何故今更?」
「いえ、我々と君達とでは大いに価値観が異なっているのでね。 多少なりとも見解に差異が生じていると期待したまですよ」
「――――」
その真意が事実のならばすぐさま魔王をその護衛ごと唾棄してしまうのが最適なルートであろう。、
しかしながら、腐っても彼は『王』。
おそらく、グルンには計り知れない由縁があるはず。
そう解釈し、グルンは視線で続きを促す。
「現状、私が手回しをし、魔人国内に君達人族に敵意を抱く存在は、ほぼ消え去ったよ。 今では全員が協力的だ」
「……洗脳でもしました?」
「スピーチが洗脳に該当するのならば、そうでしょうね」
「――――」
政治家にとって、演説一つでありとあらゆる価値観を変革してしまえるだろう。
それは一人の政治官であるグルンも否応なしに理解している。
が、例え魔人国に放送器なんていう未知のアーティファクトが流通していようが、この短時間でそれを成すのは到底不可能。
(何か種があるな……)
そう察知するが、生憎情報があまりに少なすぎる。
考察は、また別の場で。
「それは重畳です。 ならば、なおさら門田は皆無なのでは?」
「いいえ、そもそもの話、今回の事変はたとえ不俱戴天の仇であろうが相棒であるかのように信頼していなければ生き残れない過酷なモノになることが予測されている。 断言しますが、今現在の状態では、連携なんて到底不可能だよ?」
「ならば、連携しなければいいだけだろう」
そう断じる法王であるが、しかしながらそれは浅い思考と、そう辛辣に評論する他ない短慮であろう。
「戦場において、予想外の出来事なんて幾らでもあるよ。 だからこそ、それに備えるのが我々の役目なのでは?」
「下らん」
「――――」
そう乱雑に切って捨てる法王。
しかしながら、少々短慮な彼とは異なり、それなりの手腕をもつ政治官のグルンの見解は大いに異なった。
(……成程)
確かに、法王が切って捨てる程にそれはあまりに微弱な問題であり、不測の事態といってもその程度独断で切り抜ければいい話の事。
ならば何故、今更になって魔王はこの聖堂に足を踏み入れているのか。
おそらく――彼が見ているのは、未来だ。




